[対談]乙武洋匡×土井香苗「人権を考える」(3)

幸せな独裁政権はありか?なしか?

2014.05.23 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「僕ら日本人は、人権侵害されていると感じている人が少ないがゆえに、無頓着になりがち。より広い視野をもって、解決のための知恵を絞らなければなりません」(乙武) 撮影=後藤 渉

[対談]乙武洋匡×土井香苗「人権を考える」(3)



乙武: 土井さんが取り組む人権問題のひとつに、独裁政治による人権侵害というのがあります。実際に海外では時折、クーデターによって反政府派が独裁政権を打ち倒すようなことも起こっています。これは一見すると、虐げられてきた民衆が自由を手にした素晴らしいニュースに思えますが、実際は政権交代後に混迷の時代が訪れ、むしろ独裁政権下の方が平和だったりすることもありますよね。こうなると、僕は何が正解なのかわからなくなってしまうんですよ。

土井: 昨今のシリア情勢などは、まさしくそのパターンですよね。いわゆる「アラブの春」では、それまで政党の存在すら許されなかった国に突然、政権政党が生まれたわけですから、いきなり万全な国家運営を行うのは難しいでしょう。日本ですら、国家運営に不慣れな民主党は評価されなかった経緯があるわけですし。だからこそ、革命後の国家が理想的に運営されていくよう応援していくのも、国際社会の役割ではないかと思います。

乙武: なるほど。ちなみになぜ僕がそんな疑問を持ったのかというと、先日訪れた南アフリカでの体験が大きいんです。南アフリカはちょうどアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃から20年になりますが、現在も貧富の差が非常に激しい国でした。これまでは黒人同士支え合ってきたけど、いざ撤廃されると黒人間でも貧富の差が生まれ、彼ら自身が分断されてしまった。政府にも黒人はいるのですが、自分たちが属する富裕層のために動いているような側面もあり、差別の撤廃がそのまま国民の幸せに直結しているわけではないのだと痛感させられました。

土井: そういう現実はありますよね。ただ、アパルトヘイトがなくなれば、自動的に素晴らしい社会ができると楽観することもできません。アパルトヘイト撤廃は第一歩だけど、ゴールではない。実際、アパルトヘイトのような極端な差別がない日本がパラダイスかというと、必ずしもそうとはいえません。制度的な極端な差別がない国なりに、問題や不満は存在します。ある意味で人権活動とは、改善を目指した終わりのない戦いともいえます。

乙武: つまり、悪しきものを撲滅することがゴールなのではなく、あくまでもより良い社会を作っていくための通過点として、努力を続けるのが大切ということですよね。ちなみに、日本国内の人権問題でいま土井さんが最も気になっていることは何ですか?

土井: やはりマイノリティの方々の人権保障です。LGBTの人たちにしても、迫害こそされていなくても、まだまだ問題として認識されていない現実があります。また、虐待や家族の死別などにより実親と暮らせない子どもが、国内に約4万人も存在しています。その9割近くが施設に収容されているのですが、これは先進国のなかで突出した数字です。愛と理解のある家庭で育つことは子どもの基本的権利ですから、里親制度や養子縁組の充実で、早急に対処すべき問題でしょう。

乙武: おっしゃる通りですよね。そして何よりも問題なのは、そういった子どもが国内に約4万人も存在する現実を、多くの人が知らずにいること。問題を知らなければ、その解決策も生まれません。国際的に見れば、日本には著しい人権問題がないように思われている。だからこそ、我々はこういった問題に鈍感になりがちなのかもしれません。ぜひ、今後も土井さんには啓蒙を続けていただきたいと思っています。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
土井香苗さん
1975年、神奈川県生まれ。国際NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」日本代表。東京大学法学部在学中の1996年に司法試験に合格。2000年から弁護士として活動を始め、日本にいる難民の法的支援や難民認定法の改正のロビーイングなどに携わる。

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