オトコの好奇心が深まる1冊をご紹介!

世の中は、ズラして見ると面白い!

2010.10.07 THU


『ギリギリデイズ』 松尾スズキ/文春文庫/550円
たわいない日常のあちこちに
面白さは転がっている

松尾スズキのギリギリっぷりはハンパじゃない。脚本を書いて、映画や芝居に出演して、その合間を縫って数々の連載原稿やインタビュー取材をこなし、さらにそのスキマ時間をやりくりして、映画や芝居を鑑賞し、酒飲んで、パチンコやゲームにも興じている。
そんなギリギリな毎日を綴った本書だが、松尾スズキに掛かると、天才シェフが作るまかない飯のように、身辺雑記が絶品の読み物に仕立てあがる。
たとえば「役者はカーテンコールをほしがって、客もカーテンコールをほしがって、ってもう、両者がっぷりよつのカーテンコール乞食状態。やばいです」と、長いカーテンコールへの違和感を記したくだりなど、読んでいてゾクゾクするほど面白い。どれだけテンパった毎日を送ろうとも、この人にはどこか自身を含めた世界を醒めた目で見ているところがあるのだろう。
だから、ネット掲示板の書き込みに対して「顔写真も名前も出さず言いたいことだけ生ゴミのように言い捨てていく人々の、顔はきっと不細工」「ああいうものを読んでしまうたびにとりあえず頭がいいふりだけはやめようと誓いなおすよ俺は」と、まっとうな正論を語った直後に「ごっめええええん。生意気言っちゃいました!」と自分にツッコまずにはいられない。
と、硬派な引用ばかりになったけど、本書の成分の8割は、物申す系のメッセージとは無縁な日々の雑録。たわいない日常のそこかしこに面白さが転がっていることを、本書は、ひいひい言いながら雄弁に語っている。

  • 気分と発想を切り替えるための言葉たち

    『871569』
    箭内道彦/講談社/1575円

    「理屈は後付けでいい」「両岸を旅せよ」「矛盾上等」―これら人とは目の付け所が違う発言を集めたものが本書。どれも八面六臂の活躍を続けるクリエイティブディレクターの言葉だ。著者の発想力やバイタリティをユニークな言葉からお裾分けしてもらおう。読み進めれば、目前の問題に取り組む意欲も出てくるはず。だって「毎日が初回で最終回」なのだから。
  • 生きることは躓くこと

    『生きるチカラ』
    植島啓司/集英社新書/735円

    何となく毎日の生活が重荷と感じる時に、ぜひ開いてほしい好著。生や死という重いテーマについて、宗教人類学者がものの見方をズラしながら新しい考え方を示してくれる。当たり前のように思えた自分の人生観もときほぐされていくだろう。「選択し、躓くところから人生は始まる」なんていう心地良い断言は、長い人生を歩む僕らの“生きるチカラ”に成り得るはずだ。
  • 自分で考えるためのメディアの見方

    『世界が完全に思考停止する前に』
    森 達也/角川文庫/540円

    イラク戦争、オウム裁判、引きこもり問題など、日々流れる無数のニュース。そこから読み取れる世論やメディアの麻痺した状態について、著者が読者や自身に問いかけるように掘り下げる評論集だ。過剰な防衛意識やその裏返しの無邪気すぎる善意により、この世界が思考停止しつつある点を著者は懸念する。世の中を多画的に見るには、考える作業が不可欠なのだ。
  •  
世の中は、ズラして見ると面白い!

※フリーマガジンR25 273号「R25的ブックレビュー」より

斎藤哲也=文
text TETSUYA SAITO

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