衝撃的な事実を世界に知らしめ評価を受ける

女性に寄り添う報道写真家・林典子

2015.12.03 THU

働く女子を応援!L25タイムス > TOP WOMAN


自身の写真も「一つの視点にすぎない」と語る林さん。「私が見たこと、体験したことを写真と文章で伝えていくのが仕事ですが、それで問題のすべてが伝えられるとは思っていません。でも、私の写真や記事がきっかけで、その問題に関心を持ってもらえたら、それはすごく冥利だなと思います」 写真/小島マサヒロ
レンズの向こう側に広がる、知られざる世界。報道されることのない出来事にフォーカスし、フォトジャーナリストの林典子さんは各国で取材を続けている。「キルギスの誘拐結婚」や「硫酸で顔を焼かれたパキスタン女性たち」といった衝撃的な事実を世に知らしめ、近年は過激派組織「ISIL」の奴隷にされていた女性たちの存在もクローズアップ。取材対象と日常生活レベルで接して、“そこで起きていること”の深層=真相をカメラにおさめてきた。

「学生の時に国際政治や紛争および平和構築学について学んでいたので、国際人権団体が発行している資料を通じて、キルギスで誘拐結婚が行われているのは当時から知っていました。ただ、その時はまだ一学生に過ぎず、『女性を誘拐して無理やり妻にするなんて、信じられない!』と、表層的にとらえて終わっていたんです。けれど、フォトジャーナリストとして活動を始めてからも、ずっと心の中に引っかかっていて…。NGOが出している資料を定期的に読むようにはしていたんですが、誘拐された女性たちがどういう気持ちで相手の家庭に入っていくのか、その後どういう暮らしをしてどんな人生をおくっているのか――この目で確かめたいと思い、現地へ赴きました。実際に現場へ行って初めて知り得ることがありますし、また実態も見えてくるので、『じっくりと腰を据えて、起きていることを見つめていく』というのが自分のスタンスになっています」

その活動歴から、女性を取り巻く問題を追いかけているようにも映るが、特に意識しているわけではない、とのこと。ただ、自らに置き換えて考えると、おのずと世代的に近い女性たちへ視線を向けることが多くなるという。 

「動機が個人的な関心ということに賛否もあると思いますが、年齢が近く同じ女性が想像しがたい環境に身を置いていると考えると…やはり気に留めないわけにはいかなくて。女性の地位の向上を訴えたいといった主張があるわけではないんですが、日本で暮らしていると『女性なのに~』『女性だから~』『女性のくせに~』など、私が女であることが無駄にクローズアップされることが多いので、女性であるがゆえに弱い立場にある人を応援したいという気持ちがあるのは確かです」   

難しいのは、長期にわたって取材対象と信頼関係を築きつつも、一定の距離感を保たなければならないことだろう。たとえば、目の前で誘拐されようとしている女性がいるとして、助けるべきか、シャッターを切るべきか、といったような──。人道とジャーナリズムのはざまで葛藤することは、これまで何度もあった。 

「ジャーナリストであれば、誰もが多かれ少なかれ直面する問題だと思います。その考え方は人によって異なると思いますが、自分の写真で世界を変えられるとは、正直なところ、思ったこともないです。でも、記録しなければ誰にも知られることがなく、時が流れてしまう。使命感とも違いますが、その場で自分にできることが写真を撮ることなのであれば、それをするべきだと。もちろん、身の危険にある人が目の前にいれば、カメラを放り投げても救おうという選択をしますが、本当に国や環境、文化や風習などその場その瞬間によってケースがまったく違うので、“撮るべきか、撮らざるべきか”という問題とは、常に向き合っています」             

それはまさに現場へ足を運び、経験したからこそ見えた問題といえる。ネットで検索すれば何でも「知ったつもり」になれる昨今、その行動力に見習う点は多いのではないだろうか。

「とはいっても、すべてのことを経験するのは不可能ですので…特定の視点で見るのではなく、様々な角度から一つの物事を見つめることが大事になってくるのではないでしょうか。そして、その違いを認めること。何が正しいというのではなく、人によって見方や感じ方、とらえ方が違うのだということを認識するだけでも、世界が少し違って見えてくるのではないかと私は思っています」

■TOP WOMAN 第4回

  • こだわりの仕事道具

    愛機はニコンのカメラ。たまたま写真を始めた時に手にしたのがニコン製で、以来、使い続けている
  • 世界が認めた瞬間

    2013年、世界最大規模の写真ジャーナリズムの祭典「ビザ・プール・リマージュ」で、報道写真部門最高賞を受賞。だが、自身にとっては賞よりも納得する取材ができたかどうかが大事だと話す

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