乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×熊谷俊人(2)

2014.01.10 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「我々は、皆さんの代わりに税金の使い方を判断するプロです。行政の側ではなく、あくまで住民の側のプロでなければなりません」(熊谷) 撮影=後藤 渉

乙武洋匡「政治家が果たすべき役割ってなに?」



乙武: サラリーマンから千葉市の市議会議員になった時、思い描いていた市政の世界と比べ、何らかのギャップを感じたことはありましたか?

熊谷: 思っていたよりも普通の人たちがやっている世界なんだな、ということでしょうか。とくに地方議会というのは地域密着の人が多いせいか、皆さん人間味があって温かかったですよ。

乙武: それが逆に、“これから政治の世界で頑張るぞ!”と燃えていたご自身にとって、ストレスになるようなことは?

熊谷: それはなかったですね。むしろ、この地域とつながっている実感が得られました。私たちのような若い世代はとくに、その街で暮らしていても、そこに根付いていない部分があるじゃないですか? それが初めて、街の隅々までを知る立場になり、街とともに生きている感覚を味わえたというか。もちろん、国家百年の計を論じるのも、男子の本懐かもしれません。でも、こうした場所で地域の人々とともに生きるのもまた、素晴らしいことだと感じましたね。

乙武: なるほど。たしかにそれは、国政では感じにくい部分かもしれませんね。それでも、市議会議員から市長選へ打って出る際は、さすがにプレッシャーが大きかったのではないですか?

熊谷: それよりも、会社員から市議会議員になった時の方がプレッシャーは大きかったですよ(笑)。なにしろ、まったく知らない世界へ行こうという局面でしたから。市長職は、市議会議員になるなら、いつかやりたいと望んでいた職でした。わずか2年目でそのチャンスをいただけたのは、運に恵まれたとしかいいようがありませんが。

乙武: 僕はいまの社会を改善していくには、政治家・公務員・有権者の3者がそれぞれの責任を果たしていかなければならないと思っているんです。熊谷市長は政治家の果たすべき役割とは何だと考えていますか?

熊谷: 常に念頭に置いているのは、行政側のプロよりも、住民側のプロであるべき、ということです。我々は住民の皆さんに選ばれ、皆さんの代わりに税金の使い方をコントロールするという、極めて専門性の高い立場です。そしてこれは、街全体の将来に対して責任を持たなければならない立場でもあると思います。

乙武: その通りですね。政治家の視線はどうしても、目先の1票につながる現在の有権者、とくに高齢者に向いてしまいがちですけど、本来は将来の世代のことを大局的に考えなければならない立場であるはず。

熊谷: とくに最近の政治は、“現在の住民はいいけど、将来の住民は泣く”という選択肢を採るケースが増えていますが、これではいけません。

乙武: かつて経済が右肩上がりだった時代は、いわば“富の分配”をするのが政治家の役目だったと思うんです。ところが、現在のように税収がどんどん減り、高齢化にともなって社会保障費が膨れ上がっている状況においては、逆に“負の分配”をしていかなければならない。いわば、嫌われ役を引き受けなければならないはずが、次の選挙でも当選したいがために、ありもしない富をチラつかせるような政治になりがちですよね。

熊谷: その通りだと思います。

乙武: そして、そのありもしない富の正体が何かというと、借金、つまり未来の人々のお金です。これは欺瞞行為ですよね。でも、熊谷市長はそういった行動を取らず、嫌われる覚悟をもって市政にあたっている稀有な政治家だと思います。なぜ、その役割に徹することができるのでしょう?

熊谷: ひとつは、年齢でしょう。私自身、30年後も生きているわけですから、その時にボロボロになった街で暮らしたくはありません。いま頑張るのは、自分のためでもあるんです。もうひとつは、私は政治家になりたかったわけではなく、やりたいことをやる手段が政治であったに過ぎない人間です。すべてやり終えたら、もう政治の世界に残る必要はないというスタンスでいるから、思い切ってやれるのかもしれません。

乙武: なるほど。実際、熊谷市長は1期目に多くの痛みをともなう改革を実行されているにもかかわらず、高い支持を受けて2期目に入っています。つまり、市民がちゃんと熊谷市長の思い、メッセージを受け止めてくれたということですよね。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
熊谷俊人さん
1978年、奈良県生まれ。千葉市長。早稲田大学・政治経済学部卒業後、大手通信会社勤務を経て、2007年の千葉市議選に稲毛区選挙区から出馬し、トップ当選。09年、千葉市長選に立候補し、当選。現在、2期目。

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