乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×古市憲寿(1)

2013.08.02 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


古市憲寿「戦争の知識より平和をイメージする力の方が大事」



二度と犯してはいけない過ちとして、日本人は戦争の記憶を後世に伝えようとしてきた。でも、時が経つほど、その記憶は薄れていく。戦争を知らない僕たちの世代は、これからどうやって戦争について考えていくのか? 今回は、世界中の戦争博物館を巡り、『誰も戦争を教えてくれなかった』を上梓した古市憲寿氏が、乙武洋匡と語り合う――

乙武: 古市さんは最近、世界中の戦争博物館を巡っていますよね。

古市: 最初はプライベートだったんですけど、ハワイでパールハーバーの「アリゾナ・メモリアル」を訪れた時、予想外に明るい雰囲気で真珠湾攻撃が展示・紹介されていることにびっくりしたんです。戦争も国によって残し方が随分違うんだなと興味を持ったのが始まりでした。

乙武: たしかに写真で見ても、「アリゾナ・メモリアル」のまぶしいほどの白を基調とした外観は、めちゃくちゃ爽やかですよね。日本では戦争関連のミュージアムをああいうデザインでは造らない気がする。

古市: 戦勝国だからというのもあるんでしょうね。同じ戦争でも、向こうでは“成功した戦争”ですから。

乙武: 僕と古市さんは一世代違う(9歳差)けど、戦争との距離感でいえば、そう違いはないと思うんですよ。僕らの両親でさえ、戦時中の記憶があるわけでもないし。

古市: そうですね。ですから、今この瞬間に世界で起こっている戦争や紛争をニュースで見ても、なかなかリアルに感じられないのが現実です。さらに下の世代ならなおさらで、先日、10代の子たちと話していたら、第二次世界大戦が昭和なのか大正なのかもわかっていなくて驚きました。

乙武: 10代だけでなく僕らも、戦争の概要や悲惨さは学校で習っていても、やはり身近には感じられていない。そもそも日本は敗戦国として戦争の捉え方を曖昧にしているから、若い世代の戦争への意識が希薄なんだという批判もあります。でも、古市さんの新刊『誰も戦争を教えてくれなかった』を読んで驚いたのは、戦後処理のあり方を称賛されることの多いドイツでも、じつは若者には戦争に関する知識が根付いていないという事実でした。

古市: ヨーロッパでも、アウシュビッツを知らない若者が増えているそうです。彼らだって教育は受けているんですが、関心が薄まってきているんです。

乙武: つまり、どんな意識でいたとしても、記憶の継承を行っていくのはたやすいことではない。うーん、教科書で勉強したんだけどなあ。

古市: そう。教科書ってそんなにたいしたものじゃないんですよ。右派にしても左派にしても、正しい歴史認識を教育すれば若者が戦争に関心を持つと考える人は多いけど、僕にはそう思えない。たとえば、おばあちゃんなど身近な体験者の話を聞くというようなことがないと、なかなか関心を持つきっかけにはならないんじゃないかと思います。

乙武 :そうだよなあ。でも、いくら戦争の正しい知識を身につけても、そこから“二度と過ちを犯さないこと”を学ばなければ意味がない。

古市: ええ。大事なのは、戦争の知識ではなく、平和をイメージする力をつけることですから。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
古市憲寿さん
1985年、東京都生まれ。社会学者。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍、慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員(上席)。近著に『誰も戦争を教えてくれなかった』(講談社)がある

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