「月に3日、地方の市民会館なんかで」

志村けん

2011.05.19 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 text ATSUNORI TAKEDA 稲田 平=写真 photography PEY INADA
コントに、人情喜劇に
チラリと見える“芸”とは

『志村魂』というのが、志村けんの舞台のタイトルだ。56歳のときからスタートして、今年で6回目を迎える。本当は、50歳を過ぎたら舞台をやろうと考えていたらしい。だが、環境がうまく整わなかったのだ。

「舞台って、3時間なら3時間ひとつのお話でやらなきゃいけないって言われてて。それはちょっと面白くないなと。自分でやるなら…バカ殿やって、コントでいろんなキャラクター見せて、もう少し何かやりたいよなあって」

それで6年ほど遅れた。

が、その分やりたいことはカッチリ固まっていた。今の舞台はまさに構想通り。冒頭、バカ殿で笑いを取り、短いコントを連ねて客席を再起不能にしたら、休憩をはさんで2部は三味線、そして松竹新喜劇。

吉本新喜劇が、出演する芸人さんたちのギャグをうまく盛り込むためにストーリーがあるのに対し、松竹新喜劇はホロリと泣かせつつ笑わせる人情喜劇。藤山寛美という喜劇俳優が一世を風靡したが、その死後は娘の藤山直美が不定期に演じるのみ。

「こういういいものを誰も継いでないのはもったいないなと思っていたんです。藤山直美さんがされますけど、女性ですから演目が限られる。せめて僕が―まったく力は足りませんが―残していけたらなと思って」

第1回から舞台のクライマックスに取り上げている。

今年は去年の再演である『初午の日に』。以前は大商店の主だったが今は破産してつましく暮らす平野の元に、かつての部下・井上(志村けん)が訪ねてくる。分厚い札束を懐から出し、気前よくおごってくれるのだが、実はこの金には裏があり…という話。非常に地味。2011年のエンターテインメントといえばVFXで3Dである。だがこちとら、茶の間でおじいさんふたりが語り合うだけ。あまりにも地味である。

でも客席はシンとしてふたりのおじいさんを観る。前半のバカ殿で傍若無人に舞台にツッコンでいた小学生の声もしない。こんな地味な話を子どもたちも一所懸命観ているらしい。

「バカ殿とコントの後だから、“このオジサンなら何か面白いことやってくれそう”って思うんじゃないかな。でも芝居が終わったとき、感動して泣いてる小学生もいて、あれはうれしかったな」

普段からよく「特定の層だけを意識した笑いは好きじゃない」と志村けんは言う。R25世代男子は、舞台というジャンルには基本うといことになっているが、これだけは別。子どももおじいちゃんおばあちゃんも笑う。でもわれわれもフツーに笑わせられる。

それが、志村けんの芸だ。

松竹新喜劇のさなか、志村は向きあった平野役の坂本あきらに何事かささやく。台本にないセリフなのか、絶句してしまう平野を「何か言ってくださいよー」と追い詰め、「もう、平野さんアドリブ苦手なんだからー」。

でも純然たるアドリブではない。「毎回やってるアドリブです。“困ったらこんな芝居を”とか、“後ろ向いて吹いちゃった風で”って、稽古で作っていくんです。お客さんは“あ、間違った。忘れてるじゃん”って思いますよね。生ならではの楽しみというか。お芝居をきちんとするところも芸だけど、間違ったと思わせることを毎回できるのも芸。“あれはルーティーンでやってるな”って思われちゃダメなんです。何度も観に来た人はわかっちゃうけど」

アドリブを入れる箇所は台本をベースにしながら、見つける。

「稽古もそうだし、舞台でお客さんの反応観ながら入れていきます。これ言うとどうかな? って言ってウケたら、次も次もと入れて、どんどん固まってくる」

そもそも志村けん、
舞台の人だったのだ

『志村魂』初回と、5回目の公演の模様をDVDで見比べると、カッチリ決まっている全体の構成はもちろんだが、細かいギャグまで変わっていない部分もある。

「毎年観に来てくれる人がいるから、変えたり足したりする要素もあるけど、ひとみばあさんなんかでいうと、今やってるマッサージのネタはもう4年同じ。漫才とか落語でも、同じ話で笑っちゃうことあるでしょ。オチがわかっていながらやっぱり観て笑うのは“ウマイ”っていうことなんだと思うんですよ。違うコントをやった方がたぶんウケやすいかもしれないけど、同じコントやってると、年々新たな面白さに気づいていったりするんですよね」

〝手を替え品を替え〟ではなく、グッと深い面白みのところへと掘り進んでいくのだ。

「面白いもんで、ちょっとでもタイミングとか間が違うとウケなかったりするんだよね。それは見事に(笑)。だからすごく神経を使うんです。リラックスをしながら、遊んでるように見えながら、ものすごく微妙なタイミングでやってますからねー」

その年の公演の間にはもちろん、何年にもわたって同じことをやりながら熟成させていく。

「僕の場合、TVだとせいぜいドライを1回(=カメラなしでのリハーサル)ですぐ本番やっちゃいますからね。それを舞台では何度もできる。それがTVと舞台の一番大きな違いですね。その日が終わればみんなでメシ食いに行って、必ず“あそここうしようぜ”って仕事の話をする…あ、みんなで行く日はせいぜい1~2回か。全員連れていくとお金が大変ですから(笑)」

具体的な変更点を話すのはもちろん、キャスト間の親睦を深めるためでもある。この舞台にはシルク・ドゥ・ソレイユ風のパフォーマーが登場するが、それも志村けん自ら舞台を観に行き、スカウトしてきたという。この仕事に限らず、あらゆる日常での体験は“あの番組に使えるんじゃないか”“こういう笑わせ方面白いよな”につながっていくのだ。

以前の弊誌インタビューでは仕事の裏側を話すことに少しためらいを見せた。同じことを尋ねると、「んー、全然大丈夫だよ」と軽く答える。笑いに関しては求道者であることは間違いない。でも、それが見えたって、気にさせないぐらい本番が面白ければいい。今回はそんな突き抜けた姿勢が窺えた。

お笑い芸人の手法はずいぶん変わった。フリートークやレスポンスの仕方で笑いを取る局面が多くなった。印象を尋ねると「同じ仲間だけど、僕にはできないやり方」と言う。そして「僕は芸人さんではないですから」と続けた。

「周りはおなじくくりで言うけど、僕は自分のことを喜劇人だと思っています。舞台でお芝居をやって、泣かせて笑わせる。スタートが『(8時だョ!)全員集合』ですし。あれも舞台で、お話を作ってきっちり練習して作って狙って笑わせてきたものです。今のバラエティのように瞬発力で勝負する形ではなかったですからね」

そうか。TVでの活躍を観ているから“志村けんの舞台”が新鮮に思えるのだが、よくよく考えてみると“全員集合”で10年以上にわたって、毎週舞台での生番組を作ってきているのだ。

「だから僕のギャグはいわゆるギャグじゃないんですよね。アイーンにしても変なおじさんにしても、コントの起承転結の中で出てきたセリフや動き。それが子どもたちの心に残って、ギャグとしてマネされたんですよ。そこんところも、今よく言われるはやり言葉としてのギャグとはスタートが違います」

そして、これからも舞台は続けていきたいと言う。

「この3時間バージョンだと、やる期間とか会場が限られるので、なかなか観られる人が少ないんですよね。だから今後は、たとえばバカ殿とコントと三味線のライブのセットでいいから、あちこちでやりたいですね。月に3日とか、地方の市民会館なんかに行って。定年というものがないんでね、これからも求められる限りは続けていきたいとは思ってます」

喜劇人としての矜持を改めてはっきりさせた舞台。『志村魂』とはまったく正しいタイトルだ。

1950年2月20日、東京都生まれ。74年にザ・ドリフターズの正式メンバーとして加入。『8時だョ!全員集合』で東村山音頭や加藤茶とのひげダンスなどが大人気を得る。演じる主要キャラクターに「バカ殿様」「変なおじさん」「ひとみばあさん」などなど。現在の出演番組は、『志村軒』(フジテレビ)、『天才!志村どうぶつ園』(日本テレビ)など。上記すべてのキャラクターが見られる『志村魂』のチケットは全席指定8500円。問:東京音協03-5774-3030

武田篤典(steam)=文
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