[対談]乙武洋匡×土井香苗(2)

当事者にしか差別は語れないの?

2014.05.16 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「人権問題といっても、あくまで自由な立場である僕らから見たそれと、当事者の方々とでは、とらえ方も考え方も異なるんですね」(乙武) 撮影=後藤 渉

[対談]乙武洋匡×土井香苗「人権を考える」(2)



土井: 乙武さんは「人権問題」と聞いたときに、どんなことを思い浮かべますか?

乙武: そうですね、僕が関心を持っている人権問題のひとつに、LGBTがあります。僕はこうしたセクシャルマイノリティの方々の権利主張に賛同して、パレードに参加したりもしているのですが、ときに宗教的な問題も絡んでくるだけに、国によって事情は大きく異なるのでしょうね。

土井: たとえばキリスト教国であるアフリカのウガンダ共和国では、かつて同性愛行為を死刑にできる法案が提出され、これが国際的な大問題になったことがありました。現在は死刑ではなく終身刑に緩和されましたが、問題は解決していません。すべての宗教がLGBTに否定的というわけではありませんが、決して無視できない問題です。

乙武: おそらく同性愛者本人にとっても、自分が信仰する宗教や国家に否定されるというのは、大きな悩みでしょうね。そうした海外の事情に比べると、日本の場合はLGBTの人たちが“虐げられている”というより、“理解されていない”といった方が正確なのかもしれません。

土井: そうですね。それに、そもそも私たちに相談してくれる人というのは、自分のなかで多少なりとも折り合いがついている人なのだと思います。心の底から悩み、苦しんでいる人であれば、相談相手を探すこともなく社会の片隅に隠れているでしょうから…。

乙武: たとえばインドでもカースト制の名残があり、とくに地方では結婚や職業などが制限されています。ところが、彼らが権利を求めて声をあげたという話はあまり聞いたことがない。現地の人に聞くと、「彼ら(被差別層)は彼らで、今の立場や仕事に納得して生きているんだよ」というんですよね。やはり当事者が不満を感じていなければ、周囲が「それは人権問題だ」と騒ぎ立てるのは間違いなんでしょうか?

土井: たしかに、わざわざ私たちがインドへ飛んで、現状に満足しているという被差別カーストの人に、「あなたの考えは間違っています!」と考え方を押し付ける必要まではないんでしょうね。しかし、インドのカースト問題は国際基準からすれば、国家に対して枠組みから変えていくべきと要求すべきですよ。

乙武: なるほど。

土井: 人間というのは、なまじ適応力がありますからね。独裁国家が意外と長続きするのも、そういう側面があります。独裁はイヤだとしても、大勢の人権のためにコストを払う用意がある人はごく一部です。

乙武: ところで、僕自身もよく、こういう体で生まれてきたことで、周囲から「大変ですね」とか「不便でしょう」などといわれるんです。でも、僕は最初からこの体で生まれてきたので、皆さんが思っているほどには不都合を感じていないんです。たぶん、五体満足な人が「手足がもう2本ずつあればいいのに」と思わないのに近い感覚だと思うのですが。

土井: たしかに、近いものがあるのかもしれません(笑)。ただ一方で、政府は車椅子の人もアクセスを保障するなどシステムは整えるべきなんですよね。

乙武: 一方的に我々日本人の価値観を押し付けることは、すべきことではない。でも、国家などから人権を著しく侵害されている人々は、やはり外部からの働きかけによって救っていかなければならない。このあたりの兼ね合いが、人権問題をいっそう難しいものにしているのかもしれませんね。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
土井香苗さん
1975年、神奈川県生まれ。国際NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」日本代表。東京大学法学部在学中の1996年に司法試験に合格。2000年から弁護士として活動を始め、日本にいる難民の法的支援や難民認定法の改正のロビーイングなどに携わる。

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