白黒はっきりつけなくてもいいんじゃない?
「こんな自伝、映画にはならないけど…」劇団ひとりが求める、“青春”と“人生”のバランス
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じつはフリーペーパー『R25』の創刊を記念したテレビCMや電車の中吊り広告に“R25世代の代表”として出演していたのが、当時27歳だった劇団ひとりさんだったんです。
昨年には『浅草キッド』の映画化を成し遂げ、「ずっとやりたかった目標が叶った」というひとりさん。
そんな人生の大きな山場を越えた今、「これからの5年をどうしていきたいですか?」と聞いたところ…芸人・劇団ひとりではなく、いちビジネスパーソン・劇団ひとりの人生観が見えてきました。
〈聞き手=福田啄也(新R25編集部)〉
福田
ひとりさんは、2004年の『R25』の創刊時のCMキャラクターを務めていましたが、当時のことは覚えていらっしゃいますか?
ひとりさん
たしか、幕張で撮影したんじゃなかったかなぁ…当時、“泣き芸”でテレビに呼ばれるようになって、そのCMでも滝に打たれながら泣いてたと思います。
福田
楽しいだけだと虚しい。『浅草キッド』は“青春”だった
福田
ひとりさん
それをネットフリックスが拾ってくれたのが2019年。そこから撮影〜編集〜公開と怒涛の5年間だったと思います。
福田
ひとりさん
でもじつは、『浅草キッド』の撮影を終えたあたりで新しい小説を書きはじめていたんですよ。
福田
「やりきった! もう休もう!」となりそうなのに…
ひとりさん
ドラマの撮影をやってても、半分を過ぎると「次は何をやろうかな」って頭になるんです。「お別れが見えてきたから次の新しい人を見つけなきゃ」と。
前の彼女と新しい彼女をちょっとダブらせるズルい男、みたいな感じですね(笑)。
ひとりさん
昔は、テレビに出ることに対してもっともがき苦しんでいたんですよね。失敗したら、頭を抱えて2週間くらい落ち込んだりもしてたし。
でも、今はあんまり苦しまなくなってきたんですよ。
だから「このままだともう終わっちゃうな」という感覚がある。
福田
ひとりさん
ひとりさん
このままテレビの仕事だけを続けていたら、それがなくなってしまうんじゃないかという恐怖があるんですよ。
会社で定年を迎えて燃え尽きてしまう…みたいな感覚なのかな。
福田
ひとりさんは苦しんでも挑みつづけるほうがいい、と。
ひとりさん
まわりを見ていて「この人はノーストレスで仕事をしているな」と感じることもあるんです。
その人が幸せならいいんだろうけど、はたから見ていて僕は「この人の青春は終わったんだな」って思っちゃう。
福田
ひとりさん
この先どうなるかわからないような緊張感を持って生きていきたいんです。
「刺激が欲しい」ってことなんでしょうね。冒険家の人が、何歳になっても飽きずにいろいろな山に登りつづけるのと同じなんじゃないかな。
(ビート)たけしさんも、ずっと青春をしていると思うんですよ。
ひとつのことを貫くのはかっこいい。でも、バランスをとる生き方が一番賢い
福田
ひとりさん
今はテレビとものづくりの仕事の割合が9対1だけど、それが逆になってもいいくらい。
映画やドラマはまだやれていないことがたくさんあるから、そっちにもっと時間を使っていきたいと思っています。
福田
ひとりさん
この5年で子どもが3人になっちゃって、家族との時間もちゃんと過ごしたいですから。
福田
ただ、「青春を続ける」と「家族」の両立って矛盾しているように思うのですが…
ひとりさん
家族を優先したいから仕事をやめるとか、家庭をかえりみずに仕事をするとかあるけど、明確にどちらか一方を取らなくてもいいと思うんですよ。
福田
ひとりさん
悩んでいるときは、明確に白黒はっきりつけたくなるし、右か左かきっちり分けて「英断したぞ」って気持ちになりたくなるのはわかります。
でも、僕個人としては「世の中、白黒はっきりつけなくてもいいことの方が多いんじゃない?」と思っていて。
バランスよく“ぼかしぼかし”でいいんじゃないかな。
福田
ちなみに、テレビの仕事とものづくり、どちらかひとつに絞ろうと思ったことはないんですか?
ひとりさん
そのとき「本腰入れてつくり手に回っちゃおうかな」って思ったんです。そうすれば、今ある時間をすべて映画につぎ込めるなって。
で、興行収入の結果を見てから判断しようと思ってたら……
福田
ひとりさん
今となっては、あのとき変にジタバタ動かなくてよかったなって思います。
福田
ひとりさん
ホテルのビュッフェでいうなら、僕は好きなものばかりをちょっとずつ皿に乗せるタイプなんでしょうけど、ストイックに山盛りのカレーしか食べない人のほうが、かっこよく見えますよね。
ひとりさん
昔は家に帰らずバリバリ仕事をしている人を尊敬してたけど、実際自分が大人になって家庭を持ったら、全然かっこいいとは思わなくなりました。
福田
ひとりさん
人生のおいしいところをちゃんと味わっていて。僕はそういう生き方がいいんですよ。
まぁ、そういう人の自伝は読みたいとも思わないし、きっと映画にもならないでしょうけど(笑)。
そんなひとりさんの言葉を聞いて、「シゴトも、人生も、もっと楽しもう。」という新R25のブランドスローガンを思い出しました。
仕事も家庭もバランス良くとれているひとりさんこそ、僕ら新R25が追いかけるべき背中なのかも。
ただ、ひとりさんが今なおテレビや映画の世界で最前線にいられているのは、ちゃんと仕事で“青春”を追い求めているからこそ。
まずは、“仕事の青春”を探すことから始めてみようと思います。
〈取材・編集=福田啄也(@fkd1111)/執筆=エディット/撮影=オカダマコト〉
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劇団ひとりד近未来”
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前作『青天の霹靂』から12年ぶりの書き下ろしになりますが、今回の舞台もまた浅草を選んでいます。
小説のもとになったのは、明治から大正にかけて存在した「浅草オペラ」。じつは10年以上前に一度小説化を試みたそうですが…浅草オペラを小説で表現するのは「荷が重い」と思い、遠ざけていたんだとか。
これまで「映画にするために小説を書いてきた」と話されていた劇団ひとりさん。今作もメガホンを握ることを視野に入れてつくったそうです。その目標は5年以内。劇団ひとりさんの次なる“青春”は、もう始まっています。