情報社会と法律のビミョーな関係

第8回 メールが届かないのは誰のせい?

2009.04.08 WED

情報社会と法律のビミョーな関係

数年前、年賀状配達の学生アルバイトが
割り当てられた数千通の年賀状を、面倒だからと
草やぶに捨てて知らん顔をきめこんでいた、
という事件があった。

まぁ、年賀状だから命にかかわるような
重大な記述はなかったかもしれないが、
届くはずのものが届かないというのは
やっぱり困った事件だ。

送ったはずのものが届かない。
これってeメールの世界でも起こりうることだ。

このごろはかなり重大な事項まで
eメールでやり取りされるようになっている。
なかには届かないと大きな損害につながるメールだって
たくさんあるだろう。

ということで、日々便利に使っているeメール。
今回はそれを運営するプロバイダーと法律について
いろいろと調べてきました。


不達になったメールはいったいどこにいってしまったのか。それを突き止めるのはなかなかに難しいらしい。消えてなくなってしまったのなら、それはそれで仕方ないが、全くの別人に届いていたりしたら嫌だなぁ、と思うのである。

メールって絶対に必ず100%届くの?誰でもわかるメール事故の法律相談



先日、仕事のメールを送ったつもりになってノホホンとしていると、「例の件はどうなってますか!」みたいな電話がかかってきた。つまり送ったつもりのメールが届いていなかったのだ。このときは同じメールを再送して事なきを得たのだが。

ここでふと考えた。イマドキ、eメールというのは届いて当然という気分で生活している。でも、時々不達になってしまうことがある。もちろん自分のアドレスの記入ミスだったり、何かの間違いで相手のスパムフィルターに引っかかっていたりすることもあるのだが、まったくの原因不明で届かないこともある。

インターネットは、そもそもの仕組みとして「ベストエフォート」が原則でできている。ベストエフォートというのは直訳すると「最大限の努力」っていう意味だ。事業者がサービスを実現するのに努力するのは当たり前じゃん、って思うけど裏を返すとこれは「最大限の努力をしてもダメだった場合の結果は保証しませんよ」ということでもある。

えー、そんなのズルイ!とユーザーの立場からは思ってしまう。でも、実のところ今のインターネットってのは、こんなふうにかなり綱渡りというかあいまいというかギリギリのところで成り立っている状態なのだ。

でも、ビジネスでも当たり前にインターネットを使っている現在、eメールが届かなかったせいで大損した!なんてことは十分に起こりうる。そんな場合、メールサーバを運営する会社の責任はどうなるのか? インターネットの法律に詳しい鎌田真理雄弁護士にお話をうかがってきた。

「いろいろと条件はあるのですが、メールの不到達はメールサービスを提供するプロバイダーの義務違反となる可能性があります。だから、損害が発生した場合、損害賠償を請求できる可能性もあるのです。ただし、債務不履行責任が生じるか、という話と、いくら損害賠償が認められるかという話は切り分けて考えた方がよいですよ」

それを聞いて安心。でも、いろいろな条件とか債務不履行と損害賠償というのが気になるのだが。

「まず、債務不履行責任の話です。ユーザーはプロバイダーと契約をしてネットに接続し、メールサービスの提供を受けます。このような契約の場合、プロバイダーはユーザーに対しネットに接続させる義務やユーザーにメール送受信サービスを提供する義務が生じます。ユーザーはそれに対し利用料金を支払う義務が生じる。つまり、例えばサーバの故障などでネットに接続できなくなったり、メールの送信ができなかったりすれば、これはプロバイダーの義務違反となります。契約に違反すると債務不履行責任を負うことになるから、損害が発生すれば、ユーザーはプロバイダーに対して原則的に損害賠償請求ができます」

これまで何度かメールの不達で困ったことがあるから、そんなときはプロバイダーを訴えればよかったわけだ。

「そこがちょっと面倒なところです。債務不履行の責任は違反者であるプロバイダーに故意、または過失がある場合に限って追及することができます。例えばメールですが、簡単に言えば、送信されたメールはインターネット上の複数のサーバを経由して、最後に受信者側のメールサーバに到達します。そのため、送信したメールが相手方に届かなかったとしても、自分側のプロバイダーに責任があるとは限りません。中間経路のサーバに責任がある場合もあるでしょうし、受信者側のプロバイダーのせいってことも考えられます。そして、訴える場合には、訴える側に立証責任がありますので、自分のプロバイダーに責任があるということをユーザーが立証しなければなりません」

ムムム、そうなんですかそれは確かに難しそう。ではいったいどんな場合だったらプロバイダーの責任を追及できるのだろうか? 

「単純に言うと、プロバイダー側が自社のシステムを人為的なミスで壊してしまったり、データーを削除してしまったりといった場合でしょうね。逆に、例えば大地震なんかでサーバが壊れてしまった場合などは過失として追及することは難しいでしょう」

やっぱりハードルが高いんですね。よっぽど重要なメールは、後から別の手段で届いたのを確認するとか、ユーザーの側で自衛する必要があるってことか。

でも、せっかくこれだけ便利で普及したインターネットなんだから、もっとどうにかならないもんでしょうかね?
腹痛という症状がなくなったら人は生きにくくなると思う。だって腹痛ってちょっとした言い訳に使いやすいでしょ。「なんか不機嫌だね」「ちょっとお腹がいたくて」みたいに…。サーバーの不具合も同じで、100%完璧になるともしかしたら…

メールの不達で困ったぞ!いったい誰の責任なの?



ビジネス関係のメールが不達で、大切な契約に大穴をあけてしまった。この怒りをどこかにぶつけたいし、少しでも損害を取り戻したいのだけど、「ベストエフォート」すなわち「完全なサービス実現を保証しない」という原則があるインターネットでは、メールサービスを提供するプロバイダーを訴えようにもハードルが高い。

となると、悔しいけれどやっぱり泣き寝入りしかないのだろうか。

「そうとも限りません。裁判で争う場合、プロバイダー側の障害対策が実際にどの程度行われていたのか、業務向けサービスなのか一般ユーザー向けサービスなのかなど、具体的な実情も勘案された判断が行われるでしょう。また、ユーザーが消費者契約法で保護される可能性もありますよ」(弁護士の鎌田真理雄氏)

おお、これは耳寄り情報だ! その消費者契約法とはつまりどういうこと?

「事業者と消費者との契約で、消費者を一定の範囲で保護しましょうという法律です。事業者側に過失がある場合の事業者のすべての免責や、事業者に故意・重過失がある場合の一部免責とかは認められません」

おお! であれば、プロバイダーに過失がある場合には、損害賠償責任を問えるんですね。この間、とても重要なメールが到達しなかったんですよねー。いくら損害賠償請求できるかな? わくわく。

「ただし、たいていのプロバイダーでは、損害賠償の範囲を制限する条項を利用規約に設けています。一番多いのは、月額使用料のうち、ネットへの接続などの正常なサービス提供ができなかった時間や日数の割合分を上限として損害賠償責任を負う、という定め方でしょうか」

えー。じゃあメールの中身の重要性は考慮されないの?

「特別な合意をしていない限りされません。そもそもプロバイダーからすれば、メールの中身の重要性なんて知り得ませんし、逆にプロバイダーがそれを知ったら通信の秘密を守らなかったことになるので、別の大きな問題になってしまいます」

でも、故意・重過失がある場合は、損害賠償責任の一部免責も認められないのでしょう?

「はい。ただし、故意というのは相当レアな場合ですよね。さらに重過失というのも故意と同じくらいの過失って意味です。故意にネットに接続させなかったり、メールを送信しなかったりって、ほとんどありませんよね」

要するに、損害賠償請求できたとしても、利用できなかった時間・日数単位でしか認められないということのようだ。毎月のプロバイダーに払っている額からするとスズメの涙である。とほほ。

「結論としては、メールが到達しないリスクも考えて、確認の電話やメールをするなどして自衛するしかないのかもしれませんね。それでもメールの不到達自体を完全に防げるわけではないでしょうから、インターネットはそんなもんだっていう割り切りが必要なんです。メールに返事がないからといって、メールの相手先にいきなりブチ切れメールを送ったりすると、恋人や取引先をなくしてしまうかもしれませんよ」

まるで実体験したことがあるかのように悟りきったご回答ありがとうございます!

やっぱり今の時点では、ある程度の割り切りが必要なんですね。でも、すでにインターネットは社会インフラと言えるのだから、少なくとも彼女にくらいは安心してメールしたいものです。 プロバイダーと契約さえしていれば、
メールは何通出そうが、
相手がどこの国にいようが基本的にタダ。
だから、みんな使うようになった。
もう、社会のインフラだといっても過言じゃないと思う。

ところが、プロバイダーが事故っても
あんまり大きく責任を追及できないなんて、
それでいいのかなぁ、とぶっちゃけ思うんですよねぇ。

「そこは仕方ないですよ。郵便や運送を考えるとわかりやすい。
例えば、現金を郵便で送る場合、書留を使わない限り、
万が一、不送達であっても原則として損害は補償されないでしょう」

と、これは取材後のラフな状態で交わした筆者と鎌田先生の会話。

ふーむ、そうかぁ。

「書留を使う場合でも補償額の上限額を
引き上げれば上げるほど郵便代金は高くなるし、
その上限も国の認可を受けた郵便約款で定められているしね。
eメールの世界でも高いサービスレベルを保証してくれるところに
それ相応のお金を払ったり、という手立てが有効かも。
まぁ、それでも100%安全ということはないけどね」

eメールに100%到達の保証を求めると
それはもう今のインターネットではない
違う仕組みが必要になるのかも。

今回のような問題に興味のある方は
どんどんご意見をくださいね。

できる限り不思議レポートで答えていきます。
届かなかった場合はどっかのサーバが。

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