“熱くならない”黒ってどういうこと?

【徹底解説】世界を変える“黒”!? 化学メーカー・DICが発明した「近赤外線コントロール黒顔料」の秘密

SponsoredDIC株式会社
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さまざまな色の材料である顔料を生み出し、印刷インキ、有機顔料などの分野で世界トップシェアを誇る日本の化学メーカー・DIC。
1908年に創業、100年以上の歴史を持ち世界レベルで数々の“初”製品を生み出している同社ですが、実はまたまた“スゴイ”ものを生み出したんです。
それが、世界を変えるかもしれない黒色「近赤外線コントロール黒顔料」
とはいえ読者のみなさんのほとんどは「黒で世界が変わるなんて…」とあなどっていませんか?
そこで今回は「近赤外線コントロール黒顔料」の秘密を深掘りするためDICのカラーマテリアル製品本部の大野恭弘さんにお話をお伺いしていきます。
〈聞き手=宮内麻希(新R25編集部)〉

これまでの“黒”の弱点とは?

宮内

宮内

そもそも、黒の顔料は日常生活のなかでどんなところに使われているんですか?
大野さん

大野さん

黒の顔料は主に「カーボンブラック」(炭素からできた微粒子から出来ているもの)が主流になっています。

黒いクルマの塗装、タイヤやゴムベルト、スマートフォンの枠の黒い部分、コピー機のトナーなど、日常生活のなかで見かける“黒”は基本的にカーボンブラックが使用されています。

ただ、カーボンブラックには「近赤外線を吸収して熱に変換する」という特徴があり、ここが大きな弱点になってるんですよ。
宮内

宮内

どういうことでしょうか?
大野さん

大野さん

1つ目に「熱」による問題。

黒や、ダークカラーのクルマのボディは、暑い季節には太陽光に含まれる近赤外線を吸収して、触れないほど熱くなってしまうんです。

結果として、車内温度の上昇やエアコン使用量の増加、バッテリーの消耗など人にも車にも支障が出てしまうことが課題でした。
宮内

宮内

「黒は日光を吸収しやすい」と言われますよね。

私も、日差しの強い日に黒い服を着ると暑くなった経験があります。
大野さん

大野さん

もう1つが、「安全運転支援」が活かせないという点。

昨今、安全で正確な自動運転を実現するために「LiDAR(ライダー)」というセンサー技術が注目されています。

既存のレーダーが“電波”を使うのに対して、LiDARでは“赤外線レーザー”を使って周囲をセンシング(検知)しています。
宮内

宮内

先ほどのお話だと、黒いクルマの場合、赤外線を吸収してしまい熱に変換されてしまいますよね。

つまり、LiDARで自動運転を実現しようとすると黒のクルマが作れなくなる可能性もあるってことですか?
大野さん

大野さん

そうなんです。

黒やダークカラーなどカーボンブラックで塗装されたクルマや物体は、LiDARでセンシングされにくくなり、せっかくの最先端技術も活かしきれないという課題を抱えていました。
大野さん

大野さん

そんななかで、LiDARの検知能力を向上させることができ、自動車ボディのデザインにおいてもカーボンブラックと同等の漆黒性が再現できる新しい機能性黒色顔料を開発してほしいという声が自動車メーカーや塗料メーカーよりあがっていました。

そこで我々が開発したのが「近赤外線コントロール黒顔料」です。

「近赤外線コントロール黒顔料」が画期的な“黒”である理由

宮内

宮内

「カーボンブラック」とDICが開発した「近赤外線コントロール黒顔料」は具体的にどんな点に違いがあるのでしょうか?
大野さん

大野さん

DICが開発した「近赤外線コントロール黒顔料」は、その名の通り近赤外線の吸収を抑えることで「遮熱性」を持ち自動運転のセンシングに対応しているという点が大きな特徴です。
宮内

宮内

ただ、そこまで機能的だと“きれいな黒”にならない印象があります。
大野さん

大野さん

これを見てください。

この3つのうち、もっとも“黒”と感じるのはどれですか?
左:カーボンブラック、中央:近赤外線コントロール黒顔料、右:開発初期の黒顔料。それぞれをアルミ顔料と混ぜた塗色
宮内

宮内

圧倒的に真ん中ですね
大野さん

大野さん

実は真ん中が、今回開発された「近赤外線コントロール黒顔料」を使用した色なんです。

赤外線の吸収を抑えるという機能性を維持しながら、カーボンブラックに負けない深みのある“黒らしい黒”の発色を実現することに成功しました。
宮内

宮内

すごい。むしろカーボンブラックより黒ですね。

でも、長年課題とされてきたことをDICが技術開発で解決できたのはなぜなんですか?
大野さん

大野さん

「近赤外線コントロール黒顔料」の開発はコロナ禍ということもあり、正直簡単なことではありませんでした。

しかし、DICグループがこれまで培った技術力とネットワーク、取引先との強固なパートナーシップによって生み出すことができたと考えています。

ドイツにある顔料研究開発チームが長年培ってきたノウハウと先進的な技術を活かして開発し、各国のスタッフが連携して世界の主要な自動車用塗料メーカーに迅速に情報共有し評価を行っていただいたことで、様々な課題をクリアすることができました。

「近赤外線コントロール黒顔料」が私たちの社会も変える

宮内

宮内

“黒”ひとつにしても、顔料が違うだけでこんなにできることが変わるなんて知りませんでした。
大野さん

大野さん

「近赤外線コントロール黒顔料」が自動車で使用されれば、車体の温度上昇を抑えられるので、エアコンを小型化できたり、そもそもエアコンを利用する機会が減ります。
バッテリーの消費量を抑えることで、EV(電気自動車)の航続距離も延びます。
宮内

宮内

航続距離が延びれば、もっとEVが普及しそうですね。
大野さん

大野さん

また、「近赤外線コントロール黒顔料」の採用が進めば、LiDARのセンシング技術によって自動運転車が車間距離や障害物との位置関係を正確に把握できるようになり、安心・安全なモビリティ社会が実現可能になります。
宮内

宮内

“黒”のおかげで自動運転車がもっと普及して、いつか「運転手が不在の車」が街中を走りまわる日が訪れるかもしれませんね。
大野さん

大野さん

自動車以外にも、リサイクルの分野などでも活用することができます

カーボンブラックで着色されたプラスチックは近赤外線を吸収するため選別されにくいという問題がありました。

「近赤外線コントロール黒顔料」はカーボンブラックよりも非常に高い近赤外線の反射率を持つため、黒いプラスチックボトルや食品トレーなどの回収品もプラスチックの種類の識別が可能となり、リサイクル問題を改善することができます。
宮内

宮内

“黒”ひとつで私たちが生きている世界も変わるかもしれないとは驚きでした。
大野さん

大野さん

これからのAIやロボットを活用したスマート社会では、センシング機能を搭載した製品が飛躍的に普及し、さまざまなモノが一層繋がっていくようになります。
大野さん

大野さん

すでに自動運転車だけでなく、AI家電や自動掃除ロボット、自動配膳ロボットなど、日常生活から産業、物流のさまざまなシーンでセンシング機能の実用化が進んでおり、私たちの「近赤外線コントロール黒顔料」が活躍する場も広がりつつあります。
宮内

宮内

これから先の未来には、ますます“黒”の出番が増えそうですね。
大野さん

大野さん

私たち化学メーカーは素材の力で、AIやロボットと人間が共存する未来の社会の実現に貢献できるよう、これからもさらなる開発を続けていきます。
身の回りを見返しても、想像以上に私たちの身近には「黒」が溢れています。それはつまり、「自動運転」や「AI家電」など、暮らしが豊かになっていく背景にはいつも「黒」の進化もともなっているということ。
「黒」という顔料の開発こそ、私たちがまだ見たことのないような社会のイノベーションを加速させていくのかもしれません。
「近赤外線コントロール黒顔料」について、詳しくはこちらの下記の記事もご覧ください。