下園壮太著『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』より

災害時は「今、ムリをしている」と自覚せよ。自衛隊メンタル教官が教える3つのストレスケア術

カラダ

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変化の時代にこの一冊

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外出自粛期間が続き、ほとんどの時間を自宅ですごすようになりました。

家から出られないストレスもありますが、移動時間などがなくなったことで自分のために使える時間が増えているのも事実。

そこで、新R25が立ち上げる新連載「変化の時代にこの一冊」では、これまで多くの本に触れてきたビジネスインフルエンサーたちが「社会が大きく変化している今だからこそ読むべき一冊」をセレクト。

その内容の一部を抜粋して、自宅にいながらも気軽に読書体験ができる記事をお届けします。

もし興味のある本に出会ったら、ぜひ購入してこの機会にじっくり読んでみてください。
今回書籍をご紹介いただいたのは、ドラゴン桜』『宇宙兄弟』『働きマン』などのヒット漫画を生み出した、編集者の佐渡島庸平さん

外出自粛のストレス、見えない先への不安、毎日の報道疲れ…。

日々の生活で、私たちの心には、少しずつ疲れが蓄積されているはずです

そんな心の疲れを取るために、佐渡島さんがセレクトしてくれたのが、下園壮太さんの著書 『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)。

佐渡島さんからは、「たくさんのメンタル系の本を読んで、もっとも信頼できると思ったのが下園先生。コルクでも定期的に相談にのってもらっていて、入社した人にはこの本をいつも渡しています」とコメントが寄せられています。

そんな今回は、自宅で手軽にできるストレス解消ケアを、同書から抜粋してご紹介します。

自衛隊メンタル教官のストレスケア①体の声に従ってブレーキをかける

心は、蓄積疲労には麻痺してしまい、つらさを感じられず、ついムリが進んでしまう。

そこで、まず頭で、自分の過労具合を推し量る

集中している時間や、自分が苦手な作業をやっている時間をコントロールする。

次は、体で、兆候を知ること

疲れとは感じられなくても、肩の張り、目の重さ、吐き気など、よく観察すれば自分なりの疲労の兆候を発見できるものだ。

それを発見したら、それを強く感じるようにする

つまり、その苦しさを拡大するようにする。

一見良くないように思えるが、これを意識していると、本当に、例えば、目がつらくて仕事をしたくなくなる

これが、本来の姿なのだ。

疲労や体の苦痛で、ブレーキがかけられる

すると、まだ心は楽なまま、エネルギーコントロールができるようになる

それを目指すのだ。

実は私も、うつ状態になったことがある。

ライフイベントが重なり、蓄積疲労が溜まっていた時に、急に本職が忙しくなった。

幸い、周囲の理解に支えられて、1カ月で復職し、1年でほぼ元の自分に戻れた。

うつを経験してから私は、体のサインを敏感に察知して、行動をコントロールしたり、体でブレーキをかけられるようになった。

私の場合、吐き気、腰の痛み、不眠がムリのサインだ。

体に従えば、心が崩れるほど、活動できない

一見弱くなったように見えるかもしれないが、実は上手にブレーキをかけられるようになったのだ

自衛隊メンタル教官のストレスケア②「満足7:不満3」で現状を評価する

通常我々は、現状をマイナスで見る癖がある。

例えば、今勤める会社の問題点は山ほど言えるだろう。ところが、「良いところは?」と聞くと、すぐには出てこないのだ。

家族への不満や愚痴は、いくつも出てくるが、家族の良いところと言われると、三つから四つで、終わってしまう。

過酷な環境の中で、気温が高いとか、空気が悪いとか、体がチクチクするとか、痛いなどという不快刺激は、放っておくと命の危険がある。

そんな危険な刺激は、忘れてはいけないので、常に意識される。

一方、気温が心地よい、とか、空気がおいしい、かゆくない、痛くない等という刺激は、何か対処する必要はないので、知覚したらすぐに忘れてもいい刺激だ。

だから、我々は心地よさにはあっという間に慣れてしまう。

つまり、もともと人間は、不快を多く認識し、快はすぐに忘れる傾向にあるのだ。

自分の過去を振り返る時、嫌なこと、ダメだったことがまず思い浮かぶ。

そのままだと、「昨日」は、本当に嫌な日として、あなたの人生のページに記憶されてしまう。1日ぐらいそう感じても、大したことないと思うかもしれない。

しかし、そのような昨日に対するネガティブな評価は、次の日も、次の日も続くのだ。

人生とは結局、昨日の連続で、未来は過去の延長としてイメージされる。

結果として、いつも自分の人生に不満と不安を持つようになってしまう

そこで、意識して昨日をポジティブに見つめ直すのだ

昨日は、嫌なこともあった。しかし、思い出してみると、良い事もあったのだ。些細なことでいい。

例えば、夕食に好きな芋きんとんが出た。かっこいいスポーツカーを見た。仕事は思ったより早く終わった。彼女から電話があった。いつもは無愛想な娘が、返事をした。などなど。

そんなつつましやかな「良い所」を3つ、見つけて発表する。

しかし、もしこれだけだと「でも、悪い事もあった、それを無視しているのは、噓っぽい」と感じてしまうだろう。

そこで、悪いところも一つだけ挙げる。たくさんあるだろうが、一つだけだ。

良いところ3つに、悪いところ1つ。

正確ではないが、7:3バランスだ。

自衛隊メンタル教官のストレスケア③「動」と「静」のストレス解消法を持つ

ムリをしがちな人に共通する行動上の特徴がある。

それは、私が「しがみつき行為」と呼んでいる癖だ。

厳しい状態に追い込まれると、それを忘れようと、ある行為をする。

本人にとっては、つらい事から一瞬でも逃れるための必死の行動であるが、周囲から見たら、それをやるから、逆にストレスを増やしているように見える。

本人も、だんだんその悪循環に気がつくようになってくるが、それしか対処の方法がないので、苦しければ苦しいほど、それを続けてしまう。

まるで、「しがみついている」ように見えることから、「しがみつき行為」と名付けている。

例えば、アルコール、タバコ、ギャンブル、インターネット(ゲーム、SNS)、乱れた異性関係、借金、買い物、自傷行為、暴力行為…。

いわゆる『依存』と呼ばれるような状態になる。

では、しがみつきを持っている人は、どうすればいいのだろう。

その行為を全面的に否定する必要はない。

自己否定ではなく、追加するという発想を思い出してほしい。

ストレス解消法を、追加、つまり増やしておくのだ。

アルコールなども、完全に否定して断酒しかないと思わず、上手に飲むという「0〜10」の5ぐらいのバランスで目標を設定する。

それで我慢できるように、アルコール以外のストレス解消のツールを準備しておくのだ。

これは、ストレス解消の方法に関する調査結果だ。
男性に特徴的なのは、アルコールタバコが多いことだ。

陸上自衛官に聞くと、これに運動が加わる。

陸上自衛官から、運動とアルコールを取り上げると、かなり苦しい生活を余儀なくされる。

実は、平成15年から5年強続いたイラクへの派遣では、そういう事態が生起していたのだ。

イスラム教の関係で、現地でアルコールは飲めなかった。また、ロケット砲などで砲撃される危険があったため、ランニングなどの屋外での運動もかなり規制されていた。

この教訓から、日頃から複数のストレス解消法を準備することを、ストレスコントロールの教育などを通じて、隊員に指導するようになった。

ポイントは、「動」と「静」のストレス解消法を持つことだ。

特に「静」のストレス解消法を準備することを強調している。

活発に活動する「動」のストレス解消法は、確かに快感も大きいかもしれないが、その活動のための疲労が大きく、結果的にムリが深まっていく。

例えば、疲れている人が、休日に趣味のサッカーをしたとしよう。その時は楽しいかもしれないが、次の日はもっと疲れている。

ドライブや海外旅行なども、かなりのエネルギーを使う。アルコールが加われば、さらによくない。

静のストレス解消法を選択するべきなのだ。

ヨガ、軽い散歩などは、疲労回復に効果があることが証明されている。

話をするという作業は、悩みの整理になるだけでなく、静のストレス解消法でもある。

他にも、森林浴、庭いじり、俳句や短歌、囲碁や将棋などの頭脳ゲーム、読書、音楽(聞く、奏でる)、映画鑑賞、プラモデル作り、料理、日曜大工などの単純作業、何か作り出す作業などは、心に栄養を与える。

このような、静のストレス解消法は、動のストレス解消法に比べて、瞬間的な快感が少ない。

しかし、続けているうちにじわじわとその良さがわかってくる。

災害など、ムリしなければならない時もある

とはいえ、人生の中で、ムリしなければならない時もあるだろう。

仕事の場合は、まだほかの人もいる。ところが、私的なトラブルは自分で解決していかなければならない。

人災・天災なども、こちらの都合など、お構いなしにやってくる。

そんな時はまず、「今、自分はムリをしている」という自覚を持つことが大切だ

自覚がなければ、対策も打てない。

そして、ヒトの限界の目安を知ること

例えば、砲弾が雨あられと落ちてくる戦場なら、どんな人でも、1カ月で、だめになる。

人として正常な判断や思考ができなくなるのだ(実際には5%ほどの人間は戦場に適応する。ちなみに、それらの人は平和な社会では、犯罪者であったり、暴力的行為が問題になっていた人たちだ)。

私たちの経験では、海外などでのこれまでとは異なる環境の中で、精神的にも緊張する作業を続ける場合なら、3カ月。

日本の中で、残業続きの日々が続く場合なら、1年。これが限界だ。

もちろん目安に過ぎない。人間には、動物として「動き続ける」限界がある、という事を意識してもらうための目安だ。

ムリをしていると自覚できたら、次の二つに気をつけるといい。

一つは、とにかく「睡眠」を確保すること。睡眠は疲労回復の特効薬だ。

もう一つは、「動的ストレスケアを控える」こと

そして、無事にその時期を乗り越えられたとしよう。

危機が去った解放感に浸るかもしれないが、実はそこからが要注意時期に入る。

その後、しばらくは体の中にムリが溜まっている

それが抜けるまで、負荷をかけてはならないのだ。

心は無意識にムリをしていると気づくための一冊

自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術

自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術

辛抱を求められる今の生活では、ストレスが溜まることは避けられないかもしれません。

ですが、そのストレスをコツコツと解消していくことができれば、少しでも穏やかな日々を過ごせるはず。

心の疲れを上手に解消しながら、この局面を乗り切っていきましょう!
出典Youtube
書籍の推薦者・佐渡島さんと、著者・下園さんの対談。興味があるかたはこちらもチェックしてみてください!