「70億の人類が地球に生き残ること。」

伊勢谷友介

2012.02.02 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真 葛西信博(リバースプロジェクト)=スタイリング R…
映画を撮ることで、
伝えたいことがある

「初めて人生で自分の好きな作品ができたんですよ」

伊勢谷友介が映画を作った。タイトルは『セイジ ─陸の魚─』。劇場用デビュー作の『カクト』から9年ぶりの第2作にあたる。

伊勢谷は俳優として知られるが、もともと作る側の人物だ。東京藝術大学美術学部に在学中から長短編とりまぜて十数本の映画を完成させている。

「『カクト』にも、もちろんテーマと、それを訴えたい気持ちもあったんですが、どこかで“映画監督になりたい”という思いが先立っていました。でも『セイジ』は全然違うんです。観てもらうことを最初に考えました。観てくれた人がしっかりテーマを持ち帰ることができる作品にしなくちゃいけないと思っていたんです」

『カクト』は、そもそも伊勢谷が大学の仲間たちと結成したユニット名。「みんなが小さな変化に気づけば、それが集まってやがて文化も変わる」というテーマのもとに様々な表現活動を展開していた。で、映画もその一環。

実は『セイジ』にも似たような背景がある。今、伊勢谷は『リバースプロジェクト』という団体の代表を務めている。

「僕の心には『70億の人類が地球に生き残る』という“芯”があって、そのために今、いろいろな活動をしています。衣食住のプロジェクトに地方活性化のプロジェクト、マイクロパトロンプラットフォームのようなシステム…」

最後の“マイクロパトロン~”とは、様々なおもしろいアイデアを持つ人たちのために、個人から少額の寄付を募って、そのアイデアを実現させる仕組みだ。

「それらとは別に、映画というフィクションで我々が持つテーマを強く訴える形があるといいなと思っています。現実の様々なプロジェクトの中に、虚像(=映画)を同居させることで、より強いメッセージが伝えられるのではないかと思ったのが『セイジ』の始まりでした」

どんな映画なのか。

原作は辻内智貴の短編小説。舞台は20年前の山間の小さな村だ。森山未來演じる「僕」が大学最後の夏休みに自転車旅行で訪れ、ひょんなことからあるドライブインで働くことになる。店を仕切るのが西島秀俊演じる「セイジ」。寡黙なこの男は、「物事が見えすぎ、わかりすぎる」がゆえに、自分からは何事にもかかわろうとしない。どうせ何もできないから。

そして、村である凄惨な事件が起こる。そのとき、セイジはあまりに突拍子もない行動に出るのだった…。

この作品、意外にも“監督の仕事”として伊勢谷の元に持ち込まれたものである。最初に話が来たのは2005年。それから完成までに5年を費やしたことになる。制作上の問題もあったが、何より大きかったのは、セイジの現実に対するスタンスが伊勢谷にはどうにも納得いかなかった点。

「感じるアンテナとセンスがあるなら、きちんと何らかの形に変えて現実の世の中に返す…僕らがリバースプロジェクトでやっていることです。できることは何かしら絶対あるはずなんです」

だがあることを思いついた。

それは、まさしくこの作品のテーマにかかわる解決策だった。伊勢谷自身は詳細にその意味を語ってくれた。が、完全にネタバレだし、ことによっては普通に観る視点を阻害しかねないので、文末(※以降)に置きます。ともあれそうしたブレイクスルーを得て、映画は完成。「できないときには強引にやることはしません。流れが来たとき、ちゃんと待っていられるように、準備はしておこう、という。実は今も自分の中で抱えてる台本は何冊かあって、“出せるタイミングがあればいつでも”という感じです。逆に“今これを絶対やるんだ”って考えると、映画はすごく難しい媒体だと思います。映画監督だけでなく、俳優もリバースの代表もやって、その三位一体で見せる形を積み重ねていくことが大切だと思っています」

目標は、自分の目標。
その一歩が未来を変える

このインタビューの6日後、福島県で「飯舘村の卒業式」が行われた。福島第一原発の事故で避難することになり、卒業式ができなかった飯舘村の幼稚園と小学校の100人あまりの子どもたちと保護者が一堂に会し、改めて卒業・卒園証書を受け取った。

これはリバースプロジェクトが展開する「元気玉プロジェクト」の一環として資金を集めて行ったもの。

やりたいことは日々わき出してくると、伊勢谷は言う。

「不思議なもんですね。日々の社会に問題がなくなったら、僕らが活動する意味がなくなっちゃうんですけど、それはないでしょう。人間社会にはたぶん原則的に何かしら問題があるんですよ、だから『リバースプロジェクト』はそこに対してアクションできる株式会社だったりするんです」

それにしても、なぜ株式会社…。

「ほとんどの社会は今、資本主義ですよね。働くことの根本を考えると、最初は利他的だったんじゃないかと思います。“俺は魚を捕るのが得意だから魚を隣の人にやろう。その代わり、野菜をもらう”という。本来はみんながwin-winで、目的はお金じゃなかったはずなんです。でも今は金儲けです。そうじゃないところを見せたい。僕らは会社であることで、たとえば子どもたちに“あの会社はお金を儲けるためだけにやってるんじゃないんだ”と思ってもらうことができる」

苦しい。でも楽しい。

「遊びだって、準備して本気で取り組むとしんどいですよね? でも誰も文句は言わない。遊びには自分の目標があるから。仕事にも目標はあるけれど、それは自分の目標ではない。主体性があったら文句なんて言いませんよ」

それは俳優活動でも同様。以前はその作品を世に出してしかるべきか否かにこだわっていたが、今は「自分が役を楽しむ」というモチベーションも重要になった。

いろんな活動が精神を健全に保つ秘訣でもあるという。

「俳優の時は監督的な考え方は持ち込みません。たとえばどんな器を作るかを考えればいい。でも監督は他にどんな人の器を置くかとか、店のデザインから考えられる。リバースの(プロデューサーの)場合は、自分はどんなショップを作ろうか、というところから考えられるんです。俳優という、最も感情的な立ち位置からプロデューサーという最も理性的な立ち位置まで。それらを行き来することで、僕のそれぞれのストレスが相殺されていると思います」

伊勢谷は仕事のあり方を変えようとしている。いわく「リバースプロジェクトが全世界の仕事に主体性をもたらす存在になること。その見本になること」と。

「でも、この“してあげる”感じがエラそうなんですよね(笑)。結果としてそうなっていくような、何かウマイやり方はないかなあ」

答えは出ないまま、取材は終わるのだった。が、まあ今、伊勢谷友介のアクションの中で、もっとも身近にテーマを伝えられるのは『セイジ』かもしれない。

※以下は伊勢谷友介によるコメンタリー。完全なるネタバレだ。

「とてつもなくひどい目にあった女の子が20年後に、どんな人生を過ごしてきたかを尋ねられて“いい20年だったよ”と答えることができる。そのとき彼女は廃墟になったセイジの店を再建しようとしているんですが、今ここに立って何ができるかを考えて、今は誰も使っていない建物を再生し、みんなのコミュニティをもう1回作るということを実践しようとするんです。すごいネガティヴィティがあっても、大丈夫と言える達観です。僕の中では、この映画はセイジのことを描いているんですけど、答えはリツ子なんです。撮れなかった数年間は、その部分を理解するのに必要な時間でした。僕自身、少し大人にならなければわからなかった。だからそれは、すごくいい時間だったと思います」

1976年東京生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業後、東京藝術大学美術学部大学院修士課程修了。学生時代からモデル活動をスタート。プラダのミラノコレクションにも参加。97年『カクト』の活動を開始。翌年『ワンダフル・ライフ』で俳優として映画初出演を果たす。初監督作『カクト』の公開は02年。近作に『十三人の刺客』(10年)や『あしたのジョー』(11年)など。『リバースプロジェクト』での活動は08年よりスタート。オフィシャルサイトで多彩な活動の過程を見ることができる。www.rebirth-project.jp/

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真
葛西信博(リバースプロジェクト)=スタイリング
RYOTA=ヘア&メイク

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