情報社会と法律のビミョーな関係

第5回 ネットの書込みでタイホってあるの?

2009.02.25 WED

情報社会と法律のビミョーな関係


いろいろな意見が飛び交う大手掲示板などを覗いていると、そこに書き込まれている意見に引っ張られそうになる。カゲキな個人攻撃なども多いが、その意見に賛同したくなるのは筆者だけだろうか。ネット社会では自分を強くもつことも大切なのである

うっかり逮捕されないためのネット・ライフの心得とは?



タレントのスマイリーキクチさんを中傷する文言をネットに書き込んだということで、複数のネットユーザーに対し警視庁が立件する方針を固めたとの報道が最近あった。この事件についてはまだ詳細が明らかにされていないから、どの程度の罪に問われることになるのかはこれからの動向に注目なのだが。

でも、こんなふうにネットへの書き込みが原因で逮捕されることって最近ちょくちょく聞くけど、実際のところどのような書き込みをしたら逮捕になるのか? そこいらあたりのことって素人にはよく分からない部分だ。

ということで、弁護士の鎌田真理雄氏にお話を聞いてきた。

「ネットへの書き込みが原因で逮捕されることはありますが、罪状は様々です。名誉毀損だったり信用毀損だったり。あと業務妨害や脅迫などなど」

ずいぶんありますね。でも、他人のちょっとした悪口の書き込みなら普通の人でもうっかりやりがちだと思います。その場合は?

「誰かについて社会的評価を落とす具体的な事実を広めたらそれだけで、名誉毀損に該当する可能性がでてきます。また裏切り者といった悪口のように、事実の示すものじゃなくても評価の低下が認められれば侮辱罪が成立し得ます。まあ、侮辱罪の場合には、刑が軽いので、住所不定又は正当理由なく出頭に応じない場合でないと逮捕されませんが。例えば、仮に私が過去に有罪判決を受けていたとします。そんな事実はもちろんないのですが、仮に事実としても、それを誰かが不特定多数に提示すると、やっぱり名誉毀損に該当する可能性がある」

えー、でもニュースではそういうのってたくさんありますよね?

「名誉毀損として罰しない例外要件が用意されているのです。それには3つの条件があり、1つ目が公共の利害に関する事実についてであること。要するに社会的な関心事ということです。2つ目が公益を図る目的であること。これは表現の仕方も問われ、揶揄・誹謗や反感・敵意丸出しの表現だと認められにくくなります。3つ目が真実であること。これらをすべて満たす場合に、名誉毀損として罰されません」

ふーむ。でも、さらにギモンなんですが、真実のつもりで報道してもそれが間違いだったり、あとから評価が変わったりすることってよくありますよね。その場合は?

「真実ではなかったとしても、真実だと信じるにいたった相当な根拠があると認められれば、罰せられないとされています。つまりきちんとした調査や取材をして、情報ソースの裏取りをしたならいいわけです」

逮捕に至った事件では、この3つの要件から外れていたということなんですね。

「そういうことです。でもここで一つ注意が必要で、この3要件はマスメディアによる名誉毀損の裁判が基になって出てきたものなので、真実と信じることの相当な根拠はかなり高いハードルになっています。ところがネットの登場で、全てのユーザーに情報発信の能力が備わり、一個人であっても簡単に名誉毀損を犯しうる立場にあるわけです。でも、普通のユーザーにとって、マスメディア並みに調査をしっかり行うことは難しいですよね」

つまり、友達どうして仲間の悪口をささやき合うようなノリで書き込んじゃうと「御用だっ!」ってことになってしまう可能性がある。

でも、マスコミ並みの調査を経なければ何も表現できないとなると、それはそれで窮屈かもしれない。その辺のさじ加減は、やっぱり個々人の「節度」にかかっているんですね。
部屋の中に閉じこもっているからといっても、ネットにつながったパソコンを覗いていればそこは屋外と同じ。誰にも見られていないと思ったら大間違いなのである。書き込みの犯罪性が認められれば警察は公権力を行使して居場所を突き止めてきますよー

事件になるほどの“悪口”っていったいどういうもの?



ネットとはいえ、軽い気持ちで書き込んだ悪口が原因で逮捕されてしまうことがある。それじゃ、どの程度の悪口からアウトなのか? それが知りたくなってくる。

例えば、2008年の11月には大手コンビニの従業員を装い、ブログに「レジに立つとき、おでんの容器に唾を入れるとか、肉まんに唾をかける」といった嘘を書き込んだとして24歳の大学生が逮捕されている。

でも、これだけでは「どの程度ならアウトなの?」っていう部分が見えない。肝心のそこが知りたい!

「この場合は業務妨害ですよね。実際のところ名誉毀損の判断は難しいところなんですよ」と苦笑いしながら話してくれたのは、鎌田真理雄弁護士。

「悪口など、社会的評価を落とす表現ってかなり幅がありますよね。バーカといった軽いものから、犯罪者呼ばわりするといった重いものまであるし、文脈にもよります。なので程度の類型化は難しいのですが、考え方の目安はあります。大前提は、他人の社会的評価を低下させる表現を多くの人に広めると、原則として名誉毀損や侮辱罪に該当する可能性があります。それとあなたの小説はおもしろくなかったですというように、本人にとってはプライドが傷つくかもしれないけど社会的評価下がるとまではいえない、本人の名誉感情のみを害するケースについては一応セーフです。ただし民事上の責任は別ですが。また事実の適示ではなく論評として大丈夫なケースもあります」

また新しい言葉ですね。「事実の適示」というのは「事実を適切に示す」という意味の法律用語。では「論評」とはいったいどういうこと?

「例えば『Aが犯罪行為をした』という表現は事実の適示なので、掲示板に書き込めば、名誉毀損が成立する可能性があります。次に『その事実を前提とすると、Aはこういう処分を受ける可能性がある』というのが論評ですね。これならばOK。事実を適示していないので、名誉毀損には該当しません。もちろん文脈や表現の仕方で事実の適示か論評かは変わって、判断基準は証拠によって立証できるような事柄かという軸と、一般読者がどう受け止めるかという軸になります。ただし、一般的には事実を適示しつつ、同時に論評もしてしまいますよね。その場合、全体として事実の適示と読めてしまう場合もあります。こうなると全体として公正な論評であるかというのがポイントになります」

ビミョーですね。

「はい、ビミョーです(笑)。ですから、どんな悪口の内容や程度なら逮捕されるのか、ではなく、どの程度の社会的評価を低下させるようなことを言われたら警察に訴えたくなるか、という逆の立場で考えるべきですよね。被害者に告訴されなければ逮捕もありませんから」

つまりは「悪口を言われる人の立場になって考えなさい」ってやつだ。小学校のころ先生にそういってよく叱られたものだ。いくら技術が進歩しても、行為の良し悪しを判断するのは結局人間というわけなんですね。

「お互いに反論を書き込んでいたり、非難しあったりして、内容的にもバランスがとれているケースでは、実質的に違法性がないとされるケースもあると思います。また、書き込みをする場所によっても違ってくると思いますよ。ネット上とはいえ、例えば限られた人しかアクセスできない場所で、お互いに知っている少人数同士での会話であれば、名誉毀損の問題は生じにくいでしょうね」

あたりまえだが、自分が言われて嫌なことを他人には言わない、ということ。リアル社会でもネットの社会でもこの部分に関して違いはない。悪口は巡りめぐって自分のところに返ってくるものなのである。筆者もネット社会に生きる者の一人として、このあたりのことを肝に銘じておこうと思うのである。

結局のところ常識を持って、節度あるネットライフをということですね。でも、その常識ってやつが、なかなか難しいんですよね。 鎌田氏の言葉の中に「論評」というのがあった。
名誉毀損になってしまいかねない「事実の適示」と、
そもそも名誉毀損にならない「論評」って色分けがやっぱり難しい。
が、取材を通して得た知識を総動員して、筆者なりに考えてみた。

例えば誰かが筆者のことが大きらいで
その人が筆者のことをネットに書き込んだとしよう。
その場合、筆者が「ライターである」
ということを記述するのは「事実の適示」。
さらに筆者が(仮に)「電車の中で盗撮をしていた」
という事実を記述するのも「事実の適示」。

ただし、前者は単に筆者の職業に言及してるだけなので
なんの問題もないが(それどころか宣伝になるかも)
後者は筆者の評判を落とすことになるので
例の3要件を満たさないと名誉毀損になりうる。

「筆者が電車の中で盗撮をしているのであれば
それは違法だと思う」と記述するのは
「評論」ということだろう。

やっぱり難しいなぁ。

皆さんはどう思います?
筆者への誹謗中傷以外なら大歓迎なので、
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