乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×石川大我(5)

2013.11.01 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


乙武洋匡「LGBTにとって理想的な社会ってどんな形?」



乙武: ゲイであることをカミングアウトした石川さんが豊島区議になったことは、大きな話題になりました。区議として、石川さんが具体的に目指していることは何ですか?

石川: 制度を変えられる立場なわけですから、将来的には“豊島パートナーシップ条例”みたいな制度を実現して、同性カップルの権利を条例レベルで保障できるようにしたいですね。

乙武: これはフランスのパートナーシップ法のような、結婚という制度に基づかない、同性同士にも夫婦に与えられているのと同じような各種の権利を保障しようという試みですね。

石川: そうですね、もちろん一足飛びに実現できるものではありませんが。その意味では、僕が区議になったことで、職員の意識改革は少しずつ進んでいると思います。たとえば区に新しいスポーツ施設をつくる場合なども、僕が委員会に参加していることで、「性同一性障害の方の更衣室利用をどうするか」という質問があらかじめ想定され、対策が講じられたりするようです。

乙武: なるほど、男性更衣室も女性更衣室も使いづらい利用者が現実にいるんだと知っているから、役所側も先回りして準備できるわけですね。たしかにそれは石川さんの存在があればこそかも。

石川: それから、豊島区の「自殺予防対応マニュアル」のなかに、セクシャルマイノリティへの対応の項目が加えられたりもしています。これは実際に深刻な問題で、セクシャルマイノリティの自殺率は非常に高いです。データによると同性愛者の半数がいじめにあった経験を持ち、2/3が自殺を考えたことがあり、14%が自殺未遂を経験しているんです。

乙武: そのあたりは教育面の改革も急務でしょうね。僕自身も小学校教員時代、4年生の保健体育で「思春期」について教える機会があったんです。ところが教科書には、「男の子が女の子を、女の子が男の子を、異性として意識するようになる時期」といった記述しか載っていないんです。これはおかしいと思い、僕は「でも、男の子が男の子を、女の子が女の子を好きになることだってあるし、それはおかしなことではないんだよ」と付け加えました。本来、性別を意識しはじめる思春期の段階で、こうしたLGBTへの理解を深める教育をしていかなければならないと思うんですよ。

石川: その通りです。でも、実際にはLGBTは保健体育の教科書にも載りませんし、見て見ぬふりをされているのが現状です。

乙武: 僕にはたまたまLGBTの友人がいたからこうした説明ができたけれど、ほとんどの教師は同性愛の存在に触れることがないでしょう。でも、学校教育のなかで「こうした人々もいるんだよ」と教えるだけでも、ずいぶん社会状況は変わってくると思うんですけどね。当事者だって、自分のことを「おかしな存在」だと思わなくて済むかもしれないし。

石川: ガイドラインが示され、適切な教育がされることで、救われる人は多いと思いますよ。これは東京都の教育委員を務める乙武さんのご活躍に、ぜひ期待したいところです。

乙武: さらに個人的にはもうひとつ、同性愛者同士が子どもを持つ権利というのも、ゆくゆくは考えていかなければならないと思っているんです。

石川: これも難しい問題ですよね。海外では、同性同士のパートナーシップを公的に認める制度がある国が15カ国あるんですが、夫婦と同じように税制上の優遇措置はあっても、なかなか養子をとる権利まで確立されていないのが現状です。何より僕自身、もし養子が認められたとしても、いまの日本の社会で育児をする度胸はない…というのが本音です。両親が男である家庭で育った子どもは学校でいじめられるかもしれないし、将来を考えても、まだまだ懸念材料が山ほどありますからね。

乙武: なるほど。もしかするとこのあたりは、僕らよりもあとの世代が取り組むべき、先の課題かもしれません。でも、本来誰にでも与えられるべき権利なのに、社会の状況によってあきらめざるをえないのは、あまりにも理不尽です。

石川: そうですね。だからこそ、まずできることからひとつずつ取り組んでいかなければなりません。たとえば、友人たちとパートナーを連れ立って集まるパーティーが企画され、他のメンバーは彼女や奥さんを同伴したとします。そこに僕が男性の恋人を同伴していっても、「ああ、そうなんだ」で済んで、みんなで楽しく飲むことができるような社会になればいいですね。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
石川大我さん
1974年、東京都生まれ。2000年から同性愛者であることを公言し、その権利獲得を目指して活動。11年より東京都豊島区議会議員。著書に『ボクの彼氏はどこにいる?』『セクシュアルマイノリティをめぐる学校教育と支援』(共著)ほか

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