[対談]乙武洋匡×安藤哲也「父として、社会を考える」(3)

“少子化問題”なんて存在しない?

2015.12.18 FRI

格好いいパパに!オトコの子育て道場 > 乙武洋匡の「自問多答」


(撮影/後藤 渉)

[対談]乙武洋匡×安藤哲也「父として、社会を考える」(3)



ファザーリング・ジャパン代表の安藤哲也氏は、少子化が問題視されるようになった1990年代から現在にかけて、少しずつ「子育ての自己責任論」が広まっていったと見ている。20年前と今では、子育てにまつわる状況はどのように変わったのか? 作家の乙武洋匡氏との対談は続く――。

乙武洋匡: 20年前と今の子育て状況を比較した場合、私の感覚でいうとそんなに悲観ばかりではないんです。住んでいるのが都心部だからということもあるかもしれませんが、90年代を境に、お父さんが働いて、お母さんが専業主婦という家庭から、共働きに変わってきた。その変化に何も対応できていなかったのが20年前だとすると、今の時代はその変化が所与の条件とされたうえで、どうしなきゃいけないんだっけ? ということを考えられるようになってきています。

安藤哲也: ええ。この20年間の成果が少しずつ見えてきています。

乙武: たとえば、地域社会で子供たちの面倒を見る枠組みや、お父さんが育児にかかわれる働き方の見直し。まだまだ課題が改善されたわけではありませんが、問題点が少しずつクリアになり、解の方向性も見えてきたのかな、と感じます。次の20年は、その解をちゃんと実現できるかどうかが問われる気がしますね。

安藤: 同感です。僕はいまの日本に、「少子化問題なんてない」と思っています。だってもう過去に較べれば「少子社会」になるのは決まりなんですから。「少子化になる! どうするんだ!?」って狼少年みたいに言い続けている人もいるんだけど、いま考えなきゃいけないのは、そういう構造になった社会のなかで私たち一人ひとりが、乙武さんがおっしゃったような働き方の見直しや地域社会の再生を含め、どうやってQOL(クオリティ・オブ・ライフ=人生の質)を高めていくかということなんじゃないでしょうか? つまり「超少子高齢社会で私たちはどうしたらハッピーに生きられるか問題」だけがあるような気がするんです。

乙武: QOLという概念が広まってきたヨーロッパでは、おもに1980年代から「お父さんを会社から地域に返そう、家庭に返そう」という動きが出てきたんですよね。それによって、父親も育児にかかわれるようになったり、逆に女性も仕事を持てるようになったりといった社会変化が表れた。ところが、同じ時期に日本はどうだったかというと…。

安藤: バブル真っ盛り。24時間働けますか? っていう時代でした。

乙武: そうなんです。本当に逆方向に振れてしまって、むしろお父さんが家庭や地域から搾取されていった。父親が地域活動や家事・育児にコミットしていくという点について、30年の後れが出てしまったことは否めません。

安藤: 結果的に、第3次ベビーブームが来ない、つまり子供を産み育てづらい社会構造をつくっちゃったわけですよね。これは明らかに政策の失敗で、その後の子育て支援策にしても少子化対策にしても、なんだか住宅でいうと「2階の内装」ばかり豪華にしているような気がして仕方がない。やっぱり家や社会はまず土台をしっかり造らなきゃならない。それが「男女共生」や「ダイバーシティ」だと思うんです。特にキーとなるのは男性のワークライフバランスなんですよ。いまは「女性活躍」が盛んだけれど、あれは女性だけのテーマじゃなくて男性の問題でもあります。ここ10年で育児しながら働く女性がかなり増えているのに、男性の家事時間は全然増えていない。これじゃ本質的な女性活躍への改革は無理ですし、育児したいのにできないといった男性の「生きづらさ」も解消されません。

乙武: ええ、そうですね。ただ、QOLについて語るときに、「成長より成熟を」みたいな言葉を使う方がいますけど、私はその言い方にも違和感があります。その成熟した社会、つまり弱者や少数派もきちんとケアしていく社会へと転換するためには、ある程度の経済的なパイが必要です。そうじゃないと、「困っている人たちにパイを分けてあげたいのは山々だけど、もうこれ以上のパイは余っていないんだ」というふうに、パイの取り合いになってしまいますから。そういうことを踏まえると、「経済成長はもういいじゃないか」という言説には素直にうなずけないんですよね。あくまで経済成長は目指していかないと。

安藤: ええ。社会保障には原資が必要ですからね。だから僕たちは、仕事の生産性を高め、経済性も家族の絆もひっくるめて人生を肯定していけるような働き方を考えなきゃいけない。会社に囚われの身になって長時間働き、ライフが疎かになる「ワークハード」な生き方ではなく、限られた時間のなかでいかに成果を挙げ、家庭生活や地域活動や余暇を楽しむという「ワークスマート」な生き方にシフトしていくべきだと思います。

【今回の対談相手】
安藤哲也さん
1962年生まれ。出版社、書店経営、IT企業など9回の転職を経て、2006年にNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立。「育児と仕事を両立し、笑って人生を楽しめる父親を増す」ことを理念として年間200回の講演や企業セミナーを行うほか、厚生労働省や内閣府の委員を歴任する。2012年には社会的養護の拡充と児童虐待・DVの根絶を目的とするNPO法人タイガーマスク基金を立ち上げ、代表理事に就任。二男一女の父親。

(構成:宇野浩志)

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