[対談]乙武洋匡×安藤哲也「父として、社会を考える」(2)

安藤哲也「子供は葛藤させるべき」

2015.12.11 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


(撮影/後藤 渉)

[対談]乙武洋匡×安藤哲也「父として、社会を考える」(2)



教員経験もある作家の乙武洋匡氏と、ファザーリング・ジャパンなどのNPO代表理事を務める安藤哲也氏。ともに3児の父である2人が、今の時代の子育てについて語り合った――。

安藤哲也: 今の時代って自己責任論が強いのですが、子育てについてもそんなムードがあると思うんですよね。ママたちやパパたちのなかには、必要以上に「ちゃんとやらなきゃまわりから何を言われるかわからない」っていうプレッシャーを感じ続け、潰れそうになっている人がたくさんいます。

乙武洋匡: 私もその風潮は感じますが、なぜそんなふうにギスギスし始めたんでしょうね?

安藤: 発端は今から20年ほど前、「少子化」が騒がれ始めた頃にあったと思います。1990年に1.57ショック(※厚生省発表の人口動態調査で、合計特殊出生率が過去最低の1.57になった)が起こり、1995年に当時の厚生省がエンゼルプランという少子化対策を策定しました。その頃から子育て支援事業も増え、税金が投入されるようになった。また、悲惨な虐待の事件も続いています。そうすると子育て家庭を見る目が厳しくなって、「ちゃんとやれ」というプレッシャーが高まっていきます。

乙武: なるほど。経済状況がもたらす心の余裕という側面もあるのではないでしょうか。昔は右肩上がりの時代だったから、年齢を重ねれば自分の収入は増えていくし、食うに困るかもしれないという不安を抱いていた人は少なかった。そういう時代だったから、多少保育園の子供がうるさかったり、困っている人に税金を投入しようと言ったりしても、目くじらを立てて怒る人がいなかったんだと思うんです。

安藤: そうかもしれませんね。僕は今53歳で池袋育ちなんですけど、昔の親ってそんなに子供のことをかまっていませんでしたね。父親も稼ぐために一所懸命に働いていましたし、うちは母親が家事と内職をやってましたから、とりあえず子供はその辺で遊ばせておいて、夕方になると「ご飯よ」って迎えにくるだけ。今みたいに塾や習い事に行かせなきゃというのもあまりなかったし、なんか適当でしたよね。それでも、子供はそれなりに育っていた。時代の変化で仕方がない部分はあるにせよ、今考えないといけないのは「子育て」じゃなくて「子育ち」なんじゃないかと思います。

乙武: 「子育ち」というのは、どういうことですか?

安藤: 父親の子育て、母親の子育て、子育て支援…「子育て」だと主体・主語が親になるじゃないですか。そうじゃなくて、子育ての主役は子供なんです。親は「子育てを一所懸命にやる」のではなく、「子供が安心・安全にすくすく育つ環境を整える」。それが可能な家庭をつくることが、まず親のしなくちゃいけないことだし、子供の成長に沿って、地域や学校、そして社会全体もそれを担う必要があるのではないかと考えます。なのに今は、自己責任のプレッシャーのなかで「子育てに失敗は許されない」と考える親が増え、リスクヘッジや「正解」だけを求めてそれを子供に強いていると感じます。教員経験もある乙武さんの前でいうのもなんだけど、僕は教育っていうのは正解を教えることじゃなくて、まず子供を「葛藤させる」ことだと思っているんです。

乙武: 「葛藤させる」というのは、よくいわれる「指導」とは対極ですね。

安藤: ええ。レヴィ=ストロースだったかな。社会学の本を読んだら、かつて海外の共同体のなかで子育ちがうまくいったのは、その子供の父母の兄弟、叔父(伯父)さんが機能していたからだと書いてありました。日本でいう“寅さん”ですよね。さくらの夫である生真面目な印刷工の博と、いつも茶化しにくる自由人の寅さん。博は息子に「伯父さんみたいなフーテンになっちゃダメだぞ」みたいなメッセージを出すけど、寅さんは逆に、「お前の親父みたいな、あんなマジメなだけの人生の何が面白いんだ?」と甥っ子に匂わせる。ここで息子は「え? 自分はどっちがいいの?」と考える。そうやって葛藤しながら方向性を見出していく方が、子供は絶対伸びると思うんですけど。

乙武: いわゆる“ナナメの関係”の重要性ですね。私は都内で3つの保育園の経営に携わっているのですが、その「まちの保育園」を立ち上げた理由のひとつが、まさに子供たちをいろんな大人と出会わせてあげたいということだったんです。核家族化が進み、お父さんがずっと会社で働いている今の状況だと、基本的に保育園に通っている幼い子供が出会う大人って、お母さんか保育士さんに偏ってしまうんですよね。

安藤: 核家族化するってことは、子供が成長するプロセスのなかで出会う大人が減るってことですからね。

乙武: でもこの世の中には老若男女いろんな人がいるわけで、もっといろんな人格と出会った方が考え方も豊かになるし、おそらく昔はそういう環境があったんでしょう。そう考えると、そういう多種多様な人格に出会える場をつくらないと、本当の意味で子供にとって豊かな教育環境とは言えないんじゃないかな、と。昔ながらの言い方をすれば、近所のカミナリオヤジや、無条件にかばってくれるおばあちゃん。そういう近隣の人たちと触れ合える場所にできたらいいねっていうのが、園をつくったときに話し合っていたことなんです。

安藤: まさにそれが「子育ち環境」ですよ。子供の教育は、ひとつの答えや効率主義で考えちゃだめ。まっすぐ向いている大人もいれば、斜めや横を向いている大人もいて、いろんな生き方・ロールモデルがあるんだよと示す方が、子供にとってはいいと思いますね。

【今回の対談相手】
安藤哲也さん
1962年生まれ。出版社、書店経営、IT企業など9回の転職を経て、2006年にNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立。「育児と仕事を両立し、笑って人生を楽しめる父親を増す」ことを理念として年間200回の講演や企業セミナーを行なうほか、厚生労働省や内閣府の委員を歴任する。2012年には社会的養護の拡充と児童虐待・DVの根絶を目的とするNPO法人タイガーマスク基金を立ち上げ、代表理事に就任。二男一女の父親。

(構成:宇野浩志)

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