世の中の「要するに」をクイズで学ぶ

IT時代の“暗号危機”とは?

2010.03.04 THU

理化学ドリル


写真提供/時事通信社 写真は、太平洋戦争時に使われた旧日本陸軍暗号の教則本「暗号教範」。旧陸軍の暗号は世界最高水準を誇ったとされ、現在でも解読されていない電文が多い。ちなみに、問2のC「2038年問題」について、少し補足。標準的なプログラミング言語では1970年1月1日からの“経過秒数”で時間を数えているが、広く採用されている32ビットのカウント方式では、21億4748万3647秒経過した時点(2038年1月19日)で容量を超えてしまうのだ。
【問1】実在する暗号方式はどれか?

A. クレオパトラ暗号 B. シーザー暗号
C. アントニウス暗号

【解説】暗号の教科書の初っぱなに必ず登場するのが、ローマのジュリアス・シーザー(ユリウス・カエサル)が使ったとされる暗号方式だ。これは、アルファベットや数字を3文字ずらすだけの簡単なもの。たとえば「R25」なら「U58」になる。ずらす文字数は3でなくてもかまわない。暗号にもいろいろあるが、解読の「鍵」(シーザー暗号の場合なら「3文字ずらす」という情報)を秘密にしておくのが秘密鍵方式で、鍵を公表してしまうのが公開鍵方式。公開鍵方式はインターネットの普及とともに世界中で使われるようになった。公開鍵方式は、「公開してしまうと誰でも解読できてしまうのでは?」と思われるかもしれないが、公開した鍵で「鍵をかける」ことはできても、別の秘密鍵でないと「鍵を開ける」ことはできないので心配はいらない。
ちなみに、世の中には、絶対に解読できない暗号というのも存在する。それは「ワンタイムパッド」と呼ばれ、昔のスパイが「1回だけ手帳にメモした鍵」から来ているが、鍵の受け渡しが実用的でないので普及はしていない。

【問2】次のうち、インターネットの暗号の危機といわれているのはどれか?

A. 2010年問題  B. 2012年問題 C. 2038年問題

[正解] 問1:B 問2:A


竹内 薫 たけうち・かおる 1960年東京生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。マギール大学大学院博士課程修了(専攻は「超ひも理論」)。科学誌『Nature』などの翻訳も手がけるサイエンスライターであり、ミステリー作家としても活躍する。著書に『理系バカと文系バカ』(PHP新書)、『宇宙のかけら』(講談社)など多数

現代社会は、暗号なしでは成り立たない?



2012年問題は「マヤ暦の終わりが世界の終わり」という終末論で、映画でも話題になったが、科学の話題ではない。2038年問題は「2038年1月19日3時14分7秒をすぎるとコンピュータが誤作動を起こす」という問題で、時間をあらわすデータの桁数を超えるために起きる。
で、肝心の2010年問題だが、これは「今ここにある危機」だ。事の発端は、アメリカの国立標準技術研究所(NIST)が「2010年までに弱い暗号方式の使用をやめる」と宣言したこと。インターネット通信では、数学を駆使して鍵が暗号化されている。問題は、この「数学を駆使して」という部分だ。かけ算の反対が割り算であるように、数学には「逆の計算」が存在する。だから、数学の達人が暗号化したものは、別の達人が逆の計算を見つければ解読できてしまうのだ。
そこで、なかなか逆の計算ができないように、鍵を長く複雑にして、何百年とか何千年も計算しないと解読できないように工夫しているのだが、最近、コンピューターの計算速度がどんどん速くなってしまい、これまで使われていた暗号システムが弱くなってしまったわけ。
「なんだ、それなら鍵をもっと長くすれば済む話じゃないか」と思われるかもしれないが、事はさほど単純ではない。新しい暗号方式が普及するまで、金融取引やインターネットの買い物などができなくなってしまう恐れがあるからだ。つまり、2010年問題は、社会の安全性と利便性がかかわる微妙な問題なのだ。
ふだん、携帯やパソコンで通信しているあなた。ここしばらく、暗号の動向に注目してみてはいかがだろう?

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