乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×安田洋祐(2)

2013.12.13 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


安田洋祐「経済学は、身近な課題を解決するツールになる」



乙武: 個人の損得勘定や消費の動機などを分析するミクロ経済学。これは前回お話しいただいたギャンブル以外にも、僕らの生活のいろんなシーンに当てはめられそうですね。

安田: もうひとつ、わかりやすい身近な例として、待機児童問題で考えてみましょうか。保育園が足りないなら、本来それはビジネスチャンスなわけで、次々に新たな保育園ができてもおかしくありません。しかし実際には、経営希望者が大勢いるにもかかわらず、そうはなっていませんよね?

乙武: そうですね。やはり、厳しい国の基準が邪魔をしているからでしょうか?

安田: その通りです。保育園には国が認める「認可保育園」、東京都が認める「認証保育園」、そして「私立保育園」の3種類あります。経営者側にとっては「認可保育園」として運営できるのがベストでしょうが、そのためには厳しい基準をクリアしなければなりません。だったら、その基準を緩めて一刻も早く保育園の数を増やすべきだという意見もあれば、緩めるべきではないという既存の認可保育園からの声もあるのが現状です。

乙武: もちろん、子どもを預かる仕事である以上、安全性などの面を踏まえれば、安易に基準を緩めるべきではないという考えもわかるのですが、既得権益を守りたい側面もあるでしょうね。すでに認可されている人たちからすると、むやみに競争相手を増やしたくないという意志が働くわけですし…。

安田: 現状ではまだまだ厳しい基準が敷かれていて、新規参入するなら私立保育園としてやるのが近道だったりします。でも、私立では国や都からの補助金が出ない分、保護者の皆さんから多くのお金を徴収する必要があります。それでは競争上不利で、経営のめどが立ちません。結果として、待機児童がなかなか解消されずにいる現実があるわけです。

乙武: 僕も2011年から都内で保育園を経営しているので、すごくわかりやすい例です。実際、新規参入業者が国の認可を得るのがいかに大変なのかを実感させられたのは、基準のひとつに“保育園経営の経験があること”という項目があった点。それでは新規で参入するにはどうすればいいの、と(笑)。

安田: まさに、既得権益者の思惑が影響していますよね。経済活動のなかには、そういう個々の損得勘定に従った意思決定が随所にあるわけですよ。「早く保育園を増やすべきだ」というのは簡単なことですが、こういった構図を知っておくと、経営者を増やす前に、制度自体を改善する必要が見えてきます。ミクロ経済学というのは、こうした“問題解決に必要な視点”を提供するツールにもなるんです。

乙武: これは保育園の問題だけでなく、課題といわれながら長年解決しない様々な社会問題についても、その原因に迫るアプローチができそうですね。

安田: 本当はこういった話をもっとわかりやすくお伝えするべきなんですが、我々のような学者はつい、「損得勘定」ではなく「インセンティブ」などと横文字を使うから、余計にわかりにくくなってしまう(笑)。僕ら発信する側も、気をつけなければなりませんね。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
安田洋祐さん
1980年 東京都生まれ。経済学者。東京大学経済学部卒業後、プリンストン大学経済学部でM.A.およびPh.D.を取得。主な著書に『学校選択制のデザイン』『経済学で出る数学』(共著)ほか

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