キャッチコピーが、テレビCMの世界を変えた。

「100万円でテレビCM」を打ち出した男が、CM業界をブルドーザーのように開拓できた理由

仕事

連載

あのビジネスパーソンの「○○力」

連載へ

仕事の現場で奮闘するビジネスパーソンたちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者のみなさんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」

今回登場するのは、株式会社テレシー代表取締役CEO土井健さん
【土井健(どい・けん)】テレシー代表取締役CEO。同志社大学卒業後、サイバードへ入社。モバイル広告代理店事業立ち上げに従事。2011年にECナビ(現CARTA HOLDINGS)に入社。グループ会社であるfluctに出向し、スマートフォンSSP「fluct」の立ち上げに参画。年間売上高20億から114億の日本最大級のSSPに育て上げ、東証一部(当時)上場に貢献。2016年fluct代表取締役を経て、2020年VOYAGE GROUP(現CARTA HOLDINGS)取締役に就任しテレシーの立ち上げに参画、代表取締役に就任
ここ最近、テレビで「名刺管理アプリ」や「バックオフィスツール」といったスタートアップ企業のCMを目にすることが増えた気がしませんか?

その裏にいるのが、土井さんの手がける「テレシー」というサービス。

100万円からテレビCMをはじめられる」というキャッチコピーで、これまでテレビでCMを流したことがない企業をどんどんテレビの世界に引き込んでいるんだとか。

2019年には、広告費でインターネット広告に抜かれたことがニュースにもなったテレビ広告。「もうテレビCMは苦しいんじゃないか?」と思った方もいるかもしれませんが、じつは気づかないうちに革命が起こっていました。

〈聞き手:福田啄也(新R25編集部)〉
福田

福田

テレシーは創業から1年の四半期売上は9億超、さらに2年目には17億円を突破するという大成長を続けています。

今回は、それをけん引してきた土井さん個人の力を深ぼらせていただく企画です。
土井さん

土井さん

いや〜難しい企画ですね。僕、自分のことをすごく凡人だと自覚しているので…

だから、今回の取材にあたって自分の強みをいろいろ考えてきたんですけど…あえてキャッチーに言うなら自分は「ブルドーザー」なんじゃないかなと。
ほう…! 自分から用意してくるのは珍しい
福田

福田

そのこころは?
土井さん

土井さん

これはテレシーという会社の歴史そのものなんですけど、創業からずっと道なき道を突きすすんできたと思っていて。

運用型テレビCM」という言葉が生まれたのはここ数年で、市場がまだ未成熟なんです。そんななかで、ブルドーザーのように市場を開拓して、整地していくことに奔走した2年間でした。
※運用型テレビCMとは…2018年に株式会社ラクスルが始めた「テレビ広告」の出稿方法。

広告主やその委託を受けた広告代理店が、製品・サービスの直接的な販売促進や顧客獲得などをKPI化し、インターネット広告のように、短期的に広告クリエイティブや出稿先の変更、調整を繰り返して、広告効果の最適化を図る。

従来のテレビCMの「効果が見えにくい」という弱点を克服して、ネット広告同様の即時性のある効果測定を可能にした。
ではここから、土井さんがどのように市場を切り開いてきたのか聞いていきましょう

土井さんの開拓①「100万円でテレビCMをはじめられる」でスタートアップをテレビに引き込んだ

福田

福田

「テレシー」という名前は、タクシー広告で目にしていたので知っていたんですよ。CMで「100万円からテレビCMをはじめられる」と謳ってましたよね。

テレビCMを出すのってもっと高額だと思っていたので、すごく印象に残っていました。
土井さん

土井さん

ありがとうございます。おっしゃるとおりで、みなさん「テレビCM」ってすごくお金がかかるイメージを持っているんですよね。

でも、テレビCMってたった15秒から30秒の動画じゃないですか。

何にお金がかかっていると思いますか?
なんとなくしか知らなかった「テレビCMの世界」
福田

福田

それで言うと…やっぱり豪華なタレントじゃないですかね?

あとは一流のクリエイターの方が制作しているとか…
土井さん

土井さん

一部正解です。

テレビCMにかかっているお金を大きく分けると「クリエイティブ」と「CM枠の買い付け」の2つになります。

キャスティングや豪華なセット、クリエイターによる演出などが「クリエイティブ」。これは誰を起用するか、どんなCMにするかで金額が大きく変わります。

極端なことを言うと、タレントではなく一般人を起用したり、自分たちで動画を編集したりすれば、すごく安くなります。
福田

福田

たしかに。
土井さん

土井さん

そして、「CM枠の買い付け」。これは「どのエリアで、どのくらいの期間に、何人に何回CMを見せるか」ということです。

たとえば全国ネットで放送されているテレビ番組にCMを出すとなると、1カ月で全国数千万人に広告を見せることになるので、それこそ何億というお金がかかります。

大手飲料メーカーや大手通信会社なんかは、そういった形で、年間で何十億円もかけていると思いますね。
土井さん

土井さん

ただ、「CM枠の買い付け」もクリエイティブと同じで調整が可能なんです。

最低金額で言うと、配信エリアを人口の少ない県に限定して、放映期間も短くすれば、100万円からテレビCMを流すことができるんですよ。

たとえば…時期にもよりますが、沖縄で2、3週間ほど100万円分を放映すれば、沖縄の人口の半分の人に3回くらい見てもらえます

それが、テレシーのキャッチコピーになっている「100万円でテレビCMをはじめられる」につながります。
福田

福田

そうだったんですね…でもそう考えると、テレビCMって意外と出せる気がしますね。
土井さん

土井さん

そうなんですよ!
土井さん

土井さん

この「100万円からテレビCMをはじめられる」というキャッチコピーは、大げさかもしれませんがテレビ業界に新しい風を吹かせたと思っています。

この言葉のおかげで、スタートアップ企業たちに「自分たちでもできそう」と気づいてもらえて、実際に出稿していただけるようになりました。

その結果、大手企業と大手広告代理店の世界だった「テレビCM」に、新しい顧客を創造することができたんです。

どうして低額でテレビCMを出せる企業が少なかったのか?

福田

福田

逆に考えると、これまでどうして低額でテレビCMをやっている企業が少なかったのだろうって思いますね。
土井さん

土井さん

もちろんゼロではなかったのですが、これまでのテレビCMって効果をちゃんと測ることができなかったんですよ。

だから大きな広告予算を投下した結果、「効果がわかりませんでした」というギャンブルになってしまう。
福田

福田

たしかに…僕もWeb業界にいるので、「テレビって効果測定ができなそうだなぁ…」と勝手に思っていました。
土井さん

土井さん

ネット広告をやっている人だったらそう思いますよね。

実際、2018年に「運用型テレビCM」が誕生するまで、テレビCMの世界は「インプレッション単価」や「CPA」などインターネット広告の効果測定などには精通してなかった。

「運用型テレビ広告」が生まれたことで、「効果がわかるし、少額から出稿できるからテレビCMをやってみよう」という企業が生まれてきたんだと思います。
福田

福田

つまり「運用型テレビCM」の登場が分岐点になったと。
土井さん

土井さん

そうですね。

インターネット広告で培ったノウハウをテレビの世界に持ち込んだことで、テレビCMは新しく生まれ変わったと言えます。

土井さんの開拓②“超富裕層”に特化した「ヘリコプター広告」を開発

福田

福田

テレシーの成長要因は、「運用型テレビCM」の市場成長と、「100万円からテレビCMを始められる」というキャッチコピーによってスタートアップ企業を呼び込めたのが大きそうですね。
土井さん

土井さん

いや、じつはそれだけではないんです。

テレシーにとってテレビCMはあくまでプロモーション手段のひとつ。ほかにもタクシー広告やエレベーター広告、美容室サイネージなどたくさん映像広告を出せる場所がありますよね。

だから今では、テレビ以外のメディアも提案して販売する広告代理店業もおこなっているんですよ。
福田

福田

そうだったのか…
土井さん

土井さん

それだけじゃなく、自分たちで新しいメディアも開発しているんです。

去年の1月には「ヘリコプター広告」をつくりました。
福田

福田

ヘリコプター広告…それって誰が見るんですか?
土井さん

土井さん

超富裕層です。

これはテレシーとヘリコプター広告を共同開発した、民間の旅客機輸送でヘリコプター機体数日本No.1のシェアを誇る、Space Aviationの社長の保田くんが言ってたのですが…

超富裕層のなかには遊覧ではなく、移動にヘリコプターを使う方がいらっしゃるんですよ。ゴルフ場に行くときとか
マジか…調べてみたら、ヘリコプター移動は1時間10万円以上しました(でも45分で都心から富士山ぐらいまで行けるそうです)
土井さん

土井さん

移動手段であれば、タクシーと同じように広告を見せることができる。

そして、これまでヘリコプターを移動で使うような超富裕層のピンポイントをターゲットにしたメディアは存在しませんでした。

ここにメディアをつくれば、CMの新しいチャンスが生まれるのではと思い、すぐに開発しました。
福田

福田

新しいターゲットを開拓していったのか…
土井さん

土井さん

思いつきではありましたけどね。

それでもリリース後にはさまざまなラグジュアリーブランドや超高級車、高級時計、高級別荘などのクライアントに引き合いをいただいております。
これがそのヘリコプター広告。タクシーと変わらないような見え方になりますね

土井さんの開拓③「日本初の広告主」となりドローンショー広告を活用

土井さん

土井さん

先ほど、総合広告代理店としてテレビCM以外にもさまざまなマーケティング手段を提案していると言いましたが…

顧客に提供するためには、その価値を正しく理解しないといけないと思って、自分たちでもCMをつくって流しています

テレビはもちろんタクシー、エレベーター、高級タワーマンション、アドトラックなど、「テレシー」と相性のいいメディアは全部試したと思いますね。
福田

福田

なるほど…自分たちが効果を実感したメディアと言われれば、お客さんも安心できそうですもんね。
土井さん

土井さん

さらには、今後広告で活用されるかもしれないメディアを自分たちで開拓していこうとしていて、そのひとつが「ドローンショー広告」。
ドローンショーとは、LEDライトを搭載した複数のドローンを飛ばし、様々な演出をすることで技術やアイデアをアピールするイベントです。東京オリンピック2020でも話題になりましたね
土井さん

土井さん

「ドローンショー広告」はテレシーが日本初の広告主なんです。

海外ではすでにドローンショーは浸透しつつあり、日本でもようやくドローンの規制が緩和されてきていて。

今後「ドローンショー」は、日本の新しい広告手段になるかもしれないと思い、早期に目をつけていたんですよ。
福田

福田

それで、日本でドローンショー広告を成立させるために、自分たちが率先して使ってみたと。
土井さん

土井さん

そのとおりです。川崎競馬場の上空に、「テレシー」のサービス名やロゴマークが大きく浮かび上がりました。それを見ていた人がSNSで拡散をしてくれたんですよ。

2次拡散も狙える大きなメディアだと確信して、自分たちも代理店として販売を開始しています。

開拓できるのは、“業界の可能性”を強く信じているから

福田

福田

「運用型テレビCM」の認知拡大、「ヘリコプター広告」の開発、「ドローンショー広告」の初実用と、土井さんの実績はまさにCMの未来を開拓してきたものだとわかりました。

最後に、どうして土井さんがブルドーザーのような“開拓力”を身につけられたのか、教えていただけますか?
土井さん

土井さん

うーん…

広告の可能性を強く信じている」からじゃないですかね。
土井さん

土井さん

僕は社会人になってからずっと、広告やアドテクノロジーの世界で生きてきました。とくに、10年以上過ごしたネット広告に関しては、ある程度精通していると思っています。

そして今は、ネット広告のノウハウをいかして、旧態依然だったテレビCMの領域で変革を起こそうともがいています。

世間では「テレビCMはもうネットに負けている」と言われていますが、僕はテレシーをスタートして初めてテレビCMに触れて、「これはまだまだ影響力の大きい媒体だ」と強く感じたので、改めてテレビCMの価値が見直されるのではないかと確信しているんです。
福田

福田

可能性を信じているからこそ、「もっとこんなことができそうだ」ってセンサーが働くってことか…!
土井さん

土井さん

そうだと思います。

業界のトップランナーを走っている人は、その業界の未来にすごくワクワクしている

そういう人だからこそ、新しい常識をつくっていけるんじゃないかなって。
土井さん

土井さん

それに、自分が成功を確信していないと、仲間も集められないじゃないですか。

テレシーの経営陣には業界でもトップクラスのプレイヤーが在籍しているんですけど、僕が自らスカウトしてきたんですよ。
福田

福田

すごいな…どうやって口説き落としたんですか?
土井さん

土井さん

単純に、彼らに何度も会って、そのたびに僕が「運用型テレビCMの未来」と共に働くことのワクワク感について話しまくっただけです。

加えて、確実に彼らの人生をポジティブにできる確信があった。

みんな、「土井に騙されて入ってしまった」と言っていますけどね(笑)。

でも、そんな超優秀なプレイヤーたちと一緒なら、これまで日本を代表するような企業がテレビCMと一緒に成長してきたように、「運用型テレビCM」で新しく日本を引っ張っていける企業になれると信じています。
自分の仕事に心からワクワクしているから、チャンスを見つけられる

テレビCMについて楽しそうに語る土井さんを見ていると、そんな姿勢こそが“できる”ビジネスパーソンに共通しているものなんだと感じさせられました。

自分の仕事や業界にワクワクできるようになることが、自分だけの「〇〇力」を見つけるきっかけになる。

逆に言うと、そのワクワクをまったく感じられないようであれば、それが“新しい挑戦”を始めるタイミングなのかもしれません。

〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/編集=石川みく(@newfang298)/撮影=森カズシゲ〉

土井さんの著書『テレビCMの逆襲』が発売!

テレビCMの逆襲 運用型CMで売上50億を2年で実現したテレシーCEOの実践広告論

テレビCMの逆襲 運用型CMで売上50億を2年で実現したテレシーCEOの実践広告論

1月17日に、土井さんの著書『テレビCMの逆襲』が発売されました。

今回お話しいただいた「テレビCMの裏側」以外にも、運用型テレビCMの将来性や、各メディアを実際に出稿してみたときの効果など詳しく書かれています。

広告関係者およびマーケティング担当の方は、ぜひご一読を!