小竹海広著『言葉のアップデート術』より

「なぜできなかったの?」と聞いてはいけない。部下のやる気を一瞬で奪う上司の一言4選

仕事
「部下を褒めているのに反応が鈍い」
「どんなふうに距離をつめたらいいかわからない」

…こんな悩みをもつ上司のみなさんは、言葉のチョイスや言い回しをアップデートすることで、悩みを解消できるかも。

「あたらしい時代には、あたらしい言葉が必要だ」と言うのは、ゼンショー×エヴァンゲリオンや岡崎体育×JINROなど、数々のコピーライティングやCMプランニングを担当してきたクリエイティブディレクター・小竹海広(おだけ・みひろ)さん

小竹さんの新著『言葉のアップデート術』から、部下の“やる気を奪う一言”と“やる気を誘う一言”を、4つ抜粋してお届けします。

(読了目安:5分)

部下がやる気を失う言葉①「この資料よくできているね。サンキュー」

感謝には2種類あると言われています。

それはDoing(行為)への感謝と、Being(存在)への感謝です。

「Doingへの感謝」とは、誰かに何かをしてもらったときの感謝で、「Beingへの感謝」は生きていることや、家族や仲間が存在してくれることへの感謝を意味します。

複数の大学の研究で、この「Beingの感謝」の効能が注目されています。

カリフォルニア大学のアルメンタ博士は、Doingの感謝」だけをしているとエゴが強くなり、長期的には鬱傾向になると発表しています。

一方で、Beingの感謝」をしている人は成長意欲が高まり、困難に立ち向かう勇気が出てくるというのです。

さらに、シンガポール国立大学の研究によれば、感謝の気持ちを持っている人は、身体が炎症を起こしたときに出る「インターロイキン–6」というタンパク質の血中濃度が低い傾向にあるそうです。

また、感謝の気持ちを表現すると免疫能力が高くなり、脳の神経細胞が活性化していきます。

言われた側も承認欲求を満たされて、俄然やる気が湧いてくるはずです。
【BEFORE】
この資料よくできているね。サンキュー

【AFTER】
あなたが居てくれて助かりました。ありがとう

出典 言葉のアップデート術

例えばBEFOREのように、部下の行いに対する感謝も大切ですが、これは実は「Doingの感謝」に当たります。

行為への感謝ばかりでは、効果も半減してしまいます。

感謝された人も、ビジネスライクに感謝をしてくれたぐらいの印象しか残りません。

それよりも一例ですが、あなたが居てくれて助かりました」という、「Doingの感謝」をしてみましょう

部下がやる気を失う言葉②「なぜ目標達成できなかったの?」

以前、ビジネスの界隈で「なぜなぜ分析」というフレームワークが流行しました。

これは問題を発見したら「なぜ」を5回繰り返すという思考法で、トヨタの副社長だった大野耐一さんが提唱したと言われています。

例えば、

「① なぜ機械は止まったのか → オーバーロードしたからだ」

「② では、なぜオーバーロードしたのか → 十分に潤滑しなかったからだ」

「③ では、なぜ十分に潤滑しないのか → 潤滑ポンプが故障したからだ」

「④ では、なぜ潤滑ポンプが故障したのか → ポンプが摩耗したからだ」

「⑤ では、なぜポンプが摩耗したのか → ろ過器が付いておらず、切り粉が潤滑油に入ったからだ!」

といった分析手法です。

さすが世界のトヨタ。

自動車のような精密機械は、このようなトラブルシューティングで改善されていくのかと感激します。

しかし、トヨタにおけるエンジニアリングの思考法を一般のビジネスで応用するのは、そう簡単ではないはずです。

なぜなら、人間は機械のように物理的変数をコントロールできないからです。

私たちは、感情や社会といった、コントロールの難しい変数を抱えています。
【BEFORE】
なぜ目標達成できなかったの?

【AFTER】
目標達成にむけて、いちばんの課題はどこにあると思いますか?

出典 言葉のアップデート術

例えばBEFOREのように、「なぜ目標達成できなかったの?」という問いかけは少し乱暴です。

質問の範囲が広すぎて、何を答えていいかわからないからです。

技術的な課題や社会的な背景、労務的な実情、そもそも目標値が高すぎるという問題などが、複雑に絡み合っているのです。

そこでAFTERのように、「いちばんの課題は?」と内容を絞り込んでみてはいかがでしょうか。

ボトルネックは? と聞いてもいいと思います。

質問を1つに絞り込むと回答しやすくなりますし、それでも相手が回答に困って沈黙が流れたときは、シンキングタイムを設けたり、ヒントを示したりするのが有効です。

部下がやる気を失う言葉③「上司より、部下が先に帰っちゃダメでしょ」

どんな会社にも、合理的ではない謎のルールがあるものです。

私が調べた限りでも、「忘年会や新年会の幹事は若手に」「赤いハンコを押すのは役職者以上」「女性社員が大皿からサラダを取り分ける」「企画書は紙で人数分を印刷する」といった謎ルールが、令和になっても未だにあるようです。

合理的な理由もなく、昔からの慣習で何の疑いもなく続けられていたり、上司が部下に対して権威を示したりするために、設定されているケースも少なくありません。

ルールというのは一度設定をしてしまえば、「ルールを破った人」という一点だけで、相手を非難できる便利なマウンティングツールなのです。
【BEFORE】
上司より、部下が先に帰っちゃダメでしょ

【AFTER】
集中できる場所なら、残業に気をつけて、どこでも仕事場にすればいいよ

出典 言葉のアップデート術

例えばBEFOREのように、「部下が先に帰っちゃダメでしょ」と言ってしまうと、仮に部下の仕事が上司より先に終わっていても、無駄に会社に縛りつけてしまいます。

また、リモート化が進む現代社会では、先に家に帰っても仕事はできるものです。

それならAFTERのように、どこでも仕事場にすればいいよ」という号令をかけ、その体制を整えるのが上司や会社を運営する者の役目ではないでしょうか。

働き方の多様化が進めば、効率化だけでなく、子育てや家事の両立もできます。

出社してマスクをすると息苦しくなり、頭が働かないというデメリットもあります。

逆に、リモート環境で集中できないときは、出社してみるかぐらいの感覚でもいいのではないでしょうか。

新しい働き方ができるよう、部下の背中を押すのも上司の大切な務めです。

重要なのは目先の上下関係をはっきりさせるのではなく、長期的に生産性を上げるという合理的な判断と、多様性と自由化のための工夫なのです。

部下がやる気を失う言葉④「問題点を教えるから、資料ができたら報告するように」

『星の王子様』の作者サン=テグジュペリは、次のような詩を残しています。

“あなたが船をつくろうと思うなら、太鼓をたたいて人に木材を集めさせるのではなく、仕事を割り振り命令するのでもなく、果てしなく広がる海に恋こがれる気持ちを教えよう”

これを現代風に言いかえると、イノベーションを達成するには、命令やタスク管理などで他人をコントロールするのではなく、大きなコンテキストを共有して後は自由に任せればいい

このような解釈になるのではないでしょうか。

サン=テグジュペリの詩は理想論のように聞こえるかもしれません。

しかし、目指すゴールが共有されずにコントロールされているだけでは、船を丈夫に、美しく、快適にするためのアイデアは生まれにくいはずです。

ここで気をつけたいのは、コンテキストの共有と、放任主義は違うということです。

大枠のディレクションがあって、はじめて現場は意思統一できるのです。
【BEFORE】
問題点を教えるから、資料ができたら報告するように

【AFTER】
目的とコンセプトはこうだから、資料の詳細は一任します

出典 言葉のアップデート術

こう考えると、例えばBEFOREのような「報告待ち」のリーダーはイマイチです。

「問題点を教える」という上から目線な姿勢には、スタッフも同じ目標に向かうチームの一員だという視点が欠けています。

また、資料を部下に作らせておいて、後出しジャンケン方式で粗探しできるようなアンフェアな仕事の振り方では、部下はついていきません。

AFTERのように、「目的とコンセプト」といった大枠のディレクションこそがリーダーの仕事です。

意思統一ができるから、現場が迷走しないのです。

そして、具体的なアイデアは一任したほうが、スタッフの自由な発想を促せます。

時にはインスピレーションやノウハウを共有し、失敗を許容し賞賛しましょう。

やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たずです。

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言葉のアップデート術

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