オトコの好奇心が深まる1冊をご紹介!

大人にこそ、響く絵本

2012.05.17 THU


『半日村』 斎藤隆介・著、滝平二郎・絵/岩崎書店/1470円
ムーブメントはいつだって
一人の変なヤツから始まる

読んでまっさきに「これは社会的起業や社会運動の絵本ではないか!」と思った。

半日村には、高い山があるため、半日しか日が当たらない。お昼ごろにようやく太陽が顔を出したかと思えば、すぐに日没で夕方になってしまう。「だから、お米のできなんぞ、いいわけはないさ。/半日村のお米は、いつでもよその村の/はんぶんしかとれなかった」

ある朝、村の子供の一平は、袋をかついで山の頂上にのぼった。その袋に土を詰め、山を下りて湖に土を投げ入れる。まわりの子供から見たら“ヘンな奴”である。

学術や文化、ビジネスなど、様々な分野の著名人による講演会を主催しているTEDが配信している動画に、「社会運動はどうやって起こすか」と題した講演がある。講演者であるデレク・シヴァーズは、聴衆にある映像を見せる。広場で、一人の男が裸踊りを始める映像だ。しばらくすると、そこに別の男が加わり、一緒に踊り始める。さらにまた一人、二人と加わり…。

この裸踊りを始めた男は、一平そのものじゃないか。講演のなかでシヴァーズは、二人目すなわち最初のフォロワーの重要性を指摘している。最初のフォロワーは、一人の変わり者をリーダーへと変える存在だと。

『半日村』でも、まず子供たちが一人、二人と一平の真似をして山に登り始める。運動の輪は広がり、やがて村の大人たちもそこに加わっていく。

現在の日本社会にも、いたるところに「半日村」がある。そして一平になるのは、あなたかもしれない。

  • おおかみになりたい、か?

    『やっぱりおおかみ』
    佐々木マキ/福音館書店/840円

    ひとりぽっちの子供のおおかみは、自分に似た仲間を求めて街をうろつく。うさぎらが暮らす街、ぶたたちで賑わう市場、しかが戯れる公園などをめぐりながら、仲間を探していく。しかし、彼はおおかみの仲間と出会えない。そして、この孤独なおおかみがたどりついた境地は──。かわいらしくもシュールな絵柄とあわせて、心の片隅に長く残り続ける傑作。
  • 絵本でトリップ♪

    『旅の絵本』
    安野光雅/福音館書店/1470円

    日本を代表する絵本作家による、文字通り「旅の絵本」だ。水辺の光景から始まり、美しい街並みやサーカスに浮かれる人々を眺めたかと思うと、のどかな田園へたどりつきもする。さらに、その景色に「赤ずきん」や「おおきなかぶ」といった童話のワンシーンをそっと忍び込ませているのも楽しい。ページをめくるたびに、道を歩む旅人の気分を味わえる至福の一冊なのだ。
  • 大切にされることの大切さ

    『わたしはだいじなたからもの』
    カール・ノラック・著、クロード・K・デュボワ・絵/ほるぷ出版/1365円

    ちいさなハムスターのロラは、新学期の初日を上機嫌で終えたところ。そこで友だちのルルから家庭ではどんな風に呼ばれているかを質問され、ロラは「だいじなたからもの」などと呼ばれていることを伝える。すると、ルルや他の生徒に笑われてしまい、すっかりふさぎ込んで帰宅したロラは…。誰しもかけがえのない存在であることに気付かせる物語を堪能あれ。
  • その声に耳を傾けて

    『はやくはやくっていわないで』
    益田ミリ・著、平澤一平・絵/ミシマ社/1575円

    帯にある「読者対象0歳~100歳」がいいなぁ。物語らしきものはない。1隻の船を比喩として描かれるメッセージは、一言でいえば“多様性の擁護”に尽きる。「ひとつ ひとつ じゅんばん ちがう」「わからないこと いっぱいある/いえないきもち いっぱいある」。「スーちゃん」シリーズでおなじみ益田ミリのメッセージには、質感のあるアクリル絵の具がよく似合う。
大人にこそ、響く絵本

※フリーマガジンR25 307号「R25的ブックレビュー」より

斎藤哲也=文

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