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「ヒットはファンが喜ぶことじゃない」
金爆・鬼龍院翔に「一発屋で終わらなかった理由」を聞いたら、ファン目線に圧倒された
新R25編集部
2009年にリリースした「女々しくて」が大ヒットしたゴールデンボンバー。オリコンカラオケチャートで51週連続第1位(日本記録)、オリコン週間ランキングでインディーズ史上初のシングル&アルバム初登場1位という快挙を成し遂げました。
その人気はいまもなお健在。 “Vo-karu”の鬼龍院翔さんのブログはフォロワーが21万人、“Gita-”喜矢武豊さんのTwitterのフォロワーは55万人、“Be-su”歌広場淳さんのTwitterのフォロワーは69万人!
当初は彼らを指して“一発屋”という声も聞きましたが、いったいなぜ、いまだにこんなにも支持されているのか。鬼龍院翔さんに疑問をぶつけてきました。
【鬼龍院翔(きりゅういん・しょう)】1984年6月20日生まれ。ゴールデンボンバーの楽曲の作詞・作曲を手掛けている。12歳のころ、『笑っていいとも!』に出るために自宅で江頭2:50の真似を練習して横に倒れたら、鎖骨を折ったことがある。2004年にゴールデンボンバーを結成。2012年に「女々しくて」が大ヒットし、同年には第63回NHK紅白歌合戦に初出演を果たした。その後も、特典なしのCDリリースや、メンバーの体臭を再現したカードにCDをつけて販売するなどの取り組みも話題になった
「エアーバンド」誕生は、耳が聞こえない女の子への恋がきっかけ
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編集部・葛上
「女々しくて」が話題になった当初は、ゴールデンボンバーさんを指して「一発屋だ」なんて声も耳にしましたが、いまもなお多くのファンに支持されていますよね。
一見ネタっぽい“エアーバンド”という形式は、戦略的に選んだものなんでしょうか?
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鬼龍院さん
そもそも、僕らは自分たちのことをエアーバンドだと思ってない節があるんです。
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編集部・葛上
えっと…それはどういうことでしょう?
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鬼龍院さん
あのですね、弾いてる弾いてないっていうのは、実は些細なことなんじゃないかと思ってるんです。
なぜなら、現代の音楽ってステージで演奏している楽器だけでは成立しないんですよ。いろんな音が混ざってるのが当たり前。生演奏だけに聴こえても、演奏者はリズムを維持するためのクリック音を聴いてることもあるんです。
そんなふうに音の大部分が機械的に制御されているのなら、生演奏かどうかはそれほど大したことじゃないのでは、と。
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編集部・葛上
あくまで程度に差があるだけ、ということですね。
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鬼龍院さん
はい。だから『とくダネ』の特集で「彼らは楽器を演奏しないエアーバンドなんです!」と紹介されたときに、「ああ、たしかに」って気付かされたんですよ。
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編集部・葛上
そのタイミングで気付いたんですね(笑)。
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鬼龍院さん
僕らは「ライブでどうパフォーマンスするか?」ということばっかり考えていたので、「演奏してないのがおもしろいでしょ」ってスタンスはとったことないんです。
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編集部・葛上
「音楽業界の流れを読んで、キャッチフレーズ的に選択した」…とかではないんですね。
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鬼龍院さん
全然、長期的な戦略とか考えちゃいないんです。目の前のことにがむしゃらに取り組むだけ。
インタビューによっては「実は戦略家だ」というように見えるかもしれませんが、普段はそんなこと考えてません。
今日もずっとAV観てましたし。
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編集部・葛上
(笑)。でも、あえて楽器を弾かないことを選んだのには、なにか理由があるのでは?
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鬼龍院さん
それは“証明”のためなんです。
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編集部・葛上
証明というと?
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鬼龍院さん
「エアーバンドでも成立するんだ!」っていうのを世間に認めさせたいんです。その意地がずっとあるから、いままで頑張ってこられました。
というのも、音楽に対する宗教的な既成概念が僕は嫌いなんです。その憎しみが原動力になっています。
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編集部・葛上
鬼龍院さんから“憎しみ”という言葉が出てくるとは…なにかきっかけがあったんですか?
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鬼龍院さん
20歳のころの恋がきっかけですね。
当時好きだった子が、耳の聞こえない障がいを持っていたんです。その子を理解しようと努力するうちに、音楽の無力さを感じるようになりました。「頑張っていい曲をつくってもあの子には届かないんだ」と。
そこからだんだん「音楽がないと生きていけない」というような盲信を憎むようになっていきました。
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鬼龍院さん
演奏してるかしてないかなんて、どうでもいい話。そういう細かいことにこだわるのではなくて、もっと多くの人が音楽を楽しめるようにしたいんです。
耳が聞こえない方でも、ダンスとか動きを通じてなら音楽を楽しめるんですよ。そういう理由もあって視覚的な楽しさも追求しています。
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編集部・葛上
あの…聞いていて疑問に思ってしまったのですが、鬼龍院さんは音楽がお好きなのでしょうか。
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鬼龍院さん
もはや音楽が好きだったのか、嫌いだったのかはよくわからないんです。
音楽を聴いて感動したり、興奮したりできるので、愛は持っているはずなんです…でも憎んでもいる。
愛と憎しみが混ざっているからこそ、より強い想いになっているのかもしれません。
ムリにヒットは狙わない。すでにいるファンを大切にすればいい
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編集部・葛上
ゴールデンボンバーさんといえば、「女々しくて」の大ヒットで一気に知名度が高まりましたが、あれは狙っていたのでしょうか。
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鬼龍院さん
僕は狙ってないです。ただ、事務所が狙ったんですよ。突然、「『女々しくて』を国民的ヒット曲にする」と宣言されて。
そんなことできるわけない、って思いますよね(笑)。
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編集部・葛上
それができたら、どのバンドも困りませんからね(笑)。
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鬼龍院さん
でも、テレビ局に対して交渉力のある方が事務所に入って、いろんな番組で「女々しくて」を歌わせてもらえるようになったんです。
そしたらいつの間にかヒットしてたんですよねぇ。
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編集部・葛上
いつの間にか…!? 具体的にはなにがきっかけだったのでしょう?
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鬼龍院さん
きっかけは、オリエンタルラジオさんですね。バラエティ番組でモノマネをしてくださって、“本人登場”という流れで僕たちも出演させていただきました。
その反響が歌番組より大きくて、以降はバラエティ番組を攻めようという流れになりました。
あえて自分のフィールドじゃないところへ飛び込むと、一気に話題化できることがあるんですよね。
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編集部・葛上
なるほど! では、以降も同じようにしてヒットを狙いつづけているのでしょうか。
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鬼龍院さん
正直なところ、ヒットは狙ってません。ヒットってファンが喜ぶことではないんですよ。
昨今はたとえいい曲ができても、ファンしか買わない、ファンしか聴かない、ファンしか評価してくれない時代です。その枠を越えて、ファン以外にも届くのがヒット。
つまりヒットを意図的につくろうとしたら、ファン以外に目を向けなければなりません。
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鬼龍院さん
そんなことばかり続けていたら、ファンは「もっと私たちに優しくして」って寂しくなってしまうと思うんです。
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編集部・葛上
ファンからすると、求めているものが出てこなくて応援する気が失せてしまうと。
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鬼龍院さん
そうです。それに音楽業界はヒットが生まれづらい構造になってきているので、やたらヒットへの憧れを持ちつづけていたら身がもたない。
だったら、すでに応援してくださってるファンを大切にする方向でいいんじゃないかと。
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編集部・葛上
あの、とても失礼な話ですけど、「ゴールデンボンバーは『女々しくて』しかヒット曲がない」みたいな嫌味も聞きますが…
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鬼龍院さん
この時代にひとつでも曲がヒットしたって、それだけで素晴らしいことじゃないですか。
むしろ知っていてくれてありがとうございます、と穏やかな気持ちでいますね(笑)。
“冷たい部分”が出ないよう、ファンとの接点に目を光らせてきた
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編集部・葛上
「ファンを大切にする」とおっしゃってましたが、具体的にどういったことをされているのでしょう。
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鬼龍院さん
それは「冷たくしない」ということに尽きます。
たとえば握手会をやるときに、注意事項とともに事務所が告知しますよね。そのときの文章が、以前はものすごく細かくて長かったんですよ。
言い方が悪いですけど、「これだけ書いときゃこっちは悪くない」というスタンスだったんです。
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編集部・葛上
後からクレームを受けても「ここに書いてあるだろ」と言えるように。
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鬼龍院さん
でも、そんなの誰も読みたがらないじゃないですか。突き放すのではなく、めんどくさがりなファンもいることを想定して伝えなきゃいけないと思うんです。
伝わるように書かないと、結局トラブルは増えてしまいます。
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編集部・葛上
そういったことを事務所側に注意したりするんでしょうか?
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鬼龍院さん
そうですね。事務所に任せっきりだと、たくさんの“冷たい部分”が出てしまう。だからみなさんとの細かい接点に、頑張って目を光らせてきました。
そしたらですね、やっと近年はゴールデンボンバーを信用してくれるようになってきた気がするんです。「こいつらは冷たくしないぞ」って。
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編集部・葛上
それは素晴らしいですね! ただ、事務所との考え方の違いはストレスになりませんか?
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鬼龍院さん
事務所の方とは立場が違います。マネージャーもただの会社員だから、家に帰ったらゴールデンボンバーのことは頭から離すのが当たり前。
でも僕はいつだってゴールデンボンバーの一員だし、もともと考えすぎる人間だから、ずっとファンのことばかりを考えています。そんな僕と同じくらい、事務所の方が考えを巡らせるっていうのはムリな話。
根本的に立場の違いがあるな、って気づいてからは穏やかになれましたね。
「露骨な金儲け感のある仕事はやめよう」と事務所に言っている
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編集部・葛上
ゴールデンボンバーさんは、いまどこが収益の根幹になってるんですか?
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鬼龍院さん
ライブのチケット収益と、グッズ収益が多いです。
本当はファンがライブのために払ってくださった交通費、宿泊費なんかもアーティストを通して支払えるシステムもあったらいいんですけどね。
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編集部・葛上
おお、それは新しいですね!
収益の話でいうと、最近は『SHOWROOM』や『17Live』といった生放送アプリの“投げ銭ビジネス”が流行りはじめているじゃないですか。
ゴールデンボンバーさんのサービス精神と相性が良さそうに思えるのですが、参入は考えていますか?
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鬼龍院さん
投げ銭のシステムって、お金を多く払った人がなんらかの形で優遇されますよね。それを僕らがやってしまうと、8割ぐらいのファンが少しモヤっとしてしまうと思うんです。
喜ぶのは「お金をたくさん使う」と決めている2割くらいの豊かな人だけ。
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編集部・葛上
ネガティブな反応が大きそうなものには手を出すべきではないと。
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鬼龍院さん
うちの場合は「もう十分成功したんだから、ファンに優しくいようぜ」という気持ちです。
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編集部・葛上
とはいえ、バンドを続けるためにはお金は大事ですよね…?
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鬼龍院さん
大事です。なので、そこは正直に言いますね。
「CDは利率が低いから、買ってくれるのは1枚でいい。もしアーティストを支えたいという気持ちを持ってくれているなら、余分なCDの代わりに利率の高いグッズを買ってください」と。
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編集部・葛上
正直に言ってくれると、ファンは応援している実感が持てそうです。
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鬼龍院さん
そう思ってくれたらうれしいです。それに、まやかしっていらないと思うんです。
時代が変わって、CDが売れることだけが正義ではなくなったのなら、それを正直に言えばいい。それなのにかつての既成概念を盲信しつづけた結果、お金に困って露骨な金儲けをしてしまったら、ファンは応援する気が失せるじゃないですか。
「露骨な金儲け感のある仕事はやめよう」って事務所とも話してますね。
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編集部・葛上
では、まっとうにライブに来てもらうために考えていることはありますか?
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鬼龍院さん
そもそもバンドという形式自体が、集客につながると思っています。
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編集部・葛上
どういうことですか?
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鬼龍院さん
女の子って、ひとりで遠征するの怖いじゃないですか。
ソロシンガーだった場合、同じ人を“推す”ことになるから心の底では仲良くなれないって人も多いみたいなんです。そうなると、ひとりで遠征することになってしまう。
でも複数人で構成されたグループだと“推し”が分散するから、友だちと一緒にライブに参加しやすくなる。僕らとしても、来てくれる公演数が増えるからお互いにとってメリットがありますよね。
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編集部・葛上
なるほど! ゴールデンボンバーさんは“キャラ立ち”してるので、特にはまりそうです。
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鬼龍院さん
エンターテインメントにおいては技術的なうまさは二の次で、オリジナリティのあるキャラのほうが大事だと思ってます。
だからそっちの方向に振り切ってるんですよね。
まとめサイトで見出しになったときをイメージして、パフォーマンスを考える
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編集部・葛上
ゴールデンボンバーさんは、これまでいろんなパフォーマンスをされていますが、「一番ウケたな」というものはなんでしょう?
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鬼龍院さん
最近だと「8秒ライブ」ですね。仲間内のバーベキューで、GLAYのHISASHIさんが「見たよ」って言ってくれたんです。
ファン以外から反応をもらえると、「ウケたな」という実感がありますね。
フリーライブとしておこなわれた「8秒ライブ」の様子
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編集部・葛上
こういったアイデアを考えるときに、どんなことを意識されているのでしょう?
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鬼龍院さん
まとめサイトとかに載ったときに一行の見出しになりますよね。「これが見出しになったらクリックするだろう」って思えるように心がけています。
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編集部・葛上
まとめサイトとか見てらっしゃるんですね(笑)。
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鬼龍院さん
僕はもともと“ネット中毒”な人間なんです。なのでどんなものがウケるか、どんなことが叩かれるかっていうのも身についていると思ってます。
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編集部・葛上
どういうものがウケるとお考えですか?
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鬼龍院さん
要するに人に言いたくなるようなことじゃないですかね。
たとえば「ゴールデンボンバーが『Mステ』で熱唱」って書いてもクリックされない。でも「ゴールデンボンバーが『Mステ』で曲を無料公開」ってなってたら、気になりますよね。
「またバカなことやってる」みたいに、スレッドが立ちそうなことを考えています。
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編集部・葛上
「8秒ライブ」もまさにそんな感じですね。
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鬼龍院さん
はい。あれはTwitterでリツイートしやすいだろうな、とも思ったんです。
通信制限に悩まされているファンでも、20秒くらいの短い動画ならタイムラインでサッと見られます。逆にいくらいい動画でも、数分の長いものは見たがりませんよね。
こんなふうにネットの脳みそで考えることが多いんです。
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編集部・葛上
通信制限! その視点はありませんでした…
「特典なしのCD販売」は事務所に対する反発だった
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編集部・葛上
そんな「おもしろい企画」を常に期待されるのは、ツラいことでもあるのでは?
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鬼龍院さん
毎回、“前回超え”をするのはムリなので、それを目指してしまうとツラいでしょうね。でも、とにかく新しいことをしつづければ、飽きられはしないはず。
それでいいと思います。
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編集部・葛上
「特典を付けずにCDを販売」など業界的には異例のチャレンジをされてますよね。新曲のプロモーションアイデアは、基本的に鬼龍院さんが考えてらっしゃるんですか?
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鬼龍院さん
考えるのは僕ですね。でも「ローラの傷だらけ」に特典を付けなかった件については、ただの反発なんです。
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編集部・葛上
反発…ですか?
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鬼龍院さん
事務所が特典をいろいろつけて、なんとかCDの販売枚数を稼ごうとするんです。
ご恩があるので従っていましたが、ファンから搾取するようでツラかった。それで、あるとき堪忍袋の尾が切れて「次のCDは特典なしで1種類しか出さない。やってくれないなら事務所を抜ける」と訴えたんです。
だからあんなのアイデアではなくて、ただのわがままだったんです。
2014年にリリースされた「ローラの傷だらけ」。特典をつけずに売ることで、純粋に楽曲だけでどれだけ売れるのかテストする意図もあったよう。売り上げ実績を受けて、鬼龍院さんはブログで「誤解を恐れず言うと、僕たちのCDの売り上げ枚数でいうと音楽は特典に勝てない」とコメントを残している。
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編集部・葛上
裏ではそんなことがあったとは…ほかにもいろんなトライをされているもののすべてが“反発”というわけじゃないですよね。
「これは成功したな」というものはありますか?
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鬼龍院さん
最近だと『Mステ』でQRコードを映して、新曲を無料でダウンロードできるようにしたことですね。
あれは無料で新曲を聴けるようにして話題になった一方で、ちゃんとCDも売りました。
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編集部・葛上
え、どうやってですか?
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鬼龍院さん
無料でダウンロードできるのはあくまで表題曲だけだから、カップリングを目当てにファンはCDを買ってくれる。
しかも、3曲入りと発表しておいて「無料で曲を公開してすみません。実は4曲入りです」と、買ってくれた人にとってはサプライズ的に、収録曲数を多くした。
ファン以外の人に曲を届けながらも、ファンもないがしろにせずにいられた良い例かな、と。
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編集部・葛上
今回の取材を通して、本当に徹底してファン目線で考えてらっしゃるんだなと感じました。
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鬼龍院さん
すべての判断はファンを基準にするべきです。感じたことが率直に書かれているファンレターにきちんと目を通していれば、やったほうがいいこと、避けるべきことが見えてくる。
そうやって努力して、ファンが応援したい存在でいつづけることがもっとも大事なんです。
ファンなくしてバンドマンは食っていけませんからね。
〈取材・文=葛上洋平(@s1greg0k0t1)/撮影=小野直樹〉
お知らせ
2018年9月1日(土)に発売された、ゴールデンボンバーの新曲「タツオ…嫁を俺にくれ」は、なんとこれまで“Doramu”だった樽美酒研二さんが作詞・作曲・歌唱をおこなう異例のチャレンジ。
樽美酒さんが「すごくヒマだったからつくった」という新曲はこちらからチェック!
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