[対談]乙武洋匡×湯浅誠「日本の貧困問題」(3)

見えない貧困層にこそ、支援が必要

2014.07.18 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「多くの人々の目には触れにくくても、まだまだ生きづらさを抱えている人は大勢いる。そうした人々の状況をどうリサーチし、支援していくのかが今後の課題」(乙武) 撮影=後藤 渉

[対談]乙武洋匡×湯浅誠「日本の貧困問題」(3)



乙武: 長年、ホームレス支援に携わってきた湯浅さんですが、この問題における現状の課題は何でしょう?

湯浅: 実は、路上生活者の支援というのは、ある意味では難しいことではないんです。そこに困っている人がいることが、一目瞭然ですから。それに対して、ホームレスに陥る寸前の状態にある人々はわからない。家を失って路上へ出てくるまで、我々は支援が必要な方の存在を知ることすらできないんですよ。

乙武: たしかにそうですね。いつ家賃が払えなくなってアパートを追い出されてしまうか、これを第三者が事前に察知することは困難です。

湯浅: そこで我々はNPO「もやい」を立ち上げ、まずは貧困層がアパートを契約する際の保証人になることで、困っている人たちと出会うきっかけを作ったんです。実際、病気によって失業している人や、DVなど何らかの理由で自宅から逃げてきた人まで、彼ら彼女らには様々な事情があることがわかりました。

乙武: 事情がわかれば、解決の糸口が見つかることもある。いわば、ホームレス予備軍の人々を、予備軍のまま食い止めることができます。

湯浅: そういうことです。それに、雨がしのげて寝られるスペースはかぎられていますから、街によって路上生活者を受け入れられるキャパシティが決まっているんです。たとえば渋谷なら600人、新宿で1500人、神戸や京都で500人程度です。新しい路上生活者が増えれば、今いる誰かが押し出されるわけですから、新規の路上生活者が生まれるのを未然に防ぐことは非常に重要ですね。

乙武: また、僕らは「ホームレス」と一括りで考えてしまいがちですけど、実際にはその実態も様々ですよね。路上で寝泊まりしている人もいれば、漫画喫茶を渡り歩いている人もいる。貧困の問題と向き合うならば、路上生活者だけでなく、定住する住居を持たない人全体に目を向ける必要がありそうです。

湯浅: その通りです。2002年にはホームレス支援法が制定されましたが、この法律ではホームレスを“路上や公園にゆえなく起居する人”と定義しています。これがネットカフェ難民の時に問題になりました。ネットカフェ難民がホームレスなのかどうかで、どこの所管になるかが変わってくるためです。ホームレスであるなら地域福祉課の管轄ですし、失業者扱いであれば労働政策の範疇になります。

乙武: なるほど、“縦割り行政”にとっては大事な問題なわけですね。結果的に、どう定義されることになったのでしょう。

湯浅: 結局、ネットカフェにお金を払って泊まっている以上、彼らは“ゆえなく起居”しているわけではないと厚生労働省が判断し、ネットカフェ難民はホームレスとして扱われないことになりました。

乙武: そういったお話を聞くと、僕らの目にはなかなか見えていなくても、この社会には困っている人が大勢いることを実感させられます。ネットカフェ難民にしても、メディアで取り上げられていなければ、大方の人は実態を知る機会はなかったでしょうし。貧困問題にかぎらず、「気づかれていない問題」をいかに掘り起こし、社会全体の課題として捉え直すか。とても重要な視点だと感じています。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
湯浅誠さん
1969年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。2008年末に「年越し派遣村」村長を務めたほか、2009年から2012年まで内閣府参与に就任するなど、貧困問題の解決に取り組んでいる。

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