TEDカンファレンスで世界に発信された命がけの脱出劇

「脱北女性」が明かす驚くべき真実

2013.07.12 FRI


「イ・ヒョンソ:北朝鮮からの脱出」と題されたプレゼンテーション ※この画像はサイトのスクリーンショットです TED Conferences, LLC
様々な分野の人物が講演を行い、その模様を動画配信している世界的講演会グループTED。そのTEDの舞台で今年2月、北朝鮮出身の女性が語った内容が、世界的な注目を集めている。

彼女の名はイ・ヒョンソ。かの国では比較的裕福な家庭に生まれ育ち、祖国が深刻な飢饉に見舞われた90年代後半、14歳の時に中国国内の親類の元に送られた。

脱北者として摘発を恐れながら10年を中国で過ごし、その後、韓国で大学を目指す。が、彼女からの送金が原因で家族が一種の流刑に処せられることになったとの電話を受け、中朝国境から家族を脱北させる。

そして、どうにかラオス国境までたどり着いたものの、そこで家族が捕まってしまう。役人に賄賂を渡して通してもらおうとしたが、お金が足りず…。これまでの半生を彼女が切々と、それでいて力強く英語で語るさまが、12分ほどの動画に収められている。

すべてが実体験であるだけに、その内容は生々しい。北朝鮮こそが地球上で一番すばらしい国だと信じていたこと。“Nothing to Envy”(妬むべきものは何もない)という歌を歌わされたこと。7歳で初めて公開処刑を目の当たりにしても、国家への信頼と誇りは揺るがなかったこと。

しかし95年、飢饉が深刻化していた時期にふと目にした手紙に、彼女は衝撃を受ける。

「この手紙が届く頃、わたしたち家族5人はこの世にいないでしょう。もう2週間も食べていないからです」

祖国がどんな状態にあるのか、おぼろげに見えてきた。その後、衰弱した子供を腕に抱いたまま倒れて死んでいる女性を、駅で見かけた。足を止める人はいない。人の命を心配する前に、自分の命の心配をしなければならないからだ。

ラオス国境で捕まった彼女の家族を救ったのは、バックパッカーの男性だった。カフェで、家族を救う金もなく泣いていた彼女を見かねたオーストラリア人男性が、何があったんだと声をかけてきたのだ。男性はATMから645ポンドを引き出し、賄賂の足しにしてくれた。おかげで彼女の家族は、ラオス国境を越えることができた。

「きみを助けるためじゃない、北朝鮮の人々を救うためなんだ」と男性は語ったという。

脱北という命がけの行為が、ごく普通の旅行者の行動圏内で行われているということにまず驚かされる。それにしても、なぜラオス? と思ったのは筆者だけだろうか?

じつは東南アジアは、脱北者の多くが目指すルートなのだ。中国で韓国大使館や韓国総領事館に駆け込んで韓国に出国できればよいのだが、中国は北朝鮮の友好国だ。中国国内で見つかった脱北者は難民ではなく不法入国者として本国に強制送還されてしまうこともあり、中国から直接韓国に渡ることには困難が多い。

そこで、ラオスやベトナム、タイを目指す脱北者が多いという。北朝鮮と韓国は地理的にはつながっている。だのに、南への脱出を試みる人は、そこまでの遠回りを強いられている。彼女が語ったやりきれない現実は、7月8日現在で178万2817回の再生回数を記録している。
(待兼音二郎)

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