乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×小室淑恵(2)

2013.11.15 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


小室淑恵「これからは、残業することで評価を下げる時代」



乙武: 核家族が大半を占める今の時代に、夫婦がそろって育児と仕事を両立するには、労働時間の圧縮が不可欠。そのためには、“働く場所”に対する考え方も変えていく必要があると思うんです。他の国と比べても、これほど住居と働く場所が明確に分けられている国は珍しいですよね。おまけに通勤するために、長い時間をギュウギュウの満員電車で過ごさなければなりませんし…。

小室: そうですね。もう少し働く場所を柔軟にとらえて、モバイルワークや在宅勤務が普及してもいい時代だと思うんですが、なかなか企業側の意識は変わりません。業種によっては情報のセキュリティ問題もあるのでしょうが、調査してみると結局、スタッフを目の届かない場所で働かせられるほどの信頼関係が構築されていないことが、一番の問題なんですよね。

乙武: それから、日本人の残業に対するスタンスにも、たびたび驚かされます。僕はテレビや出版関係者と行動を共にすることが多いのでなおさら感じるのですが、夕食を終えたり、地方取材から夜遅くに東京へ戻ってきた場合でも、彼らはその足で出社することが珍しくありません。もちろん、それだけ差し迫った状況なのかもしれませんが、なかには“同僚がまだ働いているのに自分だけ帰れない”という、日本人特有の気づかいを感じることも多いんです。

小室: 悪しき習慣ですよね。仕事にかけた時間の総量に価値を見いだす風潮が、まだまだ日本のビジネスシーンにはあります。本当は、成果に対してどれだけ時間をかけたかという、「時間あたり生産性」が重要だと思うんですけど。

乙武: その通りですよね。「どれだけ長く働いたか」ではなく、「どれだけ短い時間で多くの仕事をこなしたか」という価値観にシフトしていかないと。

小室: 徐々にではありますが、最近では残業することが評価されない社会になりつつあるのも事実です。なにしろ、日本人の人件費は中国人の8倍、インド人の9倍といわれていますからね。日本人が規定の労働時間以上に働くことは、経営側にとって非常に非効率なわけです。EU圏などでは、前日の退勤時刻から11時間以内に出社することを禁じているほどです。

乙武: へえ! それは日本とはかなり意識が違いますね。

小室: 成熟した国ほど、人が疲弊しないシステムができあがっているんです。結果、病気やうつなどの問題も減りますし。そもそも「過労死」に相当する言葉は海外には存在していなくて、日本特有の現象なんです。だから外国でも「KAROUSHI」という言葉がそのまま使われているという…。これは日本の恥ですよ。

乙武: うーん、それはびっくり。日本人は休むことへの恐怖心みたいなものを持っているようにも感じます。ドイツなんて、勤勉なイメージもあるし経済も絶好調だけど、彼らは夏休みなど平気で1カ月くらいまとめて休んだりするじゃないですか? これを日本でやれないことはないと思うんですが…。

小室: 突き詰めていくと、これは戦後の高度成長期の洗脳の名残なんですよ。国民一人ひとりが馬車馬のように働いて、国際競争力を上げようという国策があったわけです。でも、そろそろ国は国民に時間を返すべき。団塊の世代が高齢化するこれからの時代は、「介護」が大きな社会問題になります。労働時間の短縮や、労働する場所の柔軟化は、来るべき大介護時代を乗り切るためにも欠かせないものですよ。

乙武: そうなんですよね。育児の問題だけでなく、上の世代の介護に労働力や時間を費やさなければならない時代は、もう目の前に迫っています。僕らも本腰を入れて、いまの時代にあった働き方を考え、実行していかなければなりませんね。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
小室淑恵さん
資生堂勤務を経て、働きやすい社会の実現を目指し、株式会社ワーク・ライフバランスを設立。仕事と家庭を両立し、組織の生産性を高めるためのコンサルティングを900社以上に提供している

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