斎藤哲也の読んでるつもり?

科学は真実を伝えるか?

2015.02.20 FRI

BOOKレビュー


『殺人犯はそこにいる』清水 潔/新潮社/1680円 桜井としき= 撮影
■戦慄する科学と権力の結託 一読して背筋が凍った

1990年5月、栃木県足利市で起きた幼女誘拐殺人事件、通称「足利事件」。パチンコ店から4歳の幼女が連れ出され殺害されたこの事件について、DNA型再鑑定によって犯人とされていた菅家利和さんの冤罪が明らかになったことは知っていた。

しかし、僕がニュースで知ったことは事件の一部でしかなかった。足利事件は単独の事件ではない。79年から96年にかけて栃木と群馬の県境を往復するように、5人の幼女が殺害されているのだ。

『殺人犯はそこにいる』の著者、清水 潔氏は、徹底的な取材を重ねて菅家さんの冤罪キャンペーンを張ったジャーナリストだ。だが清水氏のゴールは冤罪の証明ではない。真犯人を追及し、5人の幼い命を奪った真犯人が逮捕されることこそ真の狙いだった。

事実、清水氏は真犯人を特定し、驚くことに接触さえしている。そして、確信をもって捜査機関へ情報を提供した。「もうすぐ全ての真実が明らかになる」。だが著者の思いとは裏腹に、真相は闇へと葬られていく。なぜか。それは実際に本書を読んでいただきたいが、ここでもDNA型鑑定の信憑性が焦点となっている。読者は科学と権力との最悪の結託を目撃することになるだろう。

■方法が変われば診断も変わる

『医学的根拠とは何か』はガラパゴスな日本の医学に警鐘を鳴らす1冊。医学的根拠を求めるアプローチは、歴史的には、医師としての経験を重視する「直感派」、生物学的研究を重視する「メカニズム派」、臨床データの統計学的研究を重んじる「数量化派」という三者が論争を繰り広げてきたものの、現在は「数量化派」の方法が世界的には主流となっているという。

ところが日本では統計的手法が広まらなかったため、公害事件や放射線の健康リスク管理などで、大きな混乱や被害をもたらしている、と著者は告発する。方法論の違いで、説明や診断がガラリと変わる。その対立は根が深そうだ。

とすると、社会の側にも科学に対して相応のリテラシーがないと、科学の悪用や誤用が放置されてしまう。『科学技術をよく考える』は遺伝子組み換え作物や地震の予知など具体的なトピックを材料にして、批判的思考をトレーニングする学習書。

それぞれの話題について、架空の人物が相反する主張を展開し、その後に両者の議論を吟味するポイントや知識を解説する構成となっている。

科学リテラシーを解説した本は多いが、本書のように実践的な課題や演習に取り組ませる体裁の本は珍しい。読み飛ばすだけでなく、演習問題にも取り組んでみてほしい。

(斎藤哲也)

<書籍紹介>
●『殺人犯はそこにいる』清水 潔/新潮社/1680円
●『医学的根拠とは何か』津田敏秀/岩波新書/756円
●『科学技術をよく考える』伊勢田哲治、戸田山和久、調 麻佐志、村上祐子:編/名古屋大学出版会/2940円

※この記事は2014年2月に取材・掲載した記事です

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