道路使用許可が下りず、新規参入は困難

路上の靴磨き、お客は何人来る?

2015.11.02 MON


マスクは「団子っ鼻が恥ずかしいから」と、乙女のようにはにかむ中村さん。靴を乗せる台は木箱を改良して作った2代目。中が空洞になっており、道具類の収納場所としても使っている
「サラリーマンの街」として有名な東京・新橋。その駅前にあるSL広場の賑やかな場所に、靴を磨き続けて40年以上という名物おばあちゃんが座っている。

彼女の名前は中村幸子(さちこ)さん、84歳。以前は、リヤカーで果物を売り歩いていたが、知人から「靴磨きは毎日仕入れをしなくてもいいし、商品も腐らないからラク」と聞き、40歳でこの仕事に転身したという。

「5人の子どもを食べさせなきゃいけないから、もう必死。当時、この広場には街路樹がたくさん植えられていて、それぞれの木の下に靴磨きが並んでいた。私みたいな新顔にはなかなかお客さんが付かなくてね」

最盛期には、新橋駅周辺だけで20人近くの靴磨きが営業していた。なかには、100歳を超えて続けていた人もいたという。しかし、いまでは、中村さんを含めて2人だけ。露店の営業には警察の道路使用許可が必要だが、彼女のように昔からやっている人はともかく、新しく始めようとする人にはなかなか許可が下りないそうだ。

中村さんは年に1回、約3万円を支払って道路使用許可を申請する。その他、道具やワックス類を仕入れる経費は月に約1万円。夏は暑いから客は少なく、一番忙しいのは衣替えの時期だという。洋服とあわせて靴もきれいにしたい、という心理が働くのだろうか。客の少ない真夏は1日10人前後、多い時期は1日50人ぐらい来ることもある。

駅のアナウンス、電車の音、通り過ぎていく人たちの喧騒。この店のまわりは、顔の近くに耳を寄せないと聞き取れないぐらい賑やかだ。せっかくなので、いま履いている革靴を磨いてもらいながら話を聞こう。じつは、靴磨きは初めての体験である。

まず、ブラシで汚れを取り、指でていねいにワックスをしみこませる。「指で伸ばした後に、布ですり込むとツヤが出るんです。急いでいる人は視線の動きでわかるから、その場合はスピードアップしてあげるのよ」というところなどは、まさにプロだ。

たまに女性も来るが、「女性の靴は磨くところが少ないでしょ。だから300円にしてあげるの」という心遣いからも実直な人柄が伝わってくる。そんな話を聞いていると、白髪の紳士が現れ、「おばあちゃん、これ」と言いながらペットボトルのお茶を渡した。こうした常連客からの差し入れもよくあるそうだ。

40年以上磨き続けた結果、中村さんの指からは指紋がほとんど消えたが、「悪いことはしないから大丈夫よ」と笑う。ずっと座っているため、足腰への負担も大きい。しかし、お客さんが喜ぶ顔が嬉しいから、この仕事を続けていられるという。

昭和のビジネスというイメージがあった「靴磨き」だが、数は減ったとはいえ、平成のいまでも続けている人も存在することがわかった。

約10分後、「はい、できました」。料金は500円。最後に、中村さんは深々とお辞儀をして見送ってくれた。ピカピカに光る足下の靴を見るたびに、その姿を思い出す。

【路上のビジネスデータ】
「靴磨き」(中村幸子さん)
・開業資金:約6万円(道具代+道路使用許可申請代)
・営業地域:新橋駅前SL広場
・営業時間:10:00~19:00 土日休
・メニュー:1回500円
・月収:20万円程度

(石原たきび)

■スモールビジネスの舞台裏 第2回

  • 今回磨いてもらったワックスは「蜜蝋入りで防水効果がある」とのこと。ワックスは浅草の問屋で定期的に仕入れる。布やブラシも長年使い込んだもの
  • 演歌歌手・あさみちゆきさんのヒット曲「新橋二丁目七番地」のモデルになり、中村さんが人生を語り下ろした書籍も発売されている

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