「“そこまで行かなきゃいけない”という場所が見えてきた」

松山ケンイチ

2011.02.03 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 text ATSUNORI TAKEDA 稲田 平=写真 photography PEY INADA 牛田…
揺らぐ青年から、星人と闘うヒーローへ

スクリーンの中の松山ケンイチはぶ厚かった。ヒーロー然としていた。恐怖を感じつつも意志の力でそれを克服しようとする。弟と2人、平凡な暮らしに生き甲斐を感じる。映画『GANTZ』において、そんな男・加藤 勝を演じる。

死んだはずなのに黒くて丸い玉のある部屋に転送され、ワケのわからぬまま謎のスーツを身につけ謎の武器を手に様々な“星人”と命がけで戦い、最後には採点される。奥 浩哉の原作は、もはや佳境。SFマンガの大傑作として認知されている。

出演交渉があったとき、彼が読んだのもその原作の方だった。

「加藤と弟との関係がすごく感動したところだったんです。これをお芝居で表現できたらいいな、観る人も感動するんじゃないかなと」

原作には詳細に加藤のエピソードが描かれている。だが台本ができて以降は、台本の加藤を表現することしか意識しなかったという。

「原作にはない部分が映画の加藤のモチベーションになってたりするので。オヤジのこと(註:内容は秘す)があったりするから、加藤はいろんなものに対して踏み出していけるというか。そういう部分をちゃんと出していきたいなと思ってたんですね。そこに説得力を出せないとただのヒーローになってしまうと思ってたんです」

背景を考えるのが楽しい。表現の仕方を考えるのが楽しい。撮影は過酷だったとプレスシートに書かれていた。松山は加藤になりきるため体重を7kg増やし、昼夜逆転のロケ生活をひと月過ごし、最終的に合成されるため現場では見えないCGの敵と闘う演技をした。

が、表現することは文芸作品でもコメディでもアクションでも同じ。「自分の中で表現できないこともあるんですよ。たとえば死ぬこと。死んだことがないですから。でも自分の中でやれる範囲というか、新しく訓練してどんどん見つけていける部分もあります。そういういろんな表現方法の中から作品ごとに出していく。それを楽しんでます」

“憑依型”とか“カメレオン俳優”なんて呼ばれたりする。

「スタッフのみなさんが作り上げた空間に入っていきやすい…そういうことなんじゃないかと思う。一日中とか撮影のあいだ中役に入ってることなんてないですよ」

加藤を演じる2カ月前までは、『ノルウェイの森』のワタナベを演じていた。弟との生活のために血みどろで闘うヒーローと、「もちろん」が口癖のモラトリアムな青年。すごい落差。大丈夫だったのか…。

「ま、大丈夫ですよ。それ以降ワタナベとしてセリフを言うこともなくなるわけですし。撮影する場所や台本がなくなったら、どんなに演じようと思っても演じられません」

昔はオフのときにも、関わっている役のことを「ああだこうだ考えているのが楽しかった」という。

「最近はオフはオフなりに“考えないようにする”ということができるようになってきたんです。考えすぎるとどんどん自分の役に没頭していって、主観的になりすぎてしまうんですね。自己中心的な芝居になる。その深さっていうのが、いい場合もあるんですけど、結局お芝居ってひとりでやるものではないので。僕だけがグングン深く掘っていたら、もし仮にそれが一番正解に近かったとしても、作品の中の世界全体で見ると正解ではなくなるんです。スタッフさんとキャストのみなさんと一緒に作り上げたのが正解になるわけだから。ひとりで家で考えすぎるのはよくないんですよね」

作品が公開されたときには「ホッとする」と言う。完成してよかった、という意味で。それがヒットして、観た人が満足してくれればうれしい。4年前『蒼き狼』の撮影で角川春樹に言われた「役者なら1800円もらえる芝居をしろ」という言葉が心に残っている。演じた作品は、意識こそしないが、公開まではカラダの一部にある。

演じているときの純粋な喜びはどういうときに訪れるのだろう。

「うーん…うーん…何度かその“すべてが完璧になる”っていう瞬間があるんです。お芝居しているその画面の中で、演技も間もすべてが気持ちよくピタッとハマるっていうか。そういうときって、だいたい僕は自分のことを忘れてるんですね。“あ、今、何も考えなくてできたんだな”って思って、“いいなあ”って(笑)」

だがそれが理想なのではない。

「そのカットで何を表現するか。それはカットごとに変わって来ます。その都度それにあった表現方法を選んでお客さんに伝わるようなお芝居をすることが重要。自分が気持ちよければいいということではないんですよ」

“糧になる”ではなく“やったことない”から

今回の映画で気持ちよかったところを尋ねると「ない」と言う。

「CGとのお芝居がほとんどで、それでホントにいいのかが現場ではわからなかった。星人との戦いのシーンが持っている殺戮の緊張感が、黒い球の部屋に戻ったときにきちんとつながっているのかどうか…現場では想像で判断するしかなかったですから。まあ観てみて“おー、こんなふうになるのか”という納得はしましたけどね」

そこは糧になった…。

「CGとお芝居をするのは、これからたくさん出てきます。求められるジャンルになってくると思うので、それができてうれしかったですね。

あと、共演者が初めての方ばっかりだったんで、単純に面白かった」

CGとの演技を知っておくことは、いわば今後のための経験。「加藤と弟の関係を演じたい」という表現の欲求とは違うものだ。それも作品選びに関わるのだろうか。

「もちろんありますね。“これ自分に足りないな、やったことないな”ってことにはすごく惹かれる…あ、糧になるって言うのとはちょっと違うかな。“やりたい!”っていうのが正確ですね。だからそれって表現やキャラクターに関しても同じですよ。“わかる、やったことある感じ”じゃなくて“なんでこうなるんだろ、なんでこの人こんなことするんだろ”って役は、考えれば考えるほど、面白くなってくるので、やっぱり惹かれますよね」

もちろん、“考えすぎない”というオプションはつけるけれど。

松山ケンイチは高校生のとき母上の送った書類がきっかけでオーディションに合格。青森県から上京してきた。オーディションの賞金はすべて洋服とコンビニの牛丼に消えた。当時は何も考えていなかった。だってべつに俳優になるつもりなどなかったのだ。

いまの、この“プロさ”たるや…。

「どうしたらいいか探ってますよ。わかんないです。僕、性格があまのじゃくだし頑固なんで、言われたことを素直に聞かないんですよ。言われたら“ホントにそれでいいのかな”っていっつも考えるんです。それは子どものころからハイハイ言ってた反動だと思う。それと…」

東京でこの仕事を始めて、いつもみたいに素直に返事してその通りにやったら「見事に失敗して、すごくいやな気持ちになったんです。流されるまま仕事して、“あれ? 自分のやりたいことってこういうことだっけか?”って思って」。

そのとき、それまでどうでもよかった仕事を自分のものとして認知し始めたのだろう、と言う。

30歳になりたい、らしい。

「僕は今25歳で、それはすごく中途半端な時期だと思うんです。いろいろ言われながら徐々に見つけていく段階。まだ少し自信はなくて迷いはある。自信を持って仕事して自己表現ができる…30歳ならばそれができてる気がする。大人の段階。今僕がいるのは“そこまで行かなきゃいけない”とわかって、出発する時期なんでしょうね。だから苦しいんです。早くそれができる大人になりたいんです」

30歳になったとき、そうなっている自信はあるという。

「少しずつ視野が広がっているのが自分でもわかるんですよ。この1年、たくさん仕事をしていろんな人とコミュニケーションをとりました。自分が知らないことって、外からしかもらえませんよね? それをたくさんもらった。忙しくて、自分で歩いているというより背中を押されてる感じはしていました。まあでも、こういう重なる時期もあってよかったんじゃないかな。ずーっとこれだったらイヤだけど(笑)

1985年3月5日、青森県生まれ。高校1年生のときホリプロとパルコ雑誌『BOON』が開催した「ニュースタイルオーディション」で、1万6000人あまりの中から合格。デビューはドラマ『ごくせん』(02年)、映画が『アカルイミライ』(03年)。『デスノート』シリーズ、『デトロイト・メタル・シティ』『カムイ外伝』『ウルトラミラクルラブストーリー』などに出演。10年には村上春樹の大ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』に主演。今年、初夏に『マイ・バック・ページ』、夏に『うさぎドロップ』、秋に『僕達急行 A列車で行こう』が待機している。そして12年の大河ドラマ「平清盛」の主演も決定。『GANTZ』は公開中にパート1に続き、オリジナル展開で完結するパート2が4月23日公開予定。gantz-movie.com/

武田篤典(steam)=文
text ATSUNORI TAKEDA
稲田 平=写真
photography PEY INADA
牛田 元(VACANS)=スタイリング
styling GEN USHIDA
キクチタダシ(LUCK HAIR)=ヘア&メイク
hair & make-up TADASHI KIKUCHI

関連キーワード

注目記事ピックアップ

 

編集部ピックアップPR

ブレイクフォト