村おこしの経済学

第8回 越後の大自然がアートの展示場に!

2009.09.11 FRI

村おこしの経済学


回を追うごとに集客を増している「大地の芸術祭」。予算面での県の支援は第3回をもって終了したが、民間の活力を巧みに生かしながら、地域が一丸となって運営を続けている (C) パスカル・マルティン・タイユー「リバース・シティ」 画像提供:大地の芸術祭実行委員会事務局

里山の風景を利用した3年に1度の芸術祭!



過疎化が進み、活気を失いつつある町に人を呼び込むためにはどうすればいいか? それは今、日本が全国的に抱えている問題だ。レジャー施設や博物館など、新たな観光名所を作るのが手っ取り早いかもしれないが、いわゆる箱モノには莫大な予算がかかる。産業も観光資源もない田舎町にとって、おいそれと手が出せるものではない。

ならば、今ある自然をそのままイベント会場として使えばいいのでは――。そんな着想から生まれたのが、新潟県の越後妻有(えちごつまり)地域で3年に1度催されるアートトリエンナーレ「大地の芸術祭」だ。

「1回目の開催は2000年。もともとは96年から構想され始めた新潟県の地域活性事業の一環で、地域の魅力を発掘し、広く発信することで地域再生を目指そうとスタートした現代アートの祭典です」(大地の芸術祭東京事務局・鶴谷ゆうみさん)

ちなみに「トリエンナーレ」とは3年周期で開催される美術博覧会のことで、日本でも横浜をはじめ複数の地域で実施されているイベント。今年(09年)で4回目を迎えた「大地の芸術祭」は、新潟県の南端に位置する十日町市と津南町、ふたつの地域を合わせた計760平方キロメートルの広大な面積に約370点の作品を展示する壮大なもの。背景の大自然と相まって、屋内型の美術館とはまた趣を異にする斬新なアートが表現されているのが特徴だ。

では、越後妻有はなぜ現代アートに着目したのか?

「めぼしい観光資源や産業を持たない地域ですが、広い里山の中に約200の集落が点在し、それぞれの集落は小さいながらも個性を持っています。観光地化されていないその自然な美しさこそが、この地域の最大の財産ではないかと着目したのがきっかけでした。その魅力を多くの人に訴求するために、道標として用いたのがアートだったわけです」(鶴谷さん)

箱根「彫刻の森美術館」の例もあるように、自然の風景とアートは意外と親和性が高い。もともとスペースと緑はふんだんにあるのだから、それを活用する妙手だったと言える。

果たして、成果は予想以上であった。2000年の第1回には約16万人、第2回(03年)には約20万人、そして第3回(06年)には約35万人と、集客数は右肩上がり。「当初は10年計画で、第3回をもって終了する予定でしたが、地元の皆さんや地域内外のサポーターの方からの要望を受け、継続が決まりました」(鶴谷さん)という。

開催中の第4回(09年9月13日まで)にいたっては、「体感的には前回の3倍の人出」(現地スタッフ)との声があがるほどの盛況ぶりだ。

前回の開催を終えたあとに「大地の芸術祭実行委員会」が実行委員を対象に実施したアンケート調査では、およそ9割の回答者がこのイベントによって「地域が活性化した」と答えており、ほかにも「観光資源や地域の魅力が増した」「外部の人たちとの交流が生まれた」といった声が集まっている。

回を重ねるごとに賑わいを増していく。これぞ、村おこしの良い見本といえよう。
すでにアートファンの間では高い認知度をほこる越後妻有。今後は「期間外でもある程度の集客が望める仕組みを捻出することが課題」(鶴谷さん)とか (C) 李在孝「0121-1110=109061」 画像提供:大地の芸術祭実行委員会事務局

アートが人を呼び込む!越後妻有、地域再生への道程



日本有数の豪雪地帯であり、近年では過疎化に悩まされてきた越後妻有(えちごつまり)一帯が、現代アートの力で活力を取り戻しつつある。同地域で3年に1度催されている「大地の芸術祭」は、760平方キロメートルの広大なエリアに現代アートを展示するイベントだ。今年で4回目を迎えたこの現代アートの祭典は、のどかな里山にどのような影響をもたらしたのだろう?

「前回(2006年)は約35万人の集客がありましたし、宿泊施設や飲食店などの売上がアップしたほか、雇用も生まれており、少なからず経済効果はあると思います。また、開催期間は毎回2カ月ほどですが、イベント終了後もそのまま残される作品が年々増えています。現在は約160点の恒久展示作品が越後妻有の里山の中に存在し、期間外にもこの地域を訪れる観光客、アートファンは増えているようですね」(大地の芸術祭東京事務局・鶴谷ゆうみさん)

2000年のスタート以来、現代アートの名所として着々と知名度を上げつつある越後妻有。地域の魅力を掘り起こそうという目的にふさわしく、すでに使われなくなった施設の再利用なども進められている。

「自然を生かした作品展示はもちろん、4回目となる今回は、地元の空き家や廃校などを展示会場として積極的に活用しています。宿泊施設として改装した空き家と一体化した作品もあり、これは芸術祭終了後も継続してご利用いただけます」(鶴谷さん)

同地域には、少子化の影響で廃校となった校舎の活用法が課題とされてきた。これが展示スペースとして再生するのは、願ったり叶ったりというわけだ。

ところで、現代アートはどうしても前衛に寄りがちで、にわかには理解しがたい難解な造形物も多い。高齢者の多い地域住民は、こうしたイベントをどう受け止めているのだろう?

「地元の高齢者の皆さんとアーティストたちの関係は良好です。最初はお互いに戸惑いもあったようですが、農業を営む方々と作家は、基本的には同じ物作りを営んできた人同士。たとえば縄を編んだりする技術は地元の方にとってお手のものですから、作品や展示会場の設営の際に、非常に頼りになるんです。今回の準備期間中には、若手アーティストの作品づくりを94歳のおばあちゃんが手伝うようなシーンも見られましたし、双方にとって良い交流が生まれているようですね」(同)

アートを介して育まれた、異文化・異世代間のあたたかな交流。これは海外にも波及し、今回は香港の大学から約30人のボランティアスタッフがやってくるなど、グローバルな広がりも見せている。

こうした賑わいを受け、新たに何か商売に乗り出そうと意欲を持つ住民も少なくなく、「大地の芸術祭」は少子高齢化が進む地域に確実に元気を与えている。財源確保などまだまだ課題はあるというが、3年後、6年後の越後妻有がどう変化しているか、今から楽しみだ。 産業も観光資源もない村に県外から多くの人を集めるというのは、やはり並大抵のことではありません。

いまそこにある自然や廃屋、廃校を巧みに利用しての「大地の芸術祭」は、他の地域でも大いに参考になるのでは? なにより、今ある自然を破壊せずに成果をあげられるのがいいですよね。

やっぱり、地域振興はアイデアが大事。これはビジネスにも通じる原理でしょう。

本連載では引き続き、皆さんからの情報を大募集! ユニークな地域の取り組み、効果的な村おこしの事例など、なんでもお寄せください。また次回!

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