あのニオイのもとを探究せよ 第1回

「ニオイ」が記憶を呼び覚ますワケ

2015.06.04 THU


ある特定のニオイがそれにまつわる記憶を誘発する現象は、主人公がニオイをきっかけに過去の記憶をまざまざと思い出していく小説『失われた時を求めて』を執筆したフランスの文豪の名前にちなんで「プルースト効果」と呼ばれるんだとか 写真提供/PIXTA
夜の住宅街を歩いているとき、あたりの家から漏れる夕食のニオイに少年時代を思い出したり、電車で隣り合った女性の香水のニオイに、昔付き合っていた彼女との甘酸っぱい記憶を呼び起こされたり…。

日常生活のなかでふと嗅いだニオイに、昔の記憶を引き出されることがある。いきなり懐かしくなったり、悲しくなったり、なんだかセンチメンタルな感情を揺さぶられるあの感覚は、一体どうして起こるんだろう?

「ニオイと記憶には、実は人間の脳の構造が深くかかわっているんです。脳のなかでニオイを伝達する入り口となるのは大脳辺縁系の“第一次嗅覚野”という部位。これは記憶を司る海馬につながる“内嗅皮質”という部位と隣り合った場所にあるため、嗅覚への刺激は記憶や感情を強く呼び起こす作用があると考えられています」

と教えてくれたのは、ニオイの影響を研究している東北大学大学院の坂井信之准教授だ。じゃあ、ニオイによって呼び起こされやすい記憶や感情ってあるの?

「他の感覚から想起される記憶に対して、ニオイにまつわる記憶は比較的幼少期のもの、また“なかなか言葉にできないこと”が多いのが特徴です。視覚などから呼び起こされる記憶は言葉にしやすいため、具体的な内容を思い出しやすいのですが、それに比べて嗅覚の記憶はディテールを思い出しづらく、その記憶に結びついている感情だけがダイレクトに呼び起こされる傾向があります」

言われてみると、“なんだか懐かしいニオイ”と思いつつも、具体的に何のニオイなのか思い出せないことが多いかも。

「そもそも、嗅覚は脳のなかでも原始的な感情を司る大脳辺縁系に直接つながっているので、より本能的な情動と結びつきやすいんです。そういった意味で、情緒的な思い出ほどニオイと密接な関係があるといえますね」

本能的に大事にしたい記憶ほど、ニオイと結びつきやすいというわけか。ぼくらが匂いに感情を揺さぶられるのは、気のせいじゃなかったのだ。
(呉 琢磨)

※この記事は2012年5月に取材・掲載した記事です

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