「あえて言うなら“エーッ、ここで俺!?”」

生瀬勝久

2011.11.02 WED

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真 中谷東一=スタイリング 光野ひとみ(クローラ)=…
30年越しの願いが叶う。
竹中直人と初共演!

「いい小説とか面白い戯曲を書く人って、難しくないんですよ。井上ひさしさんもおっしゃってましたが、難しい言葉はいくらでも書けるんです。易しい言葉で面白いものを書くのに非常に技術が要るんですね。そういう意味でも、今回のクラモチくんはすごいなと」

“今回の”とは舞台『ヴィラ・グランデ 青山 ~返り討ちの日曜日~』。クラモチくんとは、劇作家で演出家の倉持 裕だ。台本は驚くほど自然なセリフの応酬。普通のおじさん2人が話しているとしか思えない状況から幕を開ける。バブル期に建てられたマンションの中庭で、カメラマン役の生瀬勝久は、腐れ縁の広告デザイナーに「娘の元カレに殺されかけた」と打ち明けられる。

話している内容や状況は異常だけれど、使われている言葉は普通。つまり“難しくない”のだ。一見、誰にでも書けそうなたたずまい。だが…。

「倉持くんは日常の平々凡々としたところを切り取って、はっきりしたできごとを作らず、遠くに置いて描く。うまいんですよね」

2人のおじさんは状況を説明するようなセリフを言わない。“キミの大学生になった娘のさ”“ああ蓮のことかい?”だとか。そんなことは2人とも知ってる。

説明させず、日常的な会話を積み重ねて少々異常な状況をひもといてゆく。あまつさえ笑わせる。

で、この2人のおじさんとは生瀬勝久と…竹中直人なのである。日本の誇る強烈な俳優2人が初めて組み、フツーでリアルでおかしな会話を応酬する舞台…観たいでしょ? いや、観たくなくても観るべきなのだ。そのココロは最後に生瀬さんが語ってくれる。

今回の共演は生瀬勝久の誘いで実現した。竹中が監督した映画『山形スクリーム』に生瀬が出演したとき「二人芝居をしていただけませんか」と声をかけたという。

「そしたら“いいよ”と。こうしてお願いするとたいていの人は“ウン”って言ってくれるんですよ。リップサービスで(笑)。僕はそのときの返事の仕方を見る。本気なのかリップサービスなのか。で、竹中さんの“ウン”は、まんざらイヤでもない感じがしたんです。それだけで僕はよかった。でもそのあと、事務所を通じて“舞台の話が来てるんですけど”って問い合わせが来て。ホントに竹中さん覚えててくれたんだと」

告白から3年越しで、ようやく実現に漕ぎ着けた。ただ竹中直人との共演は、3年どころか、30年近く前からの切望だったらしい。

「この世界に入ってすぐお会いできると思っていたら、初めて共演したのは、結局十何年後ですよ」

芝居を始めたのは大学時代。劇団に入り、就職の内定もあったのに、大卒後そのまま演劇界に。舞台に立ちつつ、20代後半から30代前半にかけて関西の深夜番組で毎週コントを演じる数年間を過ごした。4歳年長の竹中直人も劇団に所属しつつ、コメディアンもやりつつ、シティボーイズ、いとうせいこう、宮沢章夫らと演劇ユニット「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」で活動していた。

「まさかまさか、ですよ。学生時代から憧れていた竹中さんとお芝居ができるのは、ホントに光栄で。でも今回“竹中ワールド”に入るつもりはありません。竹中さんには演芸的なものがあり、モノマネがあり、ヘンなキャラクターがあり、大河ドラマの主役があり、映画監督もある。岩松了さんと組んだ『竹中直人の会』『竹中直人の匙かげん』というプロデュース公演もあります。でも僕みたいな俳優とがっぷり組むことはなかったと思うんです。僕は絶対に癒着しません。でも協力します。“一緒に舞台を作りましょ!”ってことなんですね。僕と組むことで竹中さんの新しい演技体系を見せていただきたいと…自分で言うのもなんですが(笑)」

目標も野望もない。
思いがけないことを!

思いの丈を聞くと、意気込みも相当なものだと思うだろう。が…。

「あまりなんとも思ってないんです。初日はとにかく緊張しますけどね。稽古場でずっといろんなことを試してきて、これでいきましょうというものができて、お客様にどう伝わるのか。そのリアクションが気になるんです。でも2日目以降は落ち着いちゃいます」

昔、千秋楽には少し感傷的になり「セリフの一言一言を弔うように語った」というが、変わった。

「初日から作り上げてきた芝居を、いつもと変わらないまま一番クオリティの高い状態でお見せしたいので、ものすごく丁寧にやるようになりましたね。お客さんが楽しむこと=自分の気持ちよさだと思っていて。初日が始まって毎日舞台があって、噂を聞きつけて来た人が“すごいね”“やったね”っていってくれる言葉。自分からは聞かないですけど、自分が信頼してる人からいい言葉をもらえると、至福ですね」

演じることで、つらいことなど何もないという。

「“変わった役でしたね”がものすごい誉め言葉で。“器用ですね”もすごくうれしくて。それでお金をいただけるなんて、こんなに幸せなことはないですよね」

そして、そうあるための秘訣の一つが「目標を立てないこと」。

「全然立てません(笑)。コツコツ努力をしません。目標を立てると、達成しなければならないし、野望は叶えなければならない。努力して自分を追い込む必要があるでしょ? 僕、そういうのに性格的に合ってないんですよ(笑)。こんな仕事がとか、こんな役がやりたいとかまったくないんです」

すべてが楽しい。来た役は基本すべてやる。受け身の楽しみ。

「これからどういう人が僕を使いたがってくれるかっていう楽しみ。来年主演で映画が一本あるんですけど、それはね“この台本で俺をキャスティングする!?”っていう、僕らしくない役で。ものすごくうれしかったです。家でドラマ観ながら“あの役オレがやったらなあ”ってよく思うんですけど、営業とか世間のイメージを考えると、その人で正解なんですよ。ときどき“ここでこの人ぉ!?”って思い切ったキャスティングもありますが、そうなりたいですね。“エーッ、ここで俺!?”って(笑)」

そして最後に、生瀬勝久プレゼンツ“舞台を観る理由”である。

「“人生が面白くない”って悩んでる子がいたんで、“ボウリング大会やったら?”って言ったんです。これ大変ですよ(笑)。場所押さえて人集めてレーン行き来して盛り上げて…いろんなことが起きます。そうやって何か企画を自分で背負って成功するなり失敗するなりせよと。どっちでも記憶には残るんですよ。ボウリングにこだわるわけじゃないけど、普通あんまり“よし、ボウリング大会だ!”なんて思いつかないでしょ? そこなんです(笑)。僕ね、10年ほど前に『世界ウルルン滞在記』でパラオに行ったんです。それまでパラオのことなんて考えたこともなかったのに。でも、行っていろんな経験をして、今でもパラオについては何時間かしゃべれます。僕がこの世界に入って、“ウルルン”にキャスティングされて行った結果、僕の人生にパラオがすごく入ったんです。だから僕は人に“ボウリング大会をやれ”って言うんですよ(笑)。何があるかわからないけどやってみると、やる前よりはすごいヤツになれる。そんなふうにして何かを始めるのってすごく特殊な経験だと思うんです。だから今、僕がここで“芝居を観てみよう”って言うのを聞いたら“なにくそ!”と思って一度芝居を観てはどうでしょう? チケットの買い方も電車の中でのできごとも新たな経験になります。家でネットに向き合ってる5時間のうち2時間を劇場に割いてみて。声を大にして言いたいのは“ぜひ、この芝居を観に来てください”と(笑)。カラダも動くし、女の子も引っかけられる25歳の男はともかく自分が絶対行かないと思っているようなところへ行ってみてください。で、“うわあイヤだなあ”って思ってください(笑)」

1960年兵庫県西宮市生まれ。同志社大学在学中より、劇団に参加。卒業後、俳優の道に。代表作に『ごくせん』シリーズ(日本テレビ)、『TRICK』シリーズ(テレビ朝日)など。ドラマや映画、舞台に多数出演。88年『週刊テレビ広辞苑』(よみうりテレビ)などで人気を集め、『サラリーマンNEO』(NHK)に至るまでコントにも積極的に取り組む。舞台『ヴィラ・グランデ青山 ~返り討ちの日曜日~』はシアター・クリエにて11月11日(金)~11月27日(日)公演。大阪は12月1日(木)~12月4日(日)、サンケイホールブリーゼで。名古屋は12月17日(土)~18日(日)、中日劇場で。静岡、長野、金沢、広島、福岡、長崎でも公演あり。詳細はオフィシャルHPへ。http://www.tohostage.com/takenama/
[問]東宝テレザーブ 03-3201-7777

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真
中谷東一=スタイリング
光野ひとみ(クローラ)=ヘア&メイク

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