「ゾンビ・フォーエバー」森さんの語る“逆境”のビジネス

カセット専門レーベルは「パフォーマンスじゃない」

2016.08.18 THU

会社では学べない!ビジネスマン処世術 > 逆境オトコインタビュー



(撮影=森 勇馬)
逆境の業界にあっても、ギラギラと輝いている“風雲児”をインタビューしていこうという本連載。第2回は前回に引き続き、HMVのバイヤーを経てカセットテープ専門の音楽レーベル「ゾンビ・フォーエバー」を運営する森 幸司さんに話を聞いた。

●CDはデータを取り込んでしまえば引き出しへ…“省略されない”音楽とは


2006年に「iTunes」が登場。タイミングを同じくしてCDの売り上げは急落し、2010年にはHMV渋谷店が閉店…。そんな音楽業界の過渡期をHMVでインディーズ専門バイヤーとして過ごした森さん。彼が退社後に選んだ道は、なんと、デジタル化の流れに逆行する“カセットテープ専門音楽レーベル”の立ち上げ。一体なぜ?

「カセットはモノとして魅力があると思うんです。最近、CDのジャケットや盤面って、ほとんど見られない存在になってますよね。一度PCにデータを取り込んでしてしまえば、いくらアーティストやレーベルがこだわって作ったCDだって、引き出しの中にしまわれっぱなし…。『モノというよりデータにお金を払っている状態』に違和感がありました。また、カセットは基本的に最初から順に聴いていくもの。アーティストが決めた曲順通りに楽曲を聴かせることができるので、リスナーに想いを届けやすいんですよ」

アナログだからこそ省略されずに伝わるものがあるようだ。だが、音質については、デジタルに比べて劣るはずだが…。

「確かに、ノイズが混じっていて決して高音質ではありません。そこは味ですね。実際に今のデジタル世代にもノイズの混じったカセットの音は評判いいですよ。繰り返し聴いているとテープが伸びて音が劣化するんですが、それも楽しんでもらいたい。僕が持っているビートルズのカセットなんて、ジョン・レノンの声が妙に野太かったり、急にゆっくり歌ったりもする(笑)。でもそんな唯一無二の自分のカセットに、愛着を感じているんです」

●なぜやるのか? 芯のあるストーリーを語れるかどうか


今ではややマニアックなカセットという存在。ビジネス的な観点ではどうなのか? と聞くと、意外なことにメリットは多いという。

「工場の都合上、CDは最低でも1000枚ぐらいからしか生産できないのですが、インディーズのCDをそんなに売るのは正直かなり大変です。購入者がネット上に流しちゃったりもしますから…。カセットなら発注された数だけ作る形で生産可能なので、在庫を抱えることがなく、赤字になりにくいんですよ。在庫を売ろうと無理な努力をする必要がなく、その時間を使って新しいものを作れる。聴いてほしい人にきちんと音楽を届けられる実感があるので、HMV時代より、小規模なビジネスならではの楽しさがありますね」
森 幸司
充実した表情でカセットの魅力を語る森さんは、こう続ける。

「そもそも、今が“逆境”だとあんまり思ってないんです。むしろ一番いい時代だと思う。カセットが全盛の時代は、選択肢が少なかったわけです。今は、お金をかける方法やかけない方法、流通もデジタル配信やアナログ…と多様で自由。アーティストに合った売り出し方を選べるという点で、インディーズレーベルにとってはいい時代ではないでしょうか」

そして、実はここ数年で、アメリカを中心に世界中でカセット人気が高まっているという情報も。この現象について、森さんはこんな持論を語る。

「どの業界でも同じようなことが言えると思っていますが、時代に変化が起こり、新しい流れが生まれると、それに逆行する対極の存在も盛り上がるんです。CDからダウンロードの時代になり、モノを持たないことが主流になれば、逆にカセットのようにモノを所有することを大切にする層も増える。なぜか必ずアンチが現れて、強い熱を持つんですよね」

もちろん、ただ時代の流れに逆らえばうまくいくわけではない。「ゾンビ・フォーエバー」のここまでの成功の理由とは?

「大事なのは、なぜやっているかを説明できるかどうか。ストーリーを語れることは、アーティストを説得するうえでも、お客さんに聴いてもらうためにも、こうしてメディアに取り上げてもらううえでも、非常に重要。ただ注目を集めるためのパフォーマンスではないんです。それが、今の形で仕事を続けられている一番の秘訣であるように思います」

(黄 孟志/かくしごと)
森 幸司
森 幸司(もり・こうじ) 1983年生まれ。山形県村山市出身。HMVでのバイヤーを経て、“殺されても殺されても蘇ってくるゾンビのような音楽を発信”を掲げ、カセットテープ専門の音楽レーベル「ZOMBIE FOREVER」を立ち上げる

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