乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×安田洋祐(4)

2013.12.27 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「消費税増税で財政をたて直すか、あるいは増税せずに景気を優先するか。こうした判断には、ひとりひとりが投票を通して間接的に参加しているんです」(安田) 撮影=後藤 渉

乙武洋匡「増税は、人や企業の行動をどう変えるの?」



乙武: これはぜひ安田さんにお聞きしたかったんですけど、来春からの消費税増税が決まりましたよね、でも、増税すれば本当に税収が増えるのか、という疑問もよく耳にします。税率が上がることで消費者の“買い控え”が起こって、結局、トータルでの税収は下がってしまうかもしれないという懸念ですが、安田さん自身はどう思われますか?

安田: 消費者の行動パターンとして、価格が高くなれば購買意欲が低下する、というのは自然な現象です。なので、消費税率が2倍になったとしても税収は2倍には増えません。ただ、税率を上げてトータルの税収が減ってしまう、という心配はしなくてもよいと思います。生活をしていくためには最低限の消費がともなうので、そこまで極端な買い控えは起こらないでしょうから。税率のアップによってどのくらい消費意欲がダウンするか、これはふたを開けてみないとよく分からない、難しい問題でしょうね。

乙武: なるほど。エコノミストの皆さんにとっても、どういう結果が出るのか注視すべき状況なわけですね。

安田: 増税の影響がより顕著なのは、消費税よりも法人税でしょう。法人税が上がると、企業が利益を計上しなくなる可能性が高くなります。企業の利益は、投資などでコントロールできますから、法人税が高いほど、利益を抑えようとするのは自然なことです。

乙武: 会計上のテクニックですね。実際にそういう企業は少なくないんでしょうか。

安田: たとえばよく話題になるのはAmazonです。Amazonはいまや立派なEC大手ですが、稼いだ売り上げを毎年設備投資などにあてていて、会計上は微妙な赤字経営をつづけています。つまり、法人税の支払いを抑える企業戦略を取っているわけです。短期の利益を犠牲にする代わりに、長期の成長を狙っている、とも言えますね。

乙武: なるほど。個人でいうと所得税に相当するものだと思いますが、同じようなことは起こり得ますか?

安田: 一概にはいえませんが、労働時間と所得との兼ね合いで、人の行動パターンは変わります。もし所得税が上がったら、単位時間あたりの時給が減るので、同じ時間働いたとしても給料は減ってしまいますよね。所得を減らしたくなければ、これまで以上に働かなければなりません。

乙武: でも、労働時間だけが増えて手取りが変わらないなら、割に合わないですよね。

安田: そう、まさにそこがポイントです。働く時間を増やしてまで所得をキープしようとするか、それとも割に合わないので労働時間を減らすか、人それぞれの価値観に基づいて行動が決まるわけです。つまり、制度やシステムによって、人の行動が変化する。こうした損得勘定は、わりとオーソドックスな経済学の範疇といえます。

乙武: 今回のお話しで、経済学が個々の価値観と密接につながっているものだということが、よくわかりました。今回の消費税増税に、反対意見と賛成意見が入り乱れたのも、それぞれの視点や考え方の違いですもんね。景気への影響を不安視している人は多いでしょうけど…。

安田: その点については、増税が景気を良くすることはあり得ませんし、今回の消費税増税も景気対策のために行うものではありません。将来的な財政危機を懸念してのことで、景気を優先して「あとでやるか」、それとも財政を考えて「いまやるか」という選択だったんです。僕ら有権者は、投票を通して間接的に、そういった判断をしているわけですね。

乙武: たしかに選挙の時にいくら経済政策を訴えられても、正直、素人の僕らには判断がつかないことがほとんど。でも、こうしてわかりやすく解説してくれる人がいれば、投票する際の判断基準がまたひとつ増えることになりますよね。安田さんには、ぜひ今後も経済学をわかりやすく伝えていく役割をお願いしたいと思います。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
安田洋祐さん
1980年 東京都生まれ。経済学者。東京大学経済学部卒業後、プリンストン大学経済学部でM.A.およびPh.D.を取得。主な著書に『学校選択制のデザイン』『経済学で出る数学』(共著)ほか

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