魅せ腕時計のイロハ

第12回 電波時計の電波の秘密

2009.12.24 THU

魅せ腕時計のイロハ

電波はどこから飛んでくる?



いつでも正しい時刻を教えてくれる電波時計ですが、「電波」そのものの仕組みや正体については、まだまだよくわかりません。今回は、そんな電波時計にフィーチャー。教えてくれたのはシチズン時計・技術開発本部の八宗岡正さん。そもそも電波時計って、いつごろからあるものなんですか?

「シチズンが日本初の多局受信型電波腕時計を発売したのが1993年です。ただ、電波時計の場合、時計だけでは意味がなく、肝心の時刻データを送ってくれる送信局が必要不可欠。この環境がなんとか整ってきたのもこのころでした。当時は電波送信実験用につくられた茨城の送信局の電波を利用していました」

正式に電波時計が使えるようになったのは1999年。福島県の大鷹鳥谷(おおたかどや)山に電波塔がつくられてからだそう。

「しかし、これだけでは九州、沖縄では十分に電波が届かない。そこで、2001年に佐賀県の羽金(はがね)山に2本目の電波塔がつくられたわけです。ちなみに電波時計は、電波塔から送信される時刻データを常に受信しているのではなく、毎日決まった時間に受信するよう設定されています。受信時には、モーターが電波に与える影響を避けるために数分ほど針を停止させるので、利用者の少ない時間帯(深夜2時~4時ごろ)に行う場合がほとんどです。また、深夜ならその他の電磁波も少なく、受信しやすいという利点もあるんです」

ケータイのように基地局があちこちにあって、常に受信しているわけではないんですね。

「日本の電波塔はたった2基だけかと思われるかもしれませんが、アメリカ、ドイツ、中国などそれぞれの国に1基あるだけです。日本のような狭い国土で2基も電波塔があるというのは、かなりぜいたくなんですよ」

電波塔には、原子時計で管理された日本の標準時刻のデータが東京から送られ、正確な時刻データを日本中に送っています。原子時計は10万年に1秒しか誤差が生じない高精度なもので、世界中にある原子時計が、お互いにリンクし合うことで、さらに安定して正確性を保っていられるのだとか。では、電波腕時計をしたまま海外に行けば、正確な現地時間もわかるの?
グローバル対応の電波腕時計(ATD53-3013)。カレンダーの横の文字「NYC(ニューヨーク)」「CHI(シカゴ)」など、表示されている都市の時刻が示される
「グローバル対応タイプなら世界主要国の電波に対応しているので、現地でも使えます。ただ、電波は各国独自の信号で送られていて共通性がないので、受信機を国ごとに対応させる必要があります。日本に加えてアメリカ、ヨーロッパ、中国エリアの電波が利用可能です」

常に正確な時刻がわかる電波時計は、日本のみならず、世界中でスタンダードになりつつあるよう。「時計が遅れてるのに気づかなくて…」なんて言い訳が通用しない時代はすぐそこまで来ているみたいです。

電波時計のアンテナはどこにあるの?



1日1回、正確な時刻データの電波を受信することで、手動操作なく、正確な時刻を表示し続けることを可能にした電波時計。日本は時刻データを発信する電波塔が2基もあり、北は北海道から南は沖縄まで、全国で正確な時刻を享受できる電波時計先進国なのです! そんな日本では、どのように電波腕時計が進化してきたのだろう? 今回はシチズン時計・技術開発本部の八宗岡正さんにお話をうかがってきました!

「世界初の電波腕時計は1990年、ドイツで誕生。そこからシチズンでも電波時計の開発に着手し、93年に商品化しました」

開発において一番の難関は、電波をキャッチするアンテナの取り付け方。当時の技術では、金属の外装でアンテナを覆うと電波を受信できなくなってしまう、という問題があったのだとか。金属以外の素材も検討されたものの、「それでは高級感が出ない」という判断から、外装は金属のままで効率よく電波をキャッチするため、アンテナの取り付け位置を工夫する方向で、開発が進められたそう。

「最初の商品は、いっそのことアンテナを前面に出してはどうか、ということになりました。アンテナとなる円柱状のコイルが、丸い文字盤を貫く未来的なデザインで、最先端の“電波時計”を強くユーザーにアピールすることを狙ったんです」

この電波時計第1号は、日本では300個限定で販売。10万円という高額商品ながら、あっという間に完売したそう。しかし、「さらに幅広いユーザーにも受け入れてもらうためには、奇抜な見た目はやはりネック」として、翌94年には、側面にアンテナを外付けした普及型タイプが開発されました。
左:日本初の多局受信型電波腕時計。中央を貫いているのがアンテナという独創的なデザイン。右:普及型として開発されたアンテナ外付けのもの。左側の黒い部分はプラスチック製
「アンテナをプラスチックで覆い、金属ケースの外に取り付けたんです。これなら文字盤は一般の腕時計と変わらない。ただ、すべてが金属の外装ではないため高級感に乏しく、形状も独特で、まだ“普通の時計”には見えない製品だったんです」

なるほど、金属製の本体にプラスチックケースが取り付けられた形状は、違和感もありますね…。

「これを緩和するために、その後セラミック製の外装開発に着手。見た目は金属に近く、しかも電波を通す素材として期待されたものの、それでも実際に身につけてみると金属の質感とはほど遠く、理想とする高級感のあるものには及びませんでした」

試行錯誤を重ね、ついに完成したのが「フルメタル電波腕時計」。文字通り、アンテナも含めてすべてが金属のケースに収まっている腕時計で、見た目にも普通の腕時計と変わらない電波時計だ。

「フルメタル電波腕時計を実現するためには、より感度の高いアンテナとICの開発など、たいへんな技術革新が必要でした。当時は“不可能”とすらいわれていましたから。余談ですが、フルメタル電波時計の開発は、電波を通さないよう密封された専用の開発室で行われたため、エアコンも使えず、夏場は40度を超す室温の中で作業していたそう。まさに技術者の汗の結晶であるわけです」

2003年に発売された画期的なフルメタル電波腕時計は、「金属でも電波を通すのか!」と、その注目度はかなり大きかったのだとか。現在では、さらに薄型・小型化が進み、アンテナも含めたムーブメントの大きさが1円玉程度のものもあるとか。見た目が「普通」になった電波腕時計は、そこから一気に普及し始めたのだそう。長い歴史のある腕時計は、斬新な顔つきよりもオーソドックスなものの方が好まれるようです。最先端技術を内蔵しながらも、あえてそれを主張しない奥ゆかしい技術。うーん、考えてみると、結構日本的かも! 電波時計には欠かせない電波塔ですが、
国土の小さい日本が2基持っている、という事実にびっくり!
あの広いアメリカや中国ですら1基しかないのに、ですよ!
さらに、不可能といわれていた「フルメタル電波腕時計」を最初に開発したのも日本!
日本は、今後の腕時計のスタンダードである電波時計の先進国だったんですね!
ボクもこの連載を通じて、日本の腕時計の技術力の高さを如実に実感した次第です!

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