

「障がいを理由に諦める必要はない」人生の可能性を広げる就労支援サービス「星空シネマ」
主体はあくまでも“自分自身”。受け身ではない、障がい者の生き方支援
新R25編集部
目指すのは、「どんな障がいがあっても自分らしく生活できる」社会。
そう語り、「就労継続支援B型事業所 星空シネマ」の運営とともに、普段は一人でも多くの障がい者が自立生活を送れるよう支援しているのは、CIL星空の代表・井谷重人さんです。
自身が障がい者であることの強みを活かしながら、社会にある「生きづらさ」をなくすために日々活動しているんだそう。
社会には「まだまだ多くの問題がある」と井谷さんは言います。具体的な取り組みと今後のビジョンについて聞きました。
〈聞き手=古川裕子(新R25編集部)〉
5年間の引きこもりから一転、支援団体を設立したワケ

井谷さん
CIL星空は、2009年4月に立ち上げた障がい者の自立を支援する団体です。
自立支援の他にも、バリアフリー推進運動、権利擁護活動、国際協力などを行い、それらの活動内容を講演会でも発信しています。
そんな私たちが開設した「就労継続支援B型事業所 星空シネマ」は、障がい者の障がい者による障がい者のための福祉事業所です。


井谷さん
「就労継続支援B型」とは、障がいや難病などの理由で一般就労が難しい方に対して、働く場所と機会を提供する福祉サービスのひとつです。

古川
団体設立のきっかけは何だったんですか?

井谷さん
私自身、車椅子ユーザーなんですが…
これまでの経験を活かして「他の障がい者も元気にしたい」「同じように自立生活を送る人を増やしたい」という想いから設立しました。地元である愛媛県を中心に支援を行っています。


古川
これまでの経験とは…?

井谷さん
私は22歳のときに交通事故で首の骨を骨折し、重度障がい者となりました。
はじめはリハビリに通っていたものの、途中で意欲を失い、人と会うことを避けるように。家族の介助に頼りっぱなしで、約5年間ほとんど外出もしませんでした。
ただ、以前は社会と関わる仕事をしていたこともあり、そんな生活に不安を感じ始めて。
そして「障がい者でも働ける」という話を聞いて、新たな一歩を踏み出したんです。

古川
それが井谷さんの“自立”の始まりだったんですね。
CIL星空の「CIL」とはどういう意味なんでしょう?

井谷さん
Center for Independent Livingの略で、自立生活センターのことです。1970年代にアメリカで始まった自立生活運動の拠点として誕生し、世界各国に広がりました。
最大の特徴は、障がい者の地域での自立生活を支えるため、運営やサービスを障がい者自身が中心となって行うこと。
これは、障がい者のニーズをもっともよく理解しているのは当事者自身だという考えにもとづいています。


古川
なるほど。ただ、そうは言っても、自立をするにはいろいろなハードルがありませんか…?

井谷さん
「重度な障がいを持っている人が自立できるの?」と思う人もいるかもしれませんが…
CILにおける自立とは、どんな障がいを持っていても、住みたいところに住むなど、自己選択、自己決定によって自分らしい生活を送ることだと考えています。

古川
「決められた」生活ではなく、ということですね。

井谷さん
そうですね。
今、愛媛県松山市では重度障がい者でも自立できることが広まりつつあります。
この流れを愛媛県全域に広げ、より多くの多様な障がい者が、自立を含めた、たくさんの選択肢を持てるようにしていきたいと考えています。
そこで、まずはどんな障がい者でも働ける場所をつくりたいという思いから、西予市に「就労継続支援B型事業所 星空シネマ」を開設しました。

「自分で選ぶ」が基本。個性を活かす就労支援の取り組み

古川
「就労継続支援B型事業所 星空シネマ」では、どんな活動をされているんでしょう?

井谷さん
ハンドメイド制作、刺しゅうや編みものの制作、パソコン作業、軽作業、清掃作業、古着販売など…さまざまな作業をご用意していて、その日やる作業を自分で選ぶことができる仕組みです。
決まった作業を強制するのではなく、あくまで本人がやりたいと思う気持ちを大切にし、一緒に仕事やサービスをつくり上げていきます。


古川
自分のやりたいことを選べるのはいいですね。でも、そのなかにできそうなものがなかったら…?

井谷さん
もし用意している作業のなかに自分にできるものがなければ、可能な限り本人の希望に沿って、一緒にできることを探します。
スタッフも障がいをもつ当事者なので、人によってできること・できないことがあるのはよくわかっています。
現在は在宅就労にも力を入れていて、在宅でもできる作業をたくさん用意しているんですよ。


古川
へぇ〜! 選択肢の幅も広いんですね。

井谷さん
一部パソコンの貸し出しもしていて、初心者でもイチから学べる環境を整えています。
他で作業をすることが難しかった方でも、「星空シネマ」ならきっとできることが見つかります。


井谷さん
そして、私たちは利用者さんのことを「メンバーさん」と呼んでいて。

古川
なぜ、そういう呼び方を?

井谷さん
これは、私たちの事業所を利用される方が、私たちと一緒に事業所をつくってくれる“メンバー”だという意味。
メンバーさんの想いを聞いたり、お話しするなかで生まれたアイデアを、事業所で行う仕事やサービスに反映させていきたいと考えています。

「星空シネマ」に込められた想いとは

井谷さん
これまでの支援のなかで学んだのは、「どんな障がいがあっても、自分らしく生きる権利がある」ということ。
そういうとき、強みになるのは当事者目線なんです。

古川
当事者だからこそ、自分らしく生きることの大変さと大切さを身をもって理解されているんですね。

井谷さん
はい。障がいがあるために自分一人では叶えられないことでも、まわりのサポートや適切な環境があれば実現できるようになります。
障がい者といっても、精神、発達、知的、身体、難病など、その障がいはさまざま。さらに、できること・できないことは、その人それぞれで異なります。
でも、そのすべてに私たちだけの思い込みで対応することは不可能です。だからこそ、その人自身が自分に必要な環境や配慮を考え、やりたいこと・やれることを見つけること、そしてそれを職員が一緒にフォローしていくというかたちを大切にしたいと思っています。


井谷さん
先ほど、私たちが考える“自立”とは「自分らしい生活を送ること」だと言いましたが…
これは身の周りのことをすべて自分でできるようになる「身辺的自立」や、自分でお金を稼ぎ、周りの援助なしに生活が出来るようになる「金銭的自立」のことを指すわけではありません。
自分らしく生きるために、自分のことを自分で決めていくこと。
そして、それを一人で考えるのではなく、たくさんのサポートを受けながら生きること。
自分に合った“自立のかたち”を探すことを大切にしています。


古川
ちなみに、なぜ「星空シネマ」という名前を…?

井谷さん
由来は、「人生は映画、主人公はあなた」という想いからです。
「星空シネマ」では、仕事を通して社会とのつながりをつくり、一歩踏み出すことを目的としています。外に出られなかった障がい者の“第一歩目”として、開設しました。


井谷さん
どんなストーリー、どんな映画にしたいのかは自分次第。
その想いに合わせて、私たちはストーリーに彩りと変化を与える存在になりたいと考えています。
施設を利用したい、または一緒に働きたいという方がいましたら、いつでもご連絡をお待ちしております!
人生の主人公は、言うまでもなく自分自身。それは誰にとっても同じことですよね。
自分らしい生き方を選択し、自分だけの物語を紡いでいく。そんな挑戦をこれからも全力でサポートしていくとのことです。
「星空シネマ」の活動に興味を持った方は、ぜひ問い合わせてみてください。
〈執筆=吉河未布/編集=古川裕子〉
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