西成活裕著『東大教授の考え続ける力がつく 思考習慣』より

「AIに仕事を奪われる」をすぐに信じたら思考体力ゼロ。AIにはない“人間の究極の才能”とは

仕事
仕事・勉強ができる人や成功している人をみて、「なんでこんなにできるんだろう...?」と疑問に思ったことはないでしょうか。

東京大学先端科学技術研究センター教授・西成活裕さんは、「考える力の使い方は人によって差があり、できる人は“思考習慣”が身についている」と言います。

できる人に共通して身についている「思考習慣」とは、一体なんなのでしょうか?

そこで今回は、西成さんの著書『東大教授の考え続ける力がつく 思考習慣』より、頭のよい人・成功をおさめている人に共通する「思考習慣」について抜粋してご紹介します。

あなたは「AIに仕事を奪われる」をどう捉える?

1つ、あなたに質問です。

AIに仕事を奪われる」「AIに人間が負ける」といった話題がメディアで取り沙汰されたとき、あなたは「ヤバいな。自分は大丈夫かな?」と思ったでしょうか?

それとも「そんなわけないでしょう?」と、少しでも疑ってみたでしょうか?

前者は、人の意見をすぐに信じてしまう時点で、思考体力ゼロです

一方、後者は「疑い力」がある点で、思考体力の第一段階をクリアしています。

大事なのはそのあとで、「AIに仕事を奪われる」という情報の事実確認を行ったかどうかです。

専門家の研究データなどをリサーチして、エビデンスを確認した人だけが、AIが人間と同じ思考ができるようになるのは到底無理なことだと分かるのです。

AIには限られた処理能力しかないため、現実に起こる状況(フレーム)全てに対処することができません。

これを「フレーム問題」と言います。

たとえば、「職場の飲み会で新人は入り口近くに座る」ということを多くの人が社会人のマナーとして知っています。

こうした暗黙のルールは膨大にありますが、人間は成長の過程で少しずつ覚えていくことができます。

しかし、AIはこれらのことを逐一教えなければ状況に適した対応ができないのです。

膨大な情報をAIに教えるためには、莫大な時間が必要になります

人間と同じ思考を必要としない機械的な作業であれば、ロボット化が進む可能性は確かに高いでしょう。

しかし世の中には、人間でなければできない仕事がまだまだたくさんあります。

AIの話を例に出しましたが、私が本を書くときもエビデンスに基づいて考えているかどうか意識しています。

なぜなら、「事実」なのか「意見」なのか分からない箇所があると、必ず校正者から「この話のエビデンスは何ですか?」と質問が入るからです。

これが1人でできるようになると、「疑い力」が格段に鍛えられます

あなたも、「疑い力」を持った校正者がいつも頭の中にいると思って、「事実かどうか」を確認する習慣をつけてみてください。

「直感」で全体と本質を見抜く力は、AIにはない人間の究極の才能

たとえば、私が自分の本をバラバラの地域に住んでいる3,000人に配ることになったとします。

どういう順番で配るのが一番早いか、AIに分かるでしょうか?

答えは、ノー

AIに配送順序の正解は分かりません。

これは専門用語で「巡回セールスマン問題」と呼ばれているもので、コンピュータを使っても数百年以上はかかります。

しかし、配送の経験を積んだプロフェッショナルの人間の中には、「経験と勘」によって、どういうふうに配送すれば一番ロスが少ないかおおまかに分かってしまう人がいるのです。

荷造りのプロである引っ越し業者も同じです。

部屋の中にある荷物をぱっと見て、全部入るのが2トン車なのか4トン車なのか、瞬時に分かる人がいます。

これも、専門用語で「箱詰め問題(ビンパッキング問題)」と言い、配送順路と同じように数え切れないほどの組み合わせ方があるので、AIが数百万年かけても解けない問題です。

しかし、組み合わせをいちいち考えなくても、部屋の中を見た瞬間に「大局力」で全体と本質をとらえることができるのが、人間が持っている究極の才能なのです。

「勘」と言うと第六感のように思われがちですが、もっと分かりやすく言い換えると「直感」です。

この直感を鍛えるためには、思考体力を使いながら場数を踏むことが大事です

「若いうちの苦労は買ってでもせよ」と言われるように、早いうちから1つでも2つでも経験値を増やしていけば、理屈で考えなくても判断できる感覚が磨かれていくはずです。

では、本当に100%直感で判断しているのかと言うと、そういうわけではありません。

その社長も、適当に直感で決めているように見えたのですが、実はものすごく緻密な論理で「場合分け力」を発揮していたのです。

それが分かったのは、彼がメモを書き続けてきたノートを見せてもらったときでした。

そこには、マインドマップ(R)というツールを使ってある事柄から連想されることを次々と書き出されていました。

これは、英国の教育者トニー・ブザンが開発した思考技術です。

連想した言葉をどんどん書き出し、因果関係で繫げていきます。

彼のノートに書かれたあらゆる事柄に対するマインドマップ(R)を見て、「このようにさまざまな可能性を洗い出していれば直感で適切な判断ができる」と感嘆しました。

そのような考え続ける訓練を繰り返してきたからこそ、重大な決断を迫られたときも、迷わず決めることができるのでしょう。

検索しても出てこない「質の高い情報」にふれることが大切

「ここぞ!」というとき、驚くほど的確に本質をとらえる人がいます。

経営者にも、スポーツ選手にもいますし、プロ棋士もそうでしょう。

以前、経営学者の野中郁次郎先生とお話ししたときも、感動したことがありました。

野中先生は、知識マネジメントの生みの親として知られる経営学の大家なのですが、とても気さくな方で、あるとき難問をぶつけてみたのです。

AIが話題になっていますが、AIにできなくて人間にしかできないものって何でしょうか?

すると野中先生が、

「簡単だよ。共感だよ、共感」

とおっしゃったのです。

この“共感”という言葉1つで瞬時に本質を言い当てたとき、ものすごく広い「大局力」を感じて、やはり野中先生は偉大だと改めて尊敬しました。

どんな分野でも、その第一線で活躍している人には、インターネットで検索しても出てこないような現場の声一次情報がたくさん集まってきます。

経営者が集まる会に行くと、「実はね」「ここだけの話だけど」といった裏話も出てくるので、お互い貴重な情報交換の場になります。

信頼できる情報を多く知れば知るほど、何が噓で何が真実か、考え続ける思考習慣が身についていく。

だから、「大局力」で本質をとらえる能力も優れていくのです。

教え子にも、「インターネットに載っていない情報が集まる人間になりなさい」という話をよくしています。

以前、私が半年間にわたって大学で授業をすることになったとき、

「この授業では、インターネットで検索しても載っていないことしか話しません」

と説明したら、登録者数が一気に100人を超えました。

頭のよい学生は敏感で、自分で勉強すれば分かる授業には興味を示さなくなっているのです。

本に書いてあることは、本を読めば分かる。

インターネットに載っている情報は、インターネットを見れば分かる。

だったら授業では、どこでも手に入らない情報を与えることにこそ意味があると私は思っています。

質の高い情報にたくさん触れることが、この複雑な社会で本質を見抜く眼を養うことに繫がるのです。

人・情報・仕事...複雑な社会だからこそ「思考習慣」が大切

東大教授の考え続ける力がつく 思考習慣

東大教授の考え続ける力がつく 思考習慣

「渋滞学」を専門とする西成さんから見ると、人も、情報も、仕事も、あらゆることが複雑に絡み合っている現代の社会は、まさに渋滞を引き起こしているような状態

しかし、世の中が複雑になって「どうしよう?」と不安ばかり感じて立ち往生する人もいれば、「面白そう!自分次第でチャンスをつかめるぞ」と、ワクワクしながらチャレンジを楽しむ人もいます。

激動の時代に“自分の軸”を持って進んでいくために、最強の思考習慣が身につく『東大教授の考え続ける力がつく 思考習慣』を読んでみてはいかがでしょうか。