[対談]乙武洋匡×遠藤謙「科学技術は身体をどう変えるのか」(1)

乙武洋匡が“義足”を使う日

2016.03.21 MON

乙武洋匡の「自問多答」


じつは7歳まで義足による歩行訓練を受けていた乙武さん。技術の進歩によっては、今後義足で歩けるようになる可能性も…!?

[対談]乙武洋匡×遠藤謙「科学技術は身体をどう変えるのか」(1)



生まれつき四肢欠損という障害を抱え、電動車椅子を使って生活している作家の乙武洋匡さん。彼が今回対談相手に選んだのは、人の身体能力を解析し、ロボティクスなどを取り入れた義足の研究開発に携わるエンジニアの遠藤謙さんだ――。

乙武洋匡: 遠藤さんは現在、2020年のパラリンピックに向けて競技用義足の開発に携わられているそうですが、そもそもこの分野に取り組むことになったきっかけは何だったのでしょうか?

遠藤 謙: 義足に関心を持つようになったのは、親しい友人が病気で足を失ったことが大きかったですね。そこで、少しでも同じ境遇の人たちの役に立ちたいと思い、渡米してマサチューセッツ工科大学に進みました。研究室の先生も義足で生活している方だったんですが、義足でロッククライミングをやったりする非常に格好いい人で、障害者に対するイメージががらりと変わったんです。

乙武: ああ、障害を自然に受け入れて暮らしていらっしゃる先生だったんですね。

遠藤: そうなんです。義足のことを自らイジってネタにするような、乙武さんみたいな先生で(笑)。「義足に変えたら体重が軽くなって、脚をつけたままじゃ登れなかった岸壁を登れるようになった」なんて言うような方ですから、周囲も過剰に気を遣わず、彼が障害者であることもほとんど意識していませんでした。

乙武: こういうのは身近にどれだけ障害者の存在があるかという、“経験”によるところが大きいですよね。たいていの人は、不慣れであるがゆえに過剰に気を遣ってしまう。その意味でいうと、私も身体障害者以外の障害者に会う機会が多いわけではないので、そうした方々に慣れているわけでもないんですが…。

遠藤:統計によると、下肢切断という障害を抱える人は、国内に6万人ほどいるそうです。しかし大部分は高齢者で、たとえば糖尿病などで足を切断しなければならなかった方も少なくありません。そしてこれらの人々は、欠損した状態のまま生活する人、車椅子を使う人、義足を使う人などに分かれるわけです。

乙武: じつは私は、今でこそ車椅子のイメージが定着していると思いますが、7歳くらいまで義足の訓練をしていたんです。私の親は、車椅子よりも義足で歩けた方が将来便利だろうと考えたわけです。ところが、今から30年以上も前のことなので、義足というのは非常に不便で、松葉杖なしではとても歩けない、バランスの取りにくい代物でした。

遠藤: そうでしょうね。四肢がどの部分まで残っているか、筋肉がどのくらい備わっているかなど、前提条件によっても変わってきますが。

乙武: 私の場合、松葉杖を握ることもできないし手をつくこともできないので、とにかく転ぶことが怖かったんです。それでもしばらく訓練を続けたものの、この短い大腿とお尻でそこそこ動けるし、食事をしたり文字を書いたりできることがわかったので、義手も義足も訓練をやめてしまいました。もしも当時、今のように使いやすい義足があったら、車椅子よりそちらを選んでいたのかなと、たまに想像しますよ。

遠藤: ところが、義足の分野は長らく技術的なブレイクスルーがなかったので、ここ数十年、あまり事情は変わっていないんです。義足が急速に進化し始めたのはつい最近、ロボティクスの技術が取り入れられてからのこと。乙武さんが義足の利用を断念したのも、ひとえに技術が未熟であったためですが、今後は少し事情が変わってくるんじゃないかと思います。

乙武: すると、今後は車椅子よりも義足を選ぶ人が、もっと増えていく可能性も?

遠藤:そうですね。ただ、車椅子のメリットは大きいので、なくなることはないと思います。仮にまったく動けない人であっても、車椅子で移動して視界を動かすことは、脳にとって非常に重要なんです。静止画より動画の方が情報量が多いですし、奥行きなどの空間を認識するためには、視点を動かさないといけない。なにより、障害者だからといって外に出られなかったら、つまらないですよね。

乙武: なるほど。そして、自らの足で歩けるなら、なおいいということですね。義足の進歩は、障害者にとって新しい選択肢を与えてくれることになりそうで、今後がますます楽しみです。


【今回の対談相手】
遠藤謙さん
1978年、静岡県出身。ソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイトリサーチャー。株式会社Xiborg代表取締役。ロボット工学やバイオメカニクスを専門とし、おもにアスリート用の義足の研究開発を手がける。2014年には世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズに選出された。

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