ビジネスパーソンインタビュー
田端信太郎「株主目線がないビジネスマンなんて、ルール知らずに麻雀やってるようなもん」

話題を振りまく「最強のサラリーマン」が登場!

田端信太郎「株主目線がないビジネスマンなんて、ルール知らずに麻雀やってるようなもん」

新R25編集部

連載

マネ凸

2018/03/21

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R25世代の資産運用や仮想通貨への関心の高まりを受けてスタートした連載『マネ凸(トツ)』。編集長の渡辺がマネーの賢者の「お金の話」に切り込んでいくインタビュー企画です。

起業家経済評論家に続く第3回のお相手はサラリーマン。といっても、普通のサラリーマンじゃないですよ。

転職しただけでバズる「最強のサラリーマン」です。

【田端信太郎(たばた・しんたろう)】株式会社スタートトゥデイ コミュニケーションデザイン室 本部長。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げ、創刊後は広告営業の責任者を務める。その後ライブドアに入社し、livedoorニュースを統括。ライブドア事件後には執行役員メディア事業部長に就任。2010年からはコンデナスト・デジタルにてVOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのネット事業開発や収益化を推進。2012年にNHN JAPANに移り、2014年からはLINE株式会社 上級執行役員としてLINE関連の法人ビジネス全般を統括。2018年3月から現職。

フリーペーパー時代の『R25』の創刊にも携わった“メディア野郎”であり、日本でもっとも有名なサラリーマンのひとりである田端信太郎さん

そんな田端さんのお金に関する考え方や資産運用法をぜひ知りたい!ということで、LINEからスタートトゥデイに転職する直前の2018年2月某日、ガッツリお時間をいただきマネ凸してきました!

「資本主義社会を生きているのに、世の中のビジネスマンには株主目線がなさすぎる」

『R25』OBの田端さんへのインタビューは念願でもありました

渡辺

この連載では初のサラリーマンインタビューですが、“メディア野郎”として有名な田端さんですから、読者を楽しませてくれる言葉をバンバン出していただけるんじゃないかと期待しております。

田端さん

いやいや(笑)。僕はキチガイレベルで株とか大好きな人間なんで、自分がやってることにどれくらい普遍性があるかわからないですけど…

それでもいいですか?

渡辺

もちろんです。

田端さん

まず、そもそもいまの日本って、資本主義じゃないですか。言ってみたら、株式会社が中心になっている社会ですよ。

で、その株式会社と関わりを持つには「株主になる」「社員になる」「顧客になる」っていう3つの方法があるのに、世の中のほとんどの人には株主目線がなさすぎる

渡辺

ギクッ。自分もそうかもしれません…

いきなり本質を突いてきた

田端さん

サラリーマンをやっていても、そういう(株主)目線こそがビジネスセンスだと思っていて。

たとえば、僕と同じ営業職の人は新R25の読者にも多いと思いますけど、もしセールスの相手が上場企業であれば、その会社がIRで株主向けに出してる資料がいっぱいあるわけですよ。それにその会社の強みや、いま感じている課題なんかが書いてある。

それを読んだうえで提案に行くというのは、大学入試でいえば傾向と対策みたいなもんです。

渡辺

IRをちゃんと見てる営業マン、どれくらいいるのかな…

20代の前半は僕も営業をやっていたのですが、正直全然見れてませんでしたね。

田端さん

少ないと思いますよ。

だから、バカの一つ覚えみたいに「バナー広告どうですか」とか言うんじゃなくて、その会社の状況に自分が提案するものをどれぐらい紐付けられるか

そういう風に考えることで、ビジネスマンとしてのレベルも格段に上がると思ってます。

渡辺

なるほど。株式投資にはそういう副次的なメリットもあると。

田端さん

僕はカンファレンスコールとかもよく聞きますね。たとえばFacebookとかの。

渡辺

カンファレンスコール?

田端さん

決算発表のあとに、会社の社長とか経営陣が出てきて、投資家やアナリストと電話会議で質疑応答をする時間があるんです。その内容なんて、まさしく生きたビジネス英語営業の対策本ですよ。

とくにFacebookなんかは、その質疑応答が全て文字起こしされてスクリプトも後日アップロードされるので、聞き取れなかった部分も文字で追えるし。

ここまで来ると、もう仕事か趣味かわからないですけどね(笑)。でもそういう情報を知っていれば、ネット広告の営業に活かせるだけじゃなくて、競合のベンチマークにもなるし、個人投資でも儲かるかもしれない

僕にとってはオイシイことだらけなわけです。

「株の儲けは我慢料。“ラクして儲かる”なんて思ってるヤツは大間違い」

田端さん

ただ、IRを見るには会計のリテラシーも必要だし、アメリカ株をチェックしたいなら、最低限英語も読めないといけない。

渡辺

そうですよね。そういう前提知識なしに決算資料を見ても、全然内容が頭に入ってこないと思います。

田端さん

だから、「ラクして儲かる」っていうイメージを持ってるんならいますぐ考えを改めて、さっさと目の前の仕事を一生懸命やったほうがいいですよ。むしろ全然逆です。

「金儲けの神様」って呼ばれてた邱永漢(きゅうえいかん)っていう直木賞作家の爺さんがいたんですけど、彼いわく「株の儲けは我慢料」だと。

渡辺

我慢料。胆力が必要ってことですかね。

「株式投資は濡れ手に粟」を全否定する田端さん

田端さん

よく「額に汗して働く」とか言いますけど、株式投資の場合は脇の下をイヤな汗が流れたり、キン◯マがヒヤッとするような瞬間を乗り越えないといけないわけです。

しかも、我慢したからといって儲かる保証はない。だから、「ラクして儲かる」「誰でも儲かる」みたいなことを考えてる人は絶対いつかやられます。

短期的には儲かるタイミングがあったとしても、そういう人に限って欲が出て、サクっと勝ち逃げできないんですよ。パチンコみたいなもんです。

渡辺

勉強になります…

「消費者目線だっていい。マーケットが知らない情報を手に入れろ」

田端さん

でもね、IR見るだけじゃなくて、その人なりに消費者目線で判断したっていいわけです。

渡辺

というと?

田端さん

たとえば、『Switch(スイッチ)』のおかげでいま任天堂の株価は、底からみたら5〜6倍とすごいことになってるじゃないですか。

僕もDeNAと提携しはじめた頃からウォッチしてて株も少し持ってたんですけど、なかなか本気でスマホに力入れる様子もないし、スイッチが発売されてもちょっとよくわかんないなぁと思ってて。

株価も1万円台でなかなか値動きがないから、しびれ切らして売っちゃったんですよ。

でもいまになってみれば「しまった」と。やっぱりものすごい底力がある会社なんだなぁと思いましたね。

渡辺

すごいですよね。『Nintendo Labo』(スイッチと合体するダンボール工作キット)も感動しました。

田端さん

そうそう。でも結局、そのとき自分は任天堂のポテンシャルを信じ抜けなかったんですよね。

ただ、ゲームマニアだったら『Switch』が出た瞬間にイケてるかどうかわかるわけじゃないですか。

渡辺

たしかにそうですね。消費者目線なら、誰でも自信を持って判断できる領域がありそうです。

田端さん

だから、実際にその会社に行ってみたり、工場見学をしてみたり、社員から話を聞いてみたりすることもすごい大事。

そういう現場感覚なしにニュースの見出しだけ見て株を買ったりすると、自分の想定と逆の値動きをしたときに不安になるんです。

だけど、実際に体を動かして、五感をフル活用してその会社のことをよく知っていれば、そういうときでもどっしり構えられる。きっとそのうち(株価が)上がるはずだと。

渡辺

なるほど。

田端さん

小売業者の株だったら、自宅の近くにある店舗を自分の日常生活のなかで定点観測して、変化をウォッチしてみるのもいいんじゃないですか。

たとえば、ちょっと前まで業績不振で叩かれまくってたマクドナルドに行ったら、いつの間にか行列ができてると。それを見て「行列うっとおしいなぁ…」と思うだけなのか、「いや待てよ。これは…」と思えるか。そういう“潮の変わり目”を感じ取ることはすごい重要ですよ。

クリスマス商戦のときに店舗のレジ横に野鳥の会みたいに張り込んで、ひたすら来店客数を数える投資家もいるぐらいですから。

野鳥の会のような投資家

田端

へー、そこまでやるんですか!

田端さん

もっというと、ガチのヘッジファンドは自動車メーカーから新車が出たり、ゲームメーカーから新作のハードウェアが出たら、すぐに買って分解して原価を算出したりしますからね。

渡辺

それは狂気的だな…

でも運用金額が大きいファンドだったら、そこまでしても全然ペイしますもんね。

田端さん

そう。そして何のためにこういうことをしているかというと、要はマーケットの人が知らない情報を知るため

株は、みんなが知ってることを知らないとやられます。みんなが知ってるレベルのことを知ってて五分五分。最高なのは、将来の株価に影響しうる「みんなが知らないこと」を知ってることですよね。

インサイダーのような犯罪行為ではなく、どうやって正当な努力の結果として、自分だけが知っている状態を作り出すか。その勝負なんです。

「株を買うとき、お前はそれを売ろうとしている相手より賢いのか?」

田端さん

あとは、トレーディングについての本で読んで本当にそうだなと思ったんですけど、自分が株を買おうとするときに、必ずそれを売ろうとする人がいるわけですよ。

自分は値上がりすると思って買ってるのに、なぜ相手はこの値段で売ってくれるのか。相手はどんな人で、なぜその人が売るのか。

その理由を推測して納得できなかったら、買うべきじゃないです。

渡辺

た、たしかに…!

言われてみれば、取引をする際はそこ(自分が買おうとしているときに売りたい人がいること)に疑問を感じるべきですよね…

田端さん

リーマンショックが起きる前、サブプライムローンが破綻するほうに賭けてた人たちがなかなか暴落しないことに不安になって、自分たちの反対側のポジションを取ってるヤツらが集まるカンファレンスに顔を拝みに行ったらしいんですね。

そしたら2次会からはどんちゃん騒ぎで、ボンクラファンドマネージャーが接待されてヘベレケになってただけだったと。

そういう光景を見て、「コイツらはアホだ! やっぱり自分たちの考えは正しい!」と確信を持ったっていう(笑)。

渡辺

へぇ〜! それはおもしろい話ですね。

田端さん

要は、「自分の反対側にいる人はあなたより賢いんですか? バカなんですか?」ということですよ。

それを自問したときに、「自分がその人より賢いと思える理由」を答えられるかどうか。

今回もっとも力説してたのはココ!

渡辺

ぐぬぬ…

田端さん

そういう意味だと一番コワイのは、経営者の自社株売りとか。

自分がその人たち以上にその会社のことを知ってるなんて、まずないじゃないですか。別荘建てたいとか離婚の慰謝料が必要とか、そういうわかりやすい理由があるならいいですけど(笑)。

しれっと社長や幹部が自社株を売ってて、その理由もよくわからないみたいのはめちゃくちゃイヤなサインですよ。その会社の判断について、その人たちより自分が賢いのかと言われたらね。

渡辺

たしかにそうですね。

しかし「自分が相手より賢いと思えるか」となると、そうカンタンには株買えないです…

田端さん

でもね、自分の肌感ですけど、たぶん株を売買してる人のほとんどは決算資料をちゃんと読んでないと思います。見出しの印象だけで売買してるはず。

だからちゃんと(IR情報を)読み込む時点で、7〜8割の投資家よりは賢いんだと思っていいんじゃないですかね。

渡辺

ちょっとだけ希望が見えました(笑)。

田端さん

いずれにせよ、「自分の仮説」と「相手の動機」を照らし合わせるというのはすごい重要な作業ですよ。

「株を持つとセンサーが磨かれて、物事を多角的に見れるようになる」

渡辺

それにしても、田端さんってなんでそんなに博識なんですかね?

ぶっちゃけ、仕事してないとしか思えません。

田端さん

え!? まぁ、そうかもしれないですね(笑)。

…実際どうなんだろ?

田端さん

でも、ちょっとでも株とかでポジションを取ると、同じ場面でも他の人よりいろんなことに気付くんですよね。アンテナの感度が上がる

当たり前ですけど、自分がマクドナルドの株主になったら、マクドナルドの前を漫然と通らないじゃないですか。「客入ってるかな〜」って気になったり。

渡辺

なるほど。株を持つからこそ情報感度が高くなると。

田端さん

キレイごとみたいに聞こえるかもしれないですけど、僕も子どもができたら環境問題とか財政問題とか、日本の将来がちょっと気になるようになってきて。

株主になるってのもそれに近いところがあって、そういう状況に晒されると、やっぱりセンサーって磨かれる。同じものを見たときに、多角的に見れるようになるんですよね。

渡辺

田端さんの視野の広さの秘密がわかった気がします。

田端さん

もちろんね、藤田(晋)さんが言ってた「たいして元手がないヤツが投資のこと考えたってしょうがねぇじゃん」ってのはマジ正論。

ただ、ビジネスマンとしていい仕事をするためにも株主目線はめちゃくちゃ大事なので、そういう意味では(投資も)けっして無駄じゃないとは思いますけどね。

渡辺

話を聞いてたら僕もそう思えてきました。

田端さん

むしろ、資本主義社会のなかにいながらその感性をまったく持ってないというのは、何が役満や満貫になるのか、ルールがわからずになんとなく麻雀打ってるみたいなもんですよ。

サッカーやってるのかラグビーやってるのかもよくわからず、ボールを追っかけてフィールドを無駄に走り回ってるみたいな。

…あれ、今日この目線で語ってていいのかな? お金というよりは、ビジネスリテラシーみたいな話になってるけど(笑)。

渡辺

いや、全然いいです。めちゃくちゃ勉強になります。どんどん行きましょう!

後編へ続く…

取れ高ありすぎて1記事では収まりきらなかった田端さんインタビュー、前編はここまで。

キレッキレの語りっぷりと話の納得感に、今回は渡辺も「そうですね」を繰り返す“いいとも”の観客みたいになってしまいました。「突撃」のコンセプトはどこへやら…(泣)。

しかし、後編では田端さん自身の資産や具体的な運用の話に切り込んでいきます。ぜひお楽しみに!

〈取材・文=渡辺将基(新R25編集長)/撮影=福田啄也(新R25編集部)〉

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