食欲とかスポーツとか読書とかいろいろあるけど…

「○○の秋」って、そもそもどれが元祖なの?

2009.10.16 FRI

実りの秋、収穫の秋というだけあって、秋は新米にマツタケ、サンマなどの美味しい食材が盛りだくさんで、まさに食欲の秋。そして、静かな夜はワクワクするストーリーを楽しんだり、好奇心そそられるノンフィクションにのめり込んだりするのに最適な読書の秋でもある。一方ではプロ野球が山場を迎えたり、六大学野球の秋季リーグが開幕したり、体育の日があったりと、スポーツの秋ともいわれたりする。そのほかにも、行楽の秋、芸術の秋などなど一般的に定着して使われている「○○の秋」は意外に多い。

ところで、この「○○」の中に入る言葉は、食欲とか芸術とかスポーツとか、まったく一貫性がないような気がするけど、そもそも由来はなんなのだろう? 編集部で調べた限りでは、実のところ「○○の秋」という表現の明確な起源には、たどり着けなかった。そこで早稲田大学非常勤講師で『三省堂国語辞典』の編集委員を務める飯間浩明さんに詳しく聞いてみた。

まず、もっとも古くから使われていそうな『実りの秋』『収穫の秋』については「いつごろから使われているかよくわかりません。古典を調べても明確な使用例が見当あたらない」(飯間さん)そうだ。それだけ深く日本文化に根ざしているということなのかもしれない。

それ以外の「○○の秋」については、どうなのだろう?

「新聞や雑誌記事のデータベースによると、大正時代まではさかのぼれますが、明治時代には使われた記事が見つけられません」

飯間さんによると、1918年(大正7年)9月21日の『読売新聞』には「読書の秋」が、同じく1918年の雑誌『新潮』3月号には「美術の秋」という表現があるそうだ。また、「読書の秋」というイメージの元になったのは、古代中国の韓愈が詠んだ「灯火親しむべし」(秋の夜長は明かりをつけての読書に適している、という意味)という詩だといわれているが、日本語の文章でこの詩に触れている例は、夏目漱石『三四郎』(1908年・明治41年)が最も古い。「食欲の秋」の元になったといわれている「天高く馬肥ゆる秋」も、日本語では田山花袋『春潮』(1903年・明治36年)が初出だという。

「これらのことばが近代以前に使われた可能性はありますが、さかんに使われるようになったのは、やはり20世紀に入ってからかもしれません」

逆に、新しそうな表現に思える「スポーツの秋」は、いつごろから登場したのか。なんとなく1964年10月に開かれた東京オリンピックがきっかけの気がするが、実は1927年(昭和2年)9月25日の『朝日新聞』ですでに「スポーツの秋」という見出しが、大学のレガッタレースと小学生のサッカー大会の記事に使われていた。思ったよりも古いのだ。

「『○○の秋』は、明治以前になかったとは明確に言えませんが、大正以降に多く使われるようになったことばであると推測できます。おそらく、文化を楽しむ社会的なインフラが整い始めたのが明治後期以降であり、その社会状況と、この言い方とが密接に関係しているのではないでしょうか」

どうやら日本の近代化とともに広まったらしい「○○の秋」。最近は新しい表現があまり定着していないけど、今後の流行や社会状況によっては「宇宙遊泳の秋」とか「クラゲ観察の秋」なんて表現が定着するかもしれない。

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