乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×熊谷俊人(3)

2014.01.17 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「叩かれやすい公務員は、見ようによっては非常に気の毒な立場。それで士気が下がり、仕事のクオリティが落ちると、損をするのは市民だということを僕らはもう少し意識するべきかも」(乙武) 撮影=後藤 渉

熊谷俊人「批判が起こるのは、公務員への期待の裏返し」



乙武: 20代にして脱サラして市議になり、30代で市長になるという激動の人生を送っている熊谷市長ですが、今日の活躍は、やはり会社員時代の経験に支えられる部分も大きいと思います。熊谷市長は通信会社勤務時代、どのような業務を担当していたのですか?

熊谷:私が感謝しているのは、企画部門に配属され、各部門間の「調整」をする業務を与えられたことです。同じ社内でも、部門間で利害が対立するケースがしばしばあるのですが、そこで間に入って、互いの利害を調整する役どころでした。

乙武: まさに政治の世界と同じですね(笑)。

熊谷: そうなんですよ。新入社員の時からそういった部署に配属されて、利害がぶつかっている人間同士がどうすれば歩み寄れるのか、どのようなステップを踏めば問題が解決するのかを、体験的に学べたメリットは大きかったです。球拾いのような地味な業務も多かったんですが、楽しかったし本当に勉強になりました。

乙武: 思わぬところで政治家としての原体験を重ねていたわけですね。でも公的な仕事をするというのは本当に大変なことですよね。“叩かれるのが仕事”といっても過言ではないようにすら思えます。

熊谷: たしかに、それはあるかもしれません(笑)。

乙武: 客観的に見て、これは叩かれても仕方がないと思うような事件やトラブルもあれば、そんなことで怒られなければならないのかと気の毒に感じるシーンも少なくありません。千葉市役所のなかでも、後者のケースを挙げたらキリがないのでは?

熊谷: 正直なところ、どうしようもないケースというのもあるんです。たとえば、これは千葉市の例ではありませんが、大阪市で母子が餓死した状態で発見された事件。これには、なぜ行政は気づいてやれなかったのかという批判が多々あります。でも調べてみると、民生委員はちゃんと動いていたけれど、どうしても連絡がとれなかった事実もある。こういった悲劇では、最終的に行政に批判が集まるのもやむを得ませんが、事態を知りようがなければ対応のしようがないわけですから、これはつらい立場です。

乙武: うーん、たしかにそうですね。

熊谷: ただ、そういった意見が出るのは、公務員に対する期待の裏返しでもあると思っています。昨今、公務員に厳しい目線が注がれていますが、私から見れば日本ほど公務員を信頼し、期待してくれている国は、世界的に見ても珍しいのではないでしょうか。

乙武: そうですね、日本人は“お上がなんとかしてくれる”という意識が強いように思います。もっといえば、役割や責任の所在が曖昧な物事に対しては、すべて“行政が対策を講じるべき”と思ってしまっているフシもある。

熊谷: たとえばマンション紛争なども少なくないのですが、合法的に建築される建物については、住民の皆さんがいくら反対しても、我々は超法規的措置を取ることはできません。話し合いの場を設けるなどできる限りの努力はしますが、建築をストップさせる権限は持っていないわけですから。これが難しいところです。

乙武: ごもっともです。公務員を見ていて心配になってしまうのは、何事も完璧にこなして当然、ミスをした時だけ怒られるという立場では、皆さんの士気が上がらないのではないか、ということ。

熊谷: でも逆に、定年を迎えて退職する職員に在職中の思い出を聞くと、市民の方から褒めていただいたことを挙げる人が非常に多いんです。つまり、数少ないお褒めの言葉を糧に何十年も頑張れるのもまた、公務員なんですよね。

乙武: 公務員がやりがいをもって熱心に仕事をすれば、自ずと能率も上がる。その結果、得をするのは市民ですからね。僕たちはあら探しをするばかりでなく、もう少し公務員を評価する視点を持ってもいいのかもしれません。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
熊谷俊人さん
1978年、奈良県生まれ。千葉市長。早稲田大学・政治経済学部卒業後、大手通信会社勤務を経て、2007年の千葉市議選に稲毛区選挙区から出馬し、トップ当選。09年、千葉市長選に立候補し、当選。現在、2期目。

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