乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×東浩紀(4)

2013.07.26 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「僕の姿を見て、“何かを克服してきた人”と想像してくれる人が多いけど、身近な人間は『こいつは能天気なやつだ』と(笑)」(乙武) 撮影/後藤 渉

乙武洋匡「ひとつのメディアを世の中の声とするのは危険」



乙武: ネットとリアルのコミュニケーションを比較した時、ネット上の声というのがどこまで信用できるかがいつも問題視されますよね。たとえば選挙でも、ネット上では強い批判を浴びていたような候補が、フタを開けてみると圧勝していたなんてケースもある。何をどこまで信じていいのか迷っているユーザーも少なくないと思うんです。

東: そうでしょうね。一例として、僕が『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』という本を作った時のことでいうと、企画段階で関連情報をつぶやいても、Twitter上ではびっくりするほど話題として盛り上がりませんでした。ところが、制作資金をクラウドファンディングで募り始めたら、あっという間に数百万円もの資金が集まった。

乙武: へえ、それはすごい! 話題としては盛り上がらないけど、資金はあっという間に集まった。この現象は、一体どういうことなんでしょう?

東: つまりこれは、興味はあるし支援したいと思ってくれているんだけど、その気持ちを不特定多数の目に触れる場での話題にはしたくないという人が、一定数存在したということですよね。

乙武: なるほど。同じネット上でも“場”によって反応が異なるってことですね。ネットで本心を読むのは難しい…。僕の場合は、ネットとリアルの間にそういった反応の乖離を感じることがあります。たとえば、Twitterではたくさんの人から相談のメッセージをいただくんですけど、彼らはどうやら、僕の姿を見て“何かを克服してきた人”というストーリーを勝手に想像してくださるようなんですね。でも、リアルの僕を知っている友人たちは、誰もそんなふうには思わない。「こいつは本当に能天気なやつだ」というイメージを持たれていますから(笑)。

東: それは面白いなあ。やはり、パブリックなイメージとリアルは、どうしても異なるんですよね。

乙武: あと、リアルな生活の時間帯によって、ネットを見ている層も変わりますよね。僕はTwitterで何かをつぶやく時、その時間帯によって読み手の違いを意識しているんです。たとえばお昼時であれば、ランチしながらスマホをいじっている会社員の人たちを、午後14時頃であれば家事が一段落した主婦の方々を想定しながらつぶやいたりしています。

東: 僕の場合、Twitterでは何も考えずにつぶやいていますけど、メディアの違いはやっぱり意識しているかな。基本的にこういうツールでインタラクティブにぽんぽん発信することと、ひとつの本をじっくり作り上げることは、頭の使い方がまるで違いますしね。

乙武: ネットメディアをひとくくりにすることは危険で、その種類によって見ている層も違えば、そこですくいとることのできる意見の内容や質も異なってくる。これは既存のメディアにもいえることですが、ひとつのメディアだけをもって世の中の声と見なすのは危険ということですね。ネット文化が浸透してきた現代だからこそ、いま一度、自分への戒めとしておかなければ。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
東 浩紀さん
1971年、東京都生まれ。作家、思想家として活躍する一方、ゲンロンの代表取締役兼編集長として『思想地図β』などの書籍を出版。新刊『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』が発売中

取材協力・関連リンク

関連キーワード

注目記事ピックアップ

編集部ピックアップPR

ブレイクフォト