乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×熊谷俊人(5)

2014.01.31 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「政治家や公務員に果たすべき役割があるように、有権者にもまた、果たすべき役割があるはず」(乙武) 撮影=後藤 渉

熊谷俊人「選挙の時だけ政治を見ても適切な評価はできない」



乙武: これまで公務員や政治家の役割について伺ってきましたが、選挙によって熊谷市長を選んだのは、有権者なわけです。では、有権者が果たすべき役割は何か、という点を考えてみたいのですが、熊谷市長が有権者の側に望むことはなんでしょうか。

熊谷: まず思うのは、政治や政治家について、選挙の時しかチェックしていない人が多いな、ということです。これまでの数年間の活動を見ていなかったのに、投票の時に適切な評価ができるのか、と疑問を感じます。

乙武: たしかにその通りですね。現在はインターネットをはじめ、チェックしようと思えばいくらでも情報に触れられるのに、これを怠っている有権者は少なくないでしょう。

熊谷: 議会の様子だって中継で見られますからね。政治家の活動をチェックするという意味も含めて、もう少し日頃から目を向けたうえで選挙に臨んでほしいのが本音です。

乙武: たとえば飲食店だって、ミシュランの調査員が来るとあらかじめわかっていれば、いつも以上の料理とサービスを用意するかもしれません。つまり、候補者が選挙活動の際にいい面を見せようとするのは、ある意味当然なわけです。これでは有権者は正しい評価を下せない。

熊谷: 何年も更新していなかったホームページを、選挙前に慌てて作り変える人だって珍しくないですからね(苦笑)。選挙活動時の姿だけを見て判断して、あとから「騙された」となるのは、必然だと思います。

乙武: また、有権者の側には、“前提”を正しく認識しないまま、自分の意見を主張してしまっているケースも多いような印象を受けます。たとえば財政面。「街に○○を作ってほしい」という要望はあっても、その自治体の“懐具合”をどこまで理解できているか。

熊谷: そうですね。ただ、これは我々の説明不足にも原因があるんです。たとえば先日、Twitterで市民の皆さんとやり取りをしたのが、子どもの医療費助成の問題。千葉市ではいま、小学3年生までは自己負担300円で医療を受けられますが、これを「自己負担を無料にして中3まで補助してほしい」という声は少なくありません。仮に小3のまま無料化すると、約3億5000万円かかります。だったら、自己負担300円のままその3億5000万円を上乗せすれば、対象を小6まで拡大できますが、どちらがいいですかと聞くと、ほとんどの市民は後者を選択するんです。

乙武: なるほど。「予算は青天井ではなく、上限が決まっている」と正しい前提が理解されれば、市民の出す答えも変わってくるわけですね。

熊谷: すると今度は、市民の側から新しい提案が挙がるんです。「だったら、自己負担を500円に上げれば、中3まで対象を拡大することも可能ですか?」と。これには我が意を得たり、という思いでした。事実、ほぼ同じ金額で実現できます。このやり取りをすると多くの方は「500円、中3まで」となります。つまり、こちらがちゃんと説明すれば、市民の皆さんもまた、何を優先するべきかを考えることができるんですよ。

乙武: 予算という限られた金額をどのように使うか、それによってどのようなメリット・デメリットが生まれるのかを比較して考えさせる。これは自治体と住民にとって、理想的なコミュニケーションですよね。

熊谷: そういうことです。選挙の際、医療費無料化を叫ぶ候補者は少なくありませんが、無料化することでどのようなデメリットが生まれるかは、しっかり論じなければならないと思います。もし子どもの医療費が無料になったら、市の財政を圧迫するだけでなく、小児科がいままで以上に混雑し、本当にひっ迫した患者の治療が遅れてしまう可能性だってあるわけですから。

乙武: 僕は政治家に求められる資質のひとつに“説明能力”があると思っているのですが、それを確認するためにも、日頃から積極的に候補者の情報に触れ、対話を試みることが重要ですよね。投票することだけが有権者の責任ではないということを、実感させられます。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
熊谷俊人さん
1978年、奈良県生まれ。千葉市長。早稲田大学・政治経済学部卒業後、大手通信会社勤務を経て、2007年の千葉市議選に稲毛区選挙区から出馬し、トップ当選。09年、千葉市長選に立候補し、当選。現在、2期目。

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