最近、なに読んだ?

市川紗椰「考えすぎる人は面白い」

2015.04.24 FRI

BOOKレビュー


『ねにもつタイプ』 岸本佐知子/ちくま文庫/648円 英米文学の翻訳家として数々の小説を紹介してきた著者によるエッセイ集。列に割り込む女性の心の内、自分の肘の付き具合、棚の奥にしまわれたトイレットペーパーの呪いなど、日々の奇想・妄想が綴られる。第23回講談社エッセイ賞受賞作。
女性ファッション誌の人気モデルでありながら、オタク気質。ロック・鉄道・アニメ・相撲…と、趣味はとことん追究する。そんな市川紗椰さんは、雑誌に書評連載を持つほどの読書家でもある。どんな本を読むのかというと――。

──『ねにもつタイプ』、独特のエッセイですね。面白かったです。

私、翻訳家が書く翻訳ではない本が好きなんです。翻訳家ってきっちりしているイメージがあるけれど、実は結構変わっている方が多い。なかでも岸本佐知子さんは変わっているというか…ぶっ飛んでいます。

──妄想成分が多めで、夢日記を読んでいるような気になりました。

妄想というよりは「考えすぎ」なんだと思います。きっと、日常のどうでもいいことをじっくり考えすぎてしまうんじゃないかなぁ。岸本さんとはレベルも方向性も違うけれど、私もくだらないことを考えすぎてしまうタイプだから、共感できるところがたくさんあって…。

──市川さんは、どんなことを考えすぎるんですか?

たとえば街で人とぶつかったときに、一瞬「入れ替わってないかな?」って心配になったり…もし、記憶や人格ごと入れ替わっていたら、そのことに気づけないじゃないですか。あとは、突然、鼻や耳が変に思えて「なんでついているんだろう?」って気になったり。

──『ねにもつタイプ』にも、肘の関節の向きや、鼻の存在が変に思えるという話がありましたね。

そういう考えって、誰でもふと頭をよぎることはあるけれど、いちいち深く考えませんよね。でも岸本さんは、郵便局でおばさんに割り込まれた理由をとことん考える。おばさんが先に並んでいたのに〈私〉には見えていなかったのか。それとも列に並ぶというルールがないところから来た人なのか。それとも、やっぱりただの割り込みなのか…と。

──さらに、ただの割り込みであれば私が取るべき態度は…と続いていく。

いやいや考えすぎだろうと思うんですけど、そういうところが面白いんです。わざわざ口に出すまでもないようなことを、順を追って丁寧に書いてくれるから、読んでいる自分が何かを深く掘り下げたような気分になれます。日常のなかに楽しみを見つけられるかどうかって、本当に自分次第だなってわからせてくれる本なんです。


【市川紗椰の読み方】

▼本を読んでいる間は余計なことを考えずにいられる

「普段余計なことばかり考えてしまうせいか、人の言葉の世界に入り込むと癒やされます。何かをしながら観られるTVや映画と違って、本は両手で持って向き合わないと読めない。そうやって拘束される感じも好きなんです」

▼読書に目覚めたのはアメリカに住んでいた小学生時代

「小学校の図書館で『エンダーのゲーム』や『銀河ヒッチハイクガイド』などのSFを読んでいました(※原書で!)。中学生になるとカフカ、ドストエフスキー、トルストイ…最初にハマった日本の作家は、筒井康隆と安部公房です」

▼本や雑誌は、気になったら買っていいことにしている

「ほかのものは買う前に必要かどうかを考えますが、本や雑誌は“教養のため”という言い訳ができるから、気になったら全部買っちゃうんです。漫画やラノベも多いんですけど、子供の頃から本ならいいと言われて育ったので…」

(宇野浩志=取材・文)

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