これもミュージシャンの生きる道?

ギター1本で○十万稼ぐプロの流し

2015.11.16 MON


会社員グループの前でビートルズの「ACROSS THE UNIVERSE」を歌うなかやまさん。リクエストした50代の男性は「流しは初体験だけどいいね。この曲大好きなんだよ」とご機嫌だった (撮影協力/恵比寿横丁)
ギター担いで街から街へ、今宵も歌を届けます――。男ならそんな渡世に一度は憧れるものだ。

いわゆる、“ギター流し”。全盛期には新宿だけで100人以上いたといわれるが、いまではその姿をほとんど見ない。

しかし、そんな昭和レトロな世界に飛び込んだ人物がいる。パリなかやまさん(39歳)だ。恵比寿横丁を拠点に歌い歩き、依頼があれば結婚パーティーや同窓会、商店街のイベントなどへも出張する。

横丁には月15~20日出勤する。歴史的には、その土地に根付いた組織と契約を交わすのが一般的だが、ここでは横丁のプロデューサーと話が付いているため、とくにそうした申請や許可願いは不要だったという。ギターは借り物、歌詞本は手作りなので、開業費用もなんと0円。

「6時間ぐらいぐるぐる回って、リクエストしてくれるのは平均10~20組ぐらいですね。以前は1曲500円でしたが、いまはお客さんの言い値でもらっています。値段を決めない方が、結果的に多くもらえるんですよ」

過去には1席で5万円を払った紳士がいたという。こう聞くと、一見ラクな商売にも思えるが、生音で演奏し続けるのは肉体的に意外とハードで、喧騒のために音が通りにくいなどの難しさもある。実際、なかやまさんのようにトライしたものの、すぐに辞めていく人も多いそうだ。そもそも、なかやまさんはなぜ流しになったのか?

「子どもの頃から音楽が好きで、ミュージシャンになるのが夢だったんですよ。学校卒業後も、ホテルの配膳、質屋、営業コンサルタントなどの職を転々としながら曲を作っていて、28歳で音楽ユニット『コーヒーカラー』として念願のメジャーデビューを果たしました」

そのままプロの音楽家としてキャリアを積むかと思いきや、32歳の時に先輩の作曲家から「亀戸の飲み屋横丁のオーナーが、昔のように流しがたくさんいた風景を復活させたいそうだ。いっしょにやらないか」という誘いを受ける。事情がよくわからないまま、なかやまさんは直感で話に乗った。

あいにく横丁のテナントが次々に撤退したため、亀戸での営業は1年ももたなかったが、そこで得た感触を頼りに、7年前に場所を恵比寿横丁に移した。

「この仕事を始めて実感したのは、リクエストに応えて歌うという行為が想像以上に喜ばれるということ。生音が懐かしさを倍増させるみたいですね」

昭和の時代、ギター流しは酒場の風物詩だった。そんな文化を継承したいという思いを胸に、なかやまさんは今夜も誰かの思い出の曲を歌い上げる。

【路上のビジネスデータ】
「ギター流し」(パリなかやまさん)
・開業資金:0円(ギターは借り物、歌詞本は手作り)
・営業地域:おもに恵比寿横丁
・営業時間:20:00~翌2:00ぐらい。不定休
・メニュー:持ち曲は1500曲以上。価格は決めていない(昔は1曲500円)
・月収:20万~50万円程度
・毎月の必要経費:4万~5万円(マッサージ代+プロテイン代)

(石原たきび)

■スモールビジネスの舞台裏 第3回

  • 仕事に必須の歌詞本には7年分の年季が。レパートリーは演歌からJ-POPまで1500曲以上あるが、流行りの曲も歌えるように日々少しずつ増やしているという
  • ギターのネックに、おみくじのように結び付けられた千円札。「曲をリクエストしてお代を払うというシステムを理解してもらうためです。不慣れなお客さんもいるので」

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