お花見、あやうし!?

ソメイヨシノ60年寿命説はウソ?

2015.03.27 FRI


ソメイヨシノが全国的に植えられ初めたのは、明治維新後。それまでの政府、江戸幕府が植えていたのはヤマザクラだったが、新政府となった明治政府はそれを一新するため、ソメイヨシノに植え替えたのだとか。裏にある人間の妄念、怖い… 画像提供:銀河/PIXTA
春の風物詩、お花見に欠かせないソメイヨシノの姿がいずれ見られなくなるかもしれない…そんな噂を耳にしたことはないだろうか。「ソメイヨシノは戦後多く植えられたクローン植物。寿命が60年ほどであることから、そろそろ全国のクローンが一斉に寿命を迎える。事実、立ち枯れ始めた樹が最近目立ってきている…」とSFじみた(?)理由が添えられているもっともらしい噂だ。

「ソメイヨシノは、普通は接ぎ木でしか増やせないので、全国のソメイヨシノがクローンであることに間違いはありません。また戦後から1964年の東京オリンピックまでに多く植えられたので、50年以上経った現在、弱った樹が目立ってきているというのも事実です」そう答えるのは、樹木医の和田博幸さん。

ここまで聞くと、噂は正しいようだが現実はそれと異なる。

「あらかじめ60年という寿命があるわけではなく、環境が寿命を決める一番の要因なのです。ソメイヨシノは大きく育つにもかかわらず、近い間隔で植えられていることが多いですよね。異なる樹木であれば隣り合った樹木同士は光合成を行ううえでのライバルとなるため、競合を避ける方向に伸びていくもの。対してソメイヨシノはどの樹もクローンであることから隣から伸びてきた枝を“自分”と認識してしまい、お互いの枝が重なっていくことを気にせずに成長を続けてしまうのが大きな問題といえます。樹木同士がどうやって“他人と自分”を区別しているのか、そのメカニズムはまだ明らかではありませんが」

隣の樹が気に食わないならまだしも、“樹ゴコロ”知れた自分が隣にいるだけならむしろストレスは少なそうだが…。

「いいえ。その結果、どちらの樹も葉にあたる光が少なくなり、少しずつ弱り始め、やがて枝が枯れてしまいます。そこから入ったキノコなどの腐朽菌がじわじわと幹までに侵入し、致命的なダメージを負ってしまうんです。樹勢が最も高まる30~40年を過ぎた頃から問題が大きくなりやすく、この時期のダメージが引き金となって、結果的に60年を目安に衰弱した樹が目立ちはじめます。このことから60年寿命説が生まれたのでしょう。ただしこれは、専門家が枝を適切に間引く剪定を行うことによって回避できることからわかるように、樹の寿命ではないのです。実際、100年を超える古木は全国にいくつもありますからね。もしかすると『社会人人生の定年60年に重ねて、桜の寿命も60年』ということであれば、話として美しい…そんな人間の想いが絡んでいるのかもしれないと、個人的に思うこともあります」

さらに花見のシーズン、我々が気に留めておかねばならないことがあるようだ。

「40年で樹勢のピークを迎える、ということは桜の名所として人を呼び集めてしまうことになります。そのため、人によって地面が踏み固められてしまい、正常な環境であれば雨により地面に浸透していくはずの水分、養分、そして酸素が根に届きにくくなることが考えられます。これも、40年を境に樹を弱らせてしまう原因といえるでしょう」

「せっかくの花見なんだし、桜の真下で楽しもう」とは誰しもやりがちなこと。しかし、ソメイヨシノのことを思えば一歩引いて観賞するのが「正しいお花見」のスタイルなのかもしれません。
(宇都宮雅之)

※この記事は2014年3月に取材・掲載した記事です

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