長生き。

モト冬樹

2012.07.19 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真
芸能界を悠々と四十数年。
還暦記念の意外な映画

「いいものを作ったらそれで報われるとか、この世界はそういうのじゃないですからねえ…」

天気の話をするみたいにサラッと、そんな皮肉なことを言う。

最近、ブラウザのバナーに、ヅラを装着したダンディな姿でよく見かける。かつらメーカーのキャンペーンだ。撮影風景はワイドショーでも紹介されていた。ともに出ている奥様との“10年の交際期間を経て結婚”という情報も、2年ほど前、ワイドショーで見られた。そういえば松田聖子3度めの結婚に、友人としてコメントも。

“この世界”とは、芸能界のことだ。高校卒業後にバンドマンでデビューし、コミックバンド、モノマネ、俳優にテレビタレントとして40年以上のキャリアがある。

と、まあイメージ的には、間違いなく“ザ・芸能人”。だから、生誕60周年記念の主演映画のあり方がとても意外だったのだ。監督は今泉力哉。解散したバンド「たま」のメンバーのその後を追ったドキュメンタリーで一昨年商業デビューした、まさに新鋭だ。なんだか全然芸能界っぽくない人選。

「面白い監督がいると聞いて。インディーズで撮った短編を観ると、今時の若者の恋愛話なんだけど、これがドキュメンタリータッチの観たことのないような感覚でね。こんな人と俺が一緒にやったらどうなるんだろうなと」

そして完成したのが『こっぴどい猫』。これ、正直、傑作である。

モト冬樹が演じるのは作家の高田則文。数年前に妻を亡くして以来、小説を書いていない。ある日、行きつけのスナックの新人・小夜の恋の相談に乗る。既婚者とばかり付き合い、強引に来られると拒否できないという彼女の部屋で一晩過ごすも(“してもいいですよ”と意思表示されながらも)年長者として紳士的にふるまう高田。でもここから少しずつ彼女を好きになり始め、何年かぶりの新作に着手し始めるのだった。

初老の作家が若い女性に恋をして再生する…とかいうキレイな話ではない。高田の娘・夏子は夫の不倫を知り、離婚を考えていて、高田の息子・崇はできちゃった結婚間近の相手から突如結婚したくないと切りだされ、後輩の売れっ子作家・安藤は小夜と同じスナックの女と付き合いながらもママと何やら暗躍。ダメな恋愛をしている人々が次から次へと15人登場! 実は全部きちんとつながっていて、最後にある一“店”で収れんし、ドカンと爆発する。

モト冬樹以外は全員、世間的には無名な俳優たちで、なかには演技経験ゼロの素人さんもいて、“セリフ”というテンションではなく、フツーにしゃべってるし。

「監督、変なところを長く回したり独特の撮り方をするし、実際に現場で役者が動いたりしゃべったりして生まれる空気に応じて、セリフもバンバン変えていくし」

おおよそ“劇映画”を観ている感じではなくなってくるのだ。

「脚本はしょせん頭で考えてきたことだから、いろんな人物がそれぞれの思惑で動いたとき、“あ、こっちの方がしっくり来る”っていうものを採用するのが正解だと思う。普通のドラマだったら、脚本に書いてきたそのまんましかやらないし、俺のキャラクターにしても、だいたい決まってて、口うるさいハゲた上司とか、一瞬で把握できるようなのばっかりですもん(笑)。そういうドラマの作り方ってつまんない。この高田なんて、普通に…普通でしょ? ホントはこういうのが好きなんですけど、オファーが来ないんですよねえ」

楽しさを追求し続け、
いい仕事を維持するために

モト冬樹には『寝ない関係』という著書がある。バンドマンとして20代からモテ人生を送ってきた経験に基づいた独自の女性論。性的に魅力のある女性と、あえて一線を越え(ようとせ)ず、親友のように深く理解し合える関係を構築することを提唱している。

この映画の高田も、小夜に対しては終始紳士的で、一見“寝ない関係”を思わせるのだが…。

「男ってある程度遊ぶべきだと思う。とくに20代は。じゃないと、いい女と悪い女を知る基準ができないから。俺の場合、ある女性を目の前にしたら、怒った顔が想像できるし、付き合った場合の展開も見えるんです。そんななかで一番魅力的なのが、その範疇からはみ出す女。わかんない女! この小夜って子、超わかんないんですよ。高田も、俺よりは真面目だと思うけど、そこそこ遊んできて、でもこの小夜については判断しかねてるうちにハマっちゃった感じなんじゃないかな」

小夜を演じた小宮一葉の“演じてないファム・ファタルぶり”を褒め、この映画の“静かに沸き立つ人間関係のコワさと滑稽さ”を讃え、座が“いい作品ができてよかったね”というムードになりかけたとき、モト冬樹は言った。

「いいものを作ったらそれで報われるとか、この世界はそういうのじゃないですからねえ…くっだらねえのが流行っちゃうことの連続ですから。自分が納得いくものが評価されるというのが一番の理想なんだけど、この仕事してて。それはまずないんだよね…」

『こっぴどい猫』は、一観客として観ても大好きだという。だから、できればなんとかしたい。

「大ヒットはむずかしいけど。“あれ、こんなところに面白い映画があるぞ”みたいな感じで受け入れられないかな(笑)。たとえば韓国映画でも、韓流スター全盛の一方で、主役がイケメンじゃないおっさんの作品もいっぱいあるでしょ? それでいてすごく面白い。キャスティングってその役に合う人を選ぶものだし、ドラマ作りってそれを生かすものだと思っていて。今の一部の連ドラのナメたやり方――コイツとコイツを入れておきゃ、数字取れるだろう――みたいなのって、もう崩壊しつつあることをわかってもらって、この作品の面白さにも気づいてもらいたいね」

だけどモト冬樹、そういう世界を変えようとする革命家ではない。高校時代に興味を持ったギターをルーツに「趣味を全部仕事にしてしまった」から、求めるのはいつも「自分が楽しいかどうか」。それを基準に仕事を選び、それを満たせば幸せだった。

「なので、昔から未来のことなんて全然考えてこなかったね(笑)。ていうか、いくら先のこととかやりたいことを考えても、そういう仕事が来なければどうにもならないですからね。基本、若いころから“流れ”を見てそれに乗ってきただけかも(笑)」

グループサウンズからコミックバンドになったとき、モノマネを始めたとき、役者の仕事、事務所の移籍…結婚だって流れを見た結果らしい。ただ一度、80年代半ば以降のモノマネブームのときだけは、自分から流れをぶった切ったという。グッチ裕三らとともに活動していたビジーフォー・スペシャルを抜けたわけだが、これにしても理由は「つまらなかったから」。毎月20本以上の営業が3年間続き、その間、新ネタは下ろさなかったという。

40年も過ごしてきたから芸能界に幻想はない。楽しそうだと参加した仕事がつまらなく仕上がったり、全然評価されなかったりするケースはいやというほど味わってきた。そういうものだ、と知っている。そのうえで全力を尽くす。

「俺ね“ま、いっか”っていう言葉が好きなんです。これは、やりきったヤツが使う言葉です。やるだけやったんだから、自分は納得している。納得の行くものはできた。だから“ま、いっか”なんです。そうやって割り切るから次へいける。もちろん評価は最高の喜びですけどね、そこは自分ではどうしようもない部分だから。自分の楽しみはみんなとひとつのものを作りきるところまで、ですね」

夢を尋ねたら「長生き」と即答。「俺、まだセリフも覚えられるし声も枯れないから。アタマとポコチンは使えば使うほどいいって言うように…あ、俺が言ってるだけか(笑)。まあ使わないと機能はどんどんカットされちゃうから。使い続けていきたいですね」

そして、映画の小さなヒット。

「そしたらまた次の映画撮れるから。他の人が企画した映画でも、こんな役が来ると思うから。あと監督も他の役者たちも、みんなでステップアップしたいからね」

1951年、東京都江戸川区生まれ。暁星高校在学中にギターをはじめ、同じクラスのグッチ裕三と意気投合。兄のエド山口とバンド活動を始める。卒業後、ローズマリーというバンドでデビュー。バンドを変えて音楽活動を続け、78年にはグッチ裕三、ウガンダ・トラらとコミックバンド「ビジー・フォー」を結成。一時活動休止後、ビジーフォー・スペシャルとして『ものまね王座決定戦』(フジテレビ)などで、人気を博す。その後『THE夜もヒッパレ』(日本テレビ)などでも活躍。40代から俳優の仕事も増え、「口うるさいハゲた上司」を得意とする(本人談)。ミュージカルからストレートプレイまで、舞台俳優としても活躍中。生誕60周年記念映画『こっぴどい猫』は、08年に設立したモト冬樹の事務所「デューズ」が制作も務める。ヒットするか否かは、今後の映画制作とのかかわり合い方をも左右するのだ。オフィシャルウェブサイトはhttp://koppidoi

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真

関連キーワード

注目記事ピックアップ

 

編集部ピックアップPR

ブレイクフォト