ビジネスパーソンインタビュー
多様性を認める文化を、花の世界から。フラワーサイクリスト® 河島春佳が「規格外な自分」から見つけ出した使命

“はたらくWell-being”は欲張っていい

多様性を認める文化を、花の世界から。フラワーサイクリスト® 河島春佳が「規格外な自分」から見つけ出した使命

新R25編集部

連載

「“はたらくWell-being”を考えよう」

Sponsored by パーソルホールディングス株式会社

2024/05/24

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リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。

現場ではたらくビジネスパーソンの中には、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。

そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。

「はたらくWell-being」とは、はたらくことを通してその人自身が感じる幸せや満足感のこと。それを測るための3つの質問があります。

①あなたは、日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか?

②自分の仕事は、人々の生活をよりよくすることにつながっていると思いますか?

③自分の仕事や働き方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態ですか?

3つの質問すべてに「YES」と答えられる人は「はたらくWell-being」が高いと言えます。「“はたらくWell-being”を考えよう」では、日々、充実感を持ってはたらく方々へのインタビューを通して、幸せにはたらくためのヒントを探します。

今回紹介するのは、株式会社RIN 代表の河島春佳さんです。

さまざまな理由で廃棄されてしまう花を再活用する「フラワーサイクリスト®」という肩書きを自らつくり、パリでの修行など、自身の挑戦に応援者を増やしながら活動してきた河島さん。

始まりこそ「捨てられてしまうお花をどうにかしたい」という気持ちでしたが、今や「社会貢献活動」の枠組みとして注目され、大手企業からもコラボレーションの依頼が絶えません。

書籍の出版やフラワーサイクリスト®の育成による女性活躍支援など、多方面に活躍の場を広げる河島さん。プライベートでは一児の母でもあり、「欲張りに全部やりたい」と話す彼女にとっての“はたらくWell-being”を聞きます。

長野県生まれ。“花のロスを減らし、花のある生活を文化にする”をミッションとし、ロスフラワー®を用いたブランディング事業(空間装飾、広告スタイリング)、花農家と消費者の架け橋として開設したオンラインショップ「フラワーサイクルマルシェ」、フラワーサイクリスト®を育成する「フラワーキャリアアカデミー」、花のある生活の魅力を伝えるコミュニティ事業などを展開。自著には『生花からドライまで、花を愉しむアイデア おうちでフラワーサイクルアート』や『いつまでも美しい染色ドライフラワー図鑑』がある。プライベートでは一児の母。

河島さんのInstagram

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均一が良しとされてきた社会に、個性を広げる

飯室

河島さんが代表を務める株式会社RINでは、廃棄される予定のお花をどれくらいの量、扱っているんですか?

河島さん

変動はありますが、少なくとも週1,000本以上の仕入れがあり、そのうちの半分が廃棄予定で、私たちが「ロスフラワー®」と呼んでいるお花たちです。

お付き合いのある生産者さんから市場に出荷できない分を購入させていただくことが多いですが、突発的なものとして、結婚式やイベントなどで使用され、役目を終えたけどまだ綺麗なお花たちを引き取ることもあります。

飯室

なるほど、出荷できないものや、役目を終えたものが廃棄の対象となるんですね。

市場に出荷できないお花とは、どういったお花なんですか?

このお花もそうなんですけど…

河島さん

蕾が小さい、枝が曲がっているなど、花市場に出荷するために定められた規格から外れてしまったお花ですね。

丹精込めて育てても、年間生産数の1〜2割程度は、出荷できないお花が出てしまうんです。

飯室

規格外とはいえ、お花はお花ですよね?

河島さん

そうなんです。

世界的にみても日本のお花はクオリティが高いと言われていて、その分クリアすべき基準も高いので、規格外のお花が発生してしまうんです。

私としては、そういったお花を「規格外」とは言わずに「不揃いなお花」など可愛らしいネーミングにして、世の中に出していきたいという想いがあります。

飯室

わあ! 呼び方が変わると、印象も変わりますね。

河島さん

お花に限らず、日本人特有の美品意識ってあるじゃないですか。

お野菜も傷がないものが良いとされる価値観。でも、海外に出てみるとお野菜もお花も不揃いなことが当たり前だったりするんですよね。

みんなと同じでなくても世の中に出ていける、そういう多様性のある流通を花の業界でつくりたいなと思っています。

飯室

なぜそう思われるようになったんですか?

河島さん

おそらく、私自身を規格外のお花に重ねているところがあるんだと思います。

就職活動でつまづいてしまって、そのとき自分のことを「規格外」なのだと感じていました。

飯室

規格外!?

河島さん

社会のルールに合わせる能力が、自分は低い感覚があったんですよね。

飯室

と、言うと?

河島さん

本当に些細なことの積み重ねなのですが…アパレル業界を中心に就職活動をしていたなかで「面接は好きな洋服でお越しください」と書いてあったから本当に好きな服を着て行ったら、会場にはスーツの人ばかりで。

多くの人は、「とはいえ面接だからスーツだよね、ヒールの靴だよね」と判断ができるのに、そういう「とはいえ」のルールを察する力みたいなのが弱いのかなと思ったりしました。

好きなブーツを履いていって、会場でめちゃくちゃ浮きました

飯室

あ、似たような経験あります!

河島さん

結局就職先が決まらないまま、大学卒業を迎えました。

友人たちがきちんと就職してはたらいているのを横目に見ながら、「どこかに就職しなきゃ!」と、なんとか就職先を見つけたものの、自分の意思が強いが故に上司との関係がうまくいかなくて。

飯室

社会では個性を出しすぎちゃいけないのかなって、私も思ったことありました。

河島さん

人もお花も社会に出ていくための流通ルートみたいなものがあって、そこに乗れるか乗れないかでその後の生き方が明確に分かれてしまう

私自身は乗れなかったものだから、ルールからは外れたと判断されるお花を見ると、無視できなくて。

「絶対活躍できる場を与える!」って使命感が沸くんですよね。

個性的なお花に、自分の不器用さを重ねちゃうんです

飯室

なんだか急に、規格外のお花への愛着が湧いてきました。

そういった個性のあるお花に活躍する場をつくるお仕事をされているのですね。

河島さん

まだ美しいのに捨てられてしまう業界で、その花たちに新たな価値をつけたくて、「ロスフラワー®︎」と名付けました。

私の肩書きである「フラワーサイクリスト®」は、Flower+Upcyclingの造語で、「ものづくりの力でロスフラワー®︎にさらなる価値を与える人」を意味しています。

RINは、お花屋さんではないけれど花を売るというコンセプトのもと、ロスフラワー®︎を空間装飾・広告スタイリングに使用したり、加工を加えて自社オンラインショップで販売したり、企業とコラボレーションしたアイテム開発をしたりしながら、再び命を吹き込む活動をしています。

ストーリーのある「欲張りキャリア」を実現するには

飯室

社会的にも意義のあるお仕事をされていると思うのですが、大学卒業後に就職されてから、どのように今のお仕事に辿り着いたんですか?

河島さん

2011年に大学を卒業して、フラワーサイクリスト®としての活動を始めたのは2017年なので、割と長い期間どんな仕事をして生きていくのかを模索していましたね。

飯室

約6年、確かにしっかりと時間をかけてらっしゃいますね。

河島さん

20代は、みんなと同じようにはたらけないことへの劣等感に苛まれていましたね(笑)。

頑張って就職したけれど結局やりがいを持てず、そのときに初めて、「どういうライフスタイルを自分は望んでいるんだっけ?」ということを考え始めました。

そのときに、真っ先に頭に浮かんだのは、仕事も子育ても実現できる女性になりたいということでしたね。

飯室

なりたい職業というより、ありたい姿が思い浮かんだんですね。

河島さん

就職が大きな壁だと思っていたけれど、就職したらしたで次は結婚や出産のことが気になってくる。

20代後半に差し掛かってくると、キャリアか家庭のどちらを選ぶかの選択で迷う女性は多いと思うんです。

当時はたらいていた会社は産休育休の例が少なかったので余計に危機感を感じたのかもしれないですが、「ここではたらき続けていたら、なりたい自分にはなれないかもしれない」と不安になったことを覚えています。

そうすると、ある程度自分ではたらき方や時間をコントロールできた方がいいなと思いはじめ、そもそも性格的にも自分で事業を起こした方が合うだろうなと、個人事業主の道を考え始めたんです。

飯室

それで、お花のお仕事を?

河島さん

いえ、最初はWebデザイナーを目指しました。

なんで?

河島さん

なんか、流行ってたんですよね(笑)。

個人事業主のはたらき方は今ほど浸透していなくて、その走りとして「Webデザインで個人事業主になろう!」みたいなトレンドがあって。

勉強するために仕事と並行して夜間の学校に通い、ひと通り学んだ後に「合わない」って気づきました。

飯室

なんと!

河島さん

やり切ったからこそ「違った!」を知れたので、結果良かったんですけどね。

そのときにようやく、「私は何が好きなんだっけ?」って自分と向き合い始めたんです。

もともと自然豊かな土地で生まれてお花が大好きで、かつ大学ではファッションを通じてクリエイティブなことを学んできたので、じゃあお花を使った作家活動だ! と思い立ってお花の世界に入りました。

最初はドライフラワーの作家として活動を始めたのですが、これがめちゃくちゃ競合がいる。

このときに漠然と、自分なりのコンセプトや優位性がないとこの世界では生き残っていけないと感じましたね。

飯室

厳しい世界。

河島さん

自分の優位性って何だろうと模索しているなかで、半年間だけお花屋さんでアルバイトをしたのですが、そのときに廃棄されるお花に出会ったんです。

特に、クリスマスの翌日にゴミ袋いっぱいに入っている薔薇を見たことが、転機になりました。

飯室

ゴミ袋いっぱいのバラの花…

河島さん

大好きなお花が捨てられている姿を見るのが、すごくショックだったんですよね。

でも、私にとっては宝の山です。

「私だったら活用できる!」と思いましたし、実際にそのバラを引き取ってドライフラワーにしてブーケにして、次の月に青山のFarmers Marketに出店しました。

飯室

展開が早い!

河島さん

そのときに、「ロスフラワー®」と名付けたんです。

当時は「フードロス」という言葉がで始めた頃で、捨てられるものに対する社会的な課題意識も高まってきたタイミングだったので、「実はお花もロスがあるんですよ」と伝えたくて。

そして、販売するときにもそのバラたちの背景をお伝えしたんですよね。

すると、3人に2人は「そんなお花があるの!? 買うよ!」と購入してくださったんです。

ほかにも商品があるなかで、ストーリーを伝えたバラのブーケだけは、数時間で完売しました

飯室

すごい。

河島さん

この経験があって、もし、捨てられてしまうお花が活用できるのであれば、これを事業にしていきたいと思うようになりました。

とすると、「フローリスト」という肩書きは合わないなと思えてきて、「フラワーサイクリスト®」というコンセプトができました。

飯室

ストーリーを語ることやコンセプトを大切にする姿勢は、このタイミングで生まれたんですね。

河島さん

そうですね。

そこから、セルフブランディングにもきちんと取り組むようになりました。

セルフブランディングでは「本気を見せる」

飯室

事業の方向性が決まったあと、2018年にクラウドファンディングで資金を集めてパリ留学へ行かれていますよね。

河島さん

そうですね、改めて技術を身につけようと留学しました。

これも、自分の優位性をつくる、セルフブランディングが目的でした。

飯室

と言うと?

河島さん

ある友人から、「自分が憧れている人のプロフィールを真似て、自分でつくってみなよ」とアドバイスをもらったんです。

ロールモデルにしていた女性フローリストさんがいたので、「この方のどういうところを魅力的に感じるんだろう?」と改めて考えたときに、「イギリス留学しているところだ!」と気がついて。

日本にも学べるところはありましたが、海外で技術を学びたい、そして感性を磨きたいと思ったときに、私はパリに行こうと決めました。

そして、せっかく行くならこっそり行くのではなくて、きちんと発信して活動へのファンづくりもしたいなと、クラウドファンディングで資金を集めました。

飯室

今でこそ資金集めとしてクラウドファンディングは一般的ですが、6年前だと、今ほど一般的ではなかったですよね?

河島さん

そうですね。

「クラウドファンディングって何? 寄付?」と言われるような感じでしたね。

具体的に応援してくださる方を増やすということは、相応の覚悟が必要で。

だから、クラウドファンディングで海外留学にいくということは、私がこれからお花を扱う仕事を本気でやっていくんだという決意表明でもありました

飯室

決意表明。

河島さん

お花は趣味嗜好品なので、「片手間でやってるんでしょ?」と見られることも少なくなくて。

私は本気でやっているんだ! ということを示したかったんですよね。

応援していただいた分、私はこの経験を次の世代に伝えていきたいなと今は考えていて、お花で事業を立ち上げたい女性たちを募り、女性自立支援のような活動もしています。

これは、私にとっての恩送りでもあるんです。

飯室

「自分の優位性とは?」を探し始めたところから、一歩ずつ、「河島さんのはたらき方」を手繰り寄せていった感じがありますね。

河島さん

本当ですね。

最初は「お花の仕事ができて楽しい!」というモチベーションでしたが、今は“自分の好き”と“社会に還元できるスキル”がマッチしている感覚が楽しいと感じています。

お付き合いする生産者さんや企業さんが増え、フラワーサイクリスト®として活動してくださる方が増え、さらにはコロナ禍でイベントやマルシェができず、多くのお花の行き場がなくなったことで、力になりたいと思える存在が増えていきました。

今は、社会課題を担う使命感も感じています。

株式会社RINにしかできない事業形態で「社会に役立てることは何か?」を考えるようになりましたね。

ついに自分の使命を見つけられた。

この仕事をすればするほど、花への感謝が増しています。

ビジネスパーソンこそ、花を生活に取り入れてほしい

飯室

RINは「花のロスを減らし花のある生活を文化にする」を掲げていますが、新R25の読者であるビジネスパーソンは、どのようにお花を楽しんだらいいか、おすすめはありますか?

河島さん

もちろん! お花は飾るだけで心を豊かにしてくれる趣向品ではありますが、私は「自分と向き合うための導入」として使えるツールだと思っているんです。

飯室

自分と向き合うための導入?

河島さん

お花は毎日水を変えることですごく長持ちするのですが、水を変えられるということはお花に意識が向いている状態で、自分の心に余裕がある証拠だと思うんです。

私にとっては自分の状態を知るバロメーターになっているんですけど、お水を変えられないときは「私今、余裕がないんだな」と気がつけるんです。

枯らしてしまったりすると、「何か変なオーラが出てる!?」 って気になります(笑)。

飯室

あ、そういえば今日の朝、お花の水変えてないな…

河島さん

ということは、余裕がない状態かもしれないですね。

現代社会で生きるには、自分の心と体がつながっていることをいかに意識するかって大切じゃないですか。

だけど、それを測れるのは自分の感覚でしかない。

それを可視化して唯一測れるのが“お花”じゃないかと思ってるんですよね。

飯室

お花の可能性がすごい。

河島さん

癒しだけではない効果・効能がお花にはあるんです。

癒しを求める方法は世の中にいっぱいあるけれども、お花は一輪買うだけで手軽だし、ただ可愛いだけじゃない。

ビジネスパーソンにこそ、お花を買う習慣があってもいいかもしれないですよね

「お花を通して、どうやって人々を幸せにするか」。多様なアプローチにチャレンジしながら、花業界全体を底上げしていきたいですね。

<取材・執筆=飯室 佐世子 / 撮影=曽川 拓哉>

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