桑原晃弥著『トヨタ式「人を動かす人」になれる6つのすごい!仕事術』より

世界で戦う“トヨタ秘伝の仕事術”4選。トップが「現場100回」をしつこく実行するワケとは

仕事
新型コロナウイルスの感染拡大や半導体不足の影響により、国内外の自動車メーカーが苦境に立たされているなか、トヨタ自動車は2022年3月の決算発表で「過去最高益を更新した」と発表しました

その裏には、創業から長年培ってきたトヨタならではの仕組みやリーダー論があったからこそだ、と語るのは経済ジャーナリストの桑原晃弥さん

トヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した桑原さんの著書『トヨタ式「人を動かす人」になれる6つのすごい!仕事術』では、そんなトヨタ秘伝の仕事術について知ることができます。

今回はそんな同書より、トヨタの現場社員で浸透している現場の仕組みについて抜粋。トヨタの仕組みは、我々でも明日から真似できるようなものばかりでした。
この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・業界トップの裏側を知りたい人
・チームでトップを狙いたいリーダー
・部下を育てたいマネージャー

トヨタ秘伝の仕事術① 全社員が接客は満点、アイデアは60点を目指す

「1人のゼロもつくるな」

車の販売方法が戸別訪問から来店型にシフトしていき、それまで以上に販売店で働くスタッフ一人ひとりの力が重要になり、トヨタのある販売店の店長はメンバーを集めていつもこう言っていた。

戸別訪問であれば主役はあくまでも担当の営業社員であり、他のスタッフは営業社員のサポートに徹すればそれで十分だ。

しかし来店型の場合、担当の営業社員はもちろん、お客さまを迎えるスタッフやフロントの人間、あるいは修理や車検を担当するメカニック、さらには保険などを販売するスタッフなど、みんなの総合力が求められる

どんなに営業社員ががんばっても、他の社員が失礼な対応やミスをすれば、それだけでお客さまが離れていくこともありえるのだ。

仮に1人のお客さまに5人の社員が関わったとして、4人が10点満点の接客やサービスをしても、あとの1人が0点の接客をすれば、すべてはダメになる

お客さまの評価は、平均点の8点ではなく0点になるというのが、店長の考え方だ。

1人でも0点の接客をしたら、お客さまからの信頼はゼロ。

いかなる大企業が、どんなに派手なCMを打っても、お客さまはその製品を手にした瞬間、そこの社員と接した瞬間の印象でその企業を評価することになる。

どんなに営業社員ががんばっても、他の社員が失礼な対応やミスをすれば、それだけでお客さまが離れていくこともありえるのだ。

だからこそ、店で働く一人ひとりが常に10点を目指してこそ店は強くなり、チームも成果を上げることができるのである。

しかし、アイデアは「100点」でなく「60点でいい」と言われる。

トヨタの基本は「アイデアがあるなら、ものをつくってみなさい」だ。

失敗してもいいから「やってもらう」。

もちろん単なる思いつきでは困るが、「成功確率が6割もあれば十分だ」というのがトヨタの考え方だ。

50%だと一か八かになりがちだし、かといって70%、80%を求めると敷居が高くなり過ぎる。

その点、60%の成功確率だと、たとえ期待通りの成果が出なかったとしても、1度か2度改善をすれば成功にたどり着くことができる

変化の激しい時代には、「考える」ことに時間を割くより、迅速に「行動する」ことが大切になる。

しかし、多くの企業ではどうしても行動が後回しになりがちだ。

「失敗への恐れが実行をためらわせる」からである。

何かを実行する前にはしっかりと考え、それなりの準備が欠かせないが、求められているのは「いきなりの成功」ではない。

アイデアがあるならまずやってみて、その結果を見ながら改善していくことで、より早く、より良い成果にたどり着くことができる。

トヨタ秘伝の仕事術② ムチャな目標を設定する

大量に生産するものの中に、わずかな不良品が見つかった程度の小さな異常ならそのまま生産を続ける工場も少なくない。

しかし、トヨタでは現場で働く人たちに「どんどんラインを止めろ」と発破をかける

どんな小さな異常でもそれに気づいた人がラインを止め、「なぜ異常が出たのか」という真因を調べて改善する。

問題が起きた時、パッと見てわかる「原因」ではなく、その奥にある「真因」を見つけ出し改善を行うことで、根本解決が図れるという考え方だ。

一方で、生産現場の管理職に対してはこう言い続ける。

「止めたくても止まらないほどのラインをつくれ」

「止まらないラインをつくれ」だけだと、異常に気づいたとしても「止めない方がいいかな」と悪い方向にいきやすい。

しかし「止めたくても」をつけることで、管理職が「絶対止まらないラインをつくらなければ」と強く意識する。

目標の掲げ方にも、工夫をこらすのがトヨタだ。

誰にでも「目標を掲げて達成できなかったらどうしよう」という心理は働く。

だから、少しがんばれば達成できそうな目標を掲げがちだ。

しかし、仮に達成率90%だとしても、能力の限界まで努力することによって、数字以上のものが得られることを忘れてはならない。

自分の能力がどこまで伸びるかは、自分自身でもわからない。

ましてや部下やチームとなれば、その伸びしろは無限大だ。

なら、自分たちの能力を自分たちで見くびらないことだ。

「一見ムチャな目標」こそが、自分たちの能力値を最大限まで引き上げてくれる。

リーダーのムチャな注文がチームの限界を突破させるのだ。

また、そう思ってチャレンジすることで、仕事はスゴく面白くなる。

トヨタ秘伝の仕事術③ “会議は30分”とことんムダを省く

「時は命なり」。

会議の「ムダ」にも厳しいトヨタでは、「会議は30分」と口を酸っぱくして言われる。

現実にはすべてが30分ではないにしても、会議のムダを嫌うトヨタらしい話だ。

トヨタほどムダを嫌い、ムダを省く努力を積み重ねている企業はない。

人間が「仕事」と思ってやっていることの中には、「ムダ」と「付随作業」があり、ムダを省いて「正味作業」の比率を高めなければならない、というのがトヨタの考え方だ。

「時は命なり」と言い切るからこそ「ムダ」にとことん厳しくできる。

今の時代、「時間の大切さ」を否定する人はいない。

ただ、「時間=命」と考え、管理職に「部下の命を浪費するな」とまで言い切る企業はまずない。

そこまで言うからトヨタは「ムダ」に厳しくあることができる。

しかし、ムダも時代とともにどんどん進化する

そこでトヨタ式では、「ムダも進化する」と考えるのだ。

トヨタ自動車元社長の張富士夫(ちょう・ふじお)さんもこう言っている。

「ロボットからITへとつくり方が変わっていけば、ムダの出方も当然違ってきます。にもかかわらず、手段や手法ばかり追っていると、籔の中へ入るというか、とんでもない間違いを起こすのではないでしょうか」

改善であれムダ取りであれ、現場の状況が変わり続ける以上、終わりはないのだ。

大切なのは、ムダと仕事を見分け、その上で改善をし続けるたゆまぬ向上心だ。

仕事において、「現状維持」は「後退」と同じ

トヨタ秘伝の仕事術④ トップダウンとは、トップが現場に降りること

トヨタは「現場100回」をしつこく言う。

現場を見なければ、問題はわからない。

何が問題か見えなければ、どうすればいいものをより速く、より安くつくれるかという考えも浮かばない。

問題が起きた時や、アイデアを思いついた時にはまず現場に行け、現場を見れば何が正しいかがわかるというのがトヨタ式の考え方だ。

また、現場を知らない上司は、部下の報告を鵜呑みにするが、現場を知っていれば、報告のおかしさに気づくことができるし、的確な指示も出すことができる。

そのためだろうか、現社長・豊田章男さんはこんな言い方をしている。

「トップダウンとは、トップが現場に降りていくこと」

上司の中には現場に行くのではなく、部下の報告を待つだけの人がいるが、トヨタでは「下から報告がくると思うな。必要があれば、自分で聞きに行け」と言われる。

現場を動かすには、現場に足を運び、現場を見続けることが欠かせないのだ。

ものづくりにおいて現場の意見は重要である。

計画段階で問題がある場合も、現場の意見を聞いているうちに具体的な問題点がはっきりしてくる。

すると改善点が明確になり、具体的に計画が進み始める。

何より、役員が自分の都合を押しつけず、自ら現場に出向いたとなれば、現場の人間も腹を割って本音で話すようになる。

相手が何を求めていて、自分は何を提供できるのかを、常に相手の立場に立って柔軟に考える。

その姿勢を忘れない者だけが成長し、生き残れる。

自分都合を捨ててこそ、得られるものがあることを覚えておきたい。

トヨタマンたちは、いかにして世界のリーダーになれたのか

トヨタ式「人を動かす人」になれる6つのすごい! 仕事術

トヨタ式「人を動かす人」になれる6つのすごい! 仕事術

脱炭素や新型コロナウイルスの感染拡大、世界的な半導体不足、資材・物流費の高騰などによりトヨタを含む多くの産業が危機に立たされています。

しかし、その危機を乗り越えていく体制が、トヨタにはすでに存在していました。

そんなトヨタを支えてきた伝説のトヨタマンたちは、何をどのように考え、部下たちに伝えてきたのか?

現場のリーダーたちの見方や考え方が詰まった一冊です。