知られてなくともスゴイ企業

第10回 コピー機になくてはならない会社

2009.10.02 FRI

知られてなくともスゴイ企業


最近、普及しつつあるカラートナー。カラーの生産は色ごとに4本のラインを工場に作らなければならないので、設備投資が結構大変なんだそうです

不景気になるとトナーが売れる!?



コピー機といえば、最近では、ほとんどのオフィスに導入され、置いていないところを探す方が難しいほど。そして、そのコピー機における最大の消耗品がトナーです。当たり前ですが、トナーがなくなると、コピーはとれません。

そんなトナーの専業メーカーとして生産量が世界ナンバー1の会社が「巴川製紙所」なのです。
国内はともかく世界一っていうのは、スゴイ! というわけで、その辺りのお話を巴川製紙所の経営戦略本部長・山口正明さんにお聞きしたいと思います。

まずは具体的に、世界のトナー市場において巴川製紙所のシェアはどのくらいなのでしょうか?

「我々のシェアというのは推測ですけど、生産量が全世界で6~7%なんです。あくまでシェアナンバー1というのは、独立系の専業メーカーとしてです。つまりコピー機やプリンタを作らず、OEMでトナーを供給している会社としては世界最大だと自負しています。当社より多くトナーを生産しているのは、ゼロックスとキヤノン、そしてリコーですが、当社のシェアは3位のリコーとほぼ同じくらいです」

現在のコピー機は、米ゼロックス社が1960年に開発した技術(普通紙複写機、静電間接式)を使ったものが、ほぼ100%。その便利さと法人向けリースシステムもあり、1980年代以降、爆発的に普及します。それに併せてトナー需要も右肩上がりだったそうですが、トナーにとっては、他にもターニングポイントといえる出来事があったのです。

「パソコンの普及ですね。それによってコピー機は複合機となり、プリンタとしても使用されるようになりました。そこで、必然的に使用するトナーの量も増えたんです。そして最近の大きな出来事といえば、カラーコピー(複合機)の普及によるカラートナーの需要の増加ですね。ただしカラーに関してはコスト面の問題もあり、まだまだ導入を躊躇(ちゅうちょ)する会社も多いようです」
今回、お話をうかがった経営戦略本部長・山口正明さん。会社としては、国内市場はあまり意味のあるものとは考えていないとのこと。あくまでトナー市場は世界規模で考えないと利益をあげることは難しいのです
そうですね。カラーコピー機は置いてあっても、あまり使いすぎるなと会社からお達しがあったなんて話もよく聞きます。ちなみに不景気だと企業がコスト意識を高めますし、トナーの需要が減ったりしないんでしょうか?

「じつは逆だという話もあるんです。不景気になると社内会議が増えますよね。そのための会議資料を刷り出す頻度が増すので、トナーの使用量が増えると。ただし、当社としては、今のところ実感はありませんが(笑)」

不景気になると儲かるという話は大げさにしても、一般的な会社ではコピーは必需品だけに、企業活動を続ける以上、トナーの消費は安定していると思われます。

「とはいえ、当社が直接エンドユーザーにトナーを売っているわけではありません。当社の取引先はあくまでコピー機やプリンタのメーカーです。それぞれの機 器の開発初期から関わり、メーカーの求める特性のトナーを作り上げる開発力が、トナー専業メーカーとしての最大の強みだと自負しています」

実際、メーカーの要望に応え、巴川製紙所では、低温定着トナーの開発にも力を入れています。一般的にトナーは、熱や圧力で紙に定着されるのですが、低 い温度で定着させることができれば、使用電力の大幅な削減につながります。世界的に電化製品は、消費電力を抑え、環境負荷を減らす方向に進んでおり、コ ピー機も例外ではありません。そして、そんなコピー機に合わせたトナーを開発できる高い技術力こそ、巴川製紙所をトナー専業メーカーとして、ナンバー1た らしめているのではないでしょうか。
写真は発電所などで使われる超高圧線の断面です。そして指で指している部分が本文中に出てくる「電気絶縁紙」。いまだに絶縁紙も需要があるそうです

電気の絶縁とトナーの関係



専業メーカーとして、世界のトナー市場をリードする「巴川製紙所」ですが、そもそもなぜ製紙という名前の付いた会社がトナーのリーディングカンパニーになったのでしょう? 製紙というからには、やはり紙を作っていたのでしょうか?

「確かに紙は作っていましたが、一般的な製紙メーカーではありません。1914年、当社は、電気絶縁紙の国産化を目的に誕生しました」(経営戦略本部長・山口正明さん)

電気絶縁紙? 何ですか、それは?

「送電線に巻く紙なんです。紙というのは電気を通さない性質があって、電線を紙で巻くことで、電圧が下がることを防げるんです。そのために特化した特殊紙が、絶縁紙です。最近では電線の外側にはビニールを巻いてあることが多いんですが、今でも発電所や変電所に直接つながっている高圧の送電線の中には、絶縁紙が使われています。当社の創業まで、絶縁紙はすべてドイツからの輸入に頼っていましたが、第一次世界大戦の影響で、入ってこなくなってしまった。そこで国産の絶縁紙を作るために当社は設立されたのです」

しかし、なぜ絶縁紙を作っていた会社がトナーを作ることになったのでしょうか?

「まずは前提として絶縁紙市場の限界というのがありますね。当初は日本中に送電インフラを整備する時期だったということもあり、絶縁紙には大変な需要がありました。しかし送電インフラは一度整備されてしまえば、頻繁に更新されるものではないんです。1960年ごろから絶縁紙に代わって事業の柱になるものはないかと、研究開発に力を入れていたんです。そんななかで生み出されたのがトナーですね」

なるほど、では具体的にいつごろからトナーを作り始めたんですか?
巴川製紙所静岡工場の全景。他にもアメリカや中国にもトナーの生産拠点があるそうです。中国は、他に専業メーカーがほとんど存在しないため、特に力を入れているとのこと
「研究所の正式な開発テーマとして現像剤(トナー)がとり上げられたのは、1960年7月です。当時の記録によると『トナーなど製紙会社がやる仕事で はない、インク会社の仕事だ』との社内の声も強かったそうですが、開発は進められ、1965年、最初の製品となる製版用トナーを市場に投入、その後コピー 機用トナーの開発に注力、1973年には市場参入しました」

では、絶縁紙の技術とトナーの間に接点はあったんでしょうか? 一見、それほど関係がないように思えるのですが。

「当 社が創業以来自信を持っているのは、電気をコントロールする技術です。絶縁技術もその一例ですが、その意味では、トナーにも電気は関係しています。コピー 機の仕組みは難しいので割愛しますが、トナーはマイナスまたはプラスの電気を帯びることで、感光体に吸着し、紙に転写されます。ですからトナーを作るとい うことは、電気をコントロールすることに他ならないのです」

なるほど、意外なところで接点があるものなんですね。絶縁紙で培われた電気をコントロールする技術が、トナーに生かされていたとは想像もつきませんでした。

ち なみにトナーと同様に、巴川製紙所は、10年くらい前までは巨大な市場を形成していたオレンジカードなどに使われていた磁気記録カードのリーディングカン パニーだったそうです。この時も電気をコントロールする卓越した技術が開発に生かされました。こんなに思いもよらないいろいろな商品に派生させられると は、電気をコントロールすることって、予想外に幅広く応用の利く技術なんですね! 最後に、今後は情報のデジタル化、ペーパーレス化の流れの中で、トナー市場も大変なのでは? と質問をしてみたところ、こんな答えをいただきました。

「確かにペーパーレス化は業界にとっては逆風です。でも、個人や企業が扱う情報量はどんどん増えている。そうすると、それを紙に残したいというニーズは確実にあるし、その手段としてトナーは利便性や経済性に優れていると思います。それから、まだまだ世界にはコピー機が普及していない地域があるんです。例えばロシアやインド、ブラジルといった地域は大きな可能性を秘めています。中古車と同じようにこれらの地域には、どんどん中古のコピー機が輸出されているんです。コピー機本体は中古かもしれませんが、絶対に消耗品のトナーは使いますよね。当然、そこには大きな市場が生まれます。ですからトナーの市場はしばらくは安定していると思いますよ」

トナー業界、日本だけを考えると市場は飽和状態なのではないかと思っていましたが、世界的には、まだまだ掘り起こせていない市場があるということなんですね。

「巴川製紙所」は、他にも半導体用電子部品でも世界的に高いシェアを獲得。今後は、エネルギー材料や光学部材などの新しい分野への参入を視野に入れているそうです。

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