スティルロックシンガー。

矢沢永吉

2012.08.02 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真 谷森正規=ヘア&メイク 松位初美=スタイリング
カッチリではなくパラッ。
直球ど真ん中第3弾

ブルージーにギターが鳴り、ドラムがソリッドに追いかける。ニューアルバム1曲目の「It’s up to you!」がスタジオに流れ始めた、まさにそのタイミングで矢沢永吉が姿を表した。軽く両手を広げ、リズムを刻むような足取りで。こちらを見すえ、唇の端を上げて─「矢沢です。ヨロシク」。

完璧。カッコよすぎる。登場を見計らって、誰かが曲を頭出しして再生ボタンを押したのだが、そんなの関係ない。演出だとしても、それを凌駕する「ヨロシク」。ライブのオープニングみたいだ。

ニューアルバムのタイトルは『Last Song』。

ロックバンド「キャロル」でデビューして今年で40年。それを記念するアルバムである。でもこの一作だけではない。少し前から矢沢永吉は、己の音楽人生を振り返るモードに入っているようだ。

2008年に自身のレーベル「GARURU RECORDS」を立ち上げ、作品の発表だけでなく販売も手がけている。今、驚いたことに、永ちゃん、インディーズのアーティストなのだ。そしてこのレーベルから、09年夏に『ROCK’N’ROLL』、10カ月後に『TWIST』をリリース。『Last Song』はいわばその第3弾なのだ。

近年のリリースデータを伝えたいのではない。最近、聴いていない人は知らないだろうが、この3作の矢沢永吉、ベタなまでにロックンロールなのである。「単純にカッコイイ」というのが本人にとっての最高のホメ言葉。矢沢自らは“直球ど真ん中”と称する。

「聴きやすかったでしょ? 理屈とかどうでもよくて、イイねえこのグルーヴ、みたいな(笑)。グングン来るなッ! って感じでしょ? それでいいんです! 音楽なんてそうだもん。作った人の理由付けより、聴いてストンと入ってきてカッコイーってなればいいじゃないですか」

技巧を凝らさず、聞いた人が単純にぐっと来るような曲作り、アルバム作り。『ROCK’N’ROLL』から始まったこの傾向は、今回さらに進んだという。

「とくに今回はあんまりカッチリ作らないようにしようと。昔の僕はこだわってこだわって真剣に仕上げてたんですよ。今は適当なところでほっとくんです。楽器を使わず口なりで曲作ったり、Gコード引っ掻き回してるうちにメロディが出てくるみたいな。だから聴いてると、一緒に口ずさみたくなるんじゃない?」

大ベテランが緻密に計算して作り上げたというよりは、一見、デビューしたての若者が衝動まかせに作ったかのような荒々しさ。なのだが…。

「決定的にキャリアが違うわけです。それで、僕はツボを刺せるんです。わかってて、ちょっといい加減さでポローンってやっちゃうところのカッコいいグルーヴ? 確信犯なんですよ。それを世界最高水準のミュージシャンたちがデモテープぱっと聴いて約束事だけ決めて、じゃあいこうかワン、トゥーでやっちゃう。多少ズレてるブレてる揺れてる。ツボをちゃんと心得てルーズな部分を出す。その結果…ストンと入っちゃうんです。いいね、何コレ!?理屈じゃないよね! って」

音楽の送り手としてはきわめて潔く、シンプルな姿勢だ。

「僕、これまで結構マジにやってきたんですよ。武道館の最多記録…117ですか。そういう記録的なことも取ってきたし。ロックか、よーし本場に行くぞ! ってさっさと海外行ってイギリスやアメリカの世界的なミュージシャンたちと現地でやって。彼ら、話にならないぐらいウマイ。そんな世界で最高の技術のミュージシャンとやってるのに何かが足らないってところにぶち当たって、それはなんだと試行錯誤して…」

ようやく“直球”の境地にたどりついた。そして3作目にして『Last Song』というタイトル。何が込められているのか。

40年を振り返り、
この先何年かを見る

「作品もいっぱい書いてきたし、その一個一個をこれまで以上に大事にして、噛みしめたいなっていう感じはありますよね。これからどんどんニューアルバムを制作して突き進むというのとも違うかなと。だから、このアルバムが最後になっても悔いのないようにはしたつもりです。ただ、音楽に“完成”なんてないよね。40年、相当いろんなことやってきたけど、まだ発見がいっぱいあるから。え、今ごろ俺、こんなリバーブの掛け方ひとつでなんか感じちゃってるわけ!? とかさ。ビートルズってこれを40年も前にやってたんだ、スゴイな! ってね」

62歳が10代みたいなキラキラした瞳で語る。

さて、音楽的にはこだわりを追求した結果“直球”へたどりついた。では人間としてはどう過ごして、どんな今に至ったのか。

「キャンキャン吠えてましたね。理由はふたつあって、まず“あそこに行きたい”という欲求の強さ。それと“行きたいけど行けるのか”という不安の裏返し。僕、怖がりだったんだよ」

あそこに行く、というのは、ちゃんとメシが食えるようになりたい。いいクルマに乗りたい。いい家に住みたい。ビッグになりたい、というようなこと。自分の腕一本でのし上がっていこうという人種は絶対そんなことを考えているはずだと言う。かつては「日本の文化かなんか知らないけど(笑)、口に出して言うヤツがいなかった」。今、多くのアスリートやミュージシャンがきちんと自身の価値に自覚的になったのは、自らの貢献だと自負する。一方で芸能界や大メジャーのプロダクションを悪し様に罵った。自分の身を守るための虚勢もあったし、世渡りの術を知らなかったこともあった。

「はっきり言って、アイツなんか潰れろと思ってたマスコミ関係者はいっぱいいましたよ。消えなかったのは何かがいい方に作用したんだろうね。時代も“矢沢を消さない方がいい”と思ったのかもしれないし」

実は消されそうになっていた。マスコミや興行界から干されかけていたことが後に判明し、そのピンチから彼を救ってくれた2人の人物のことも知る。

「僕が人生でお礼を言いたい人たちですね。だけどさ、今のこの世のなか、人の顔色うかがってしかしゃべれないヤツだらけだよね。何かあれば何人か並んでアタマ下げりゃチャラになると思ってるヤツ。大手企業でも東電でもそうでしょ? テレビ観てる方も“さーて、そろそろ全員立ち上がって頭下げるな”ってパチパチフラッシュ焚かれてるのを眺めてさ。それでチャラになるような世の中に誰がしたのよ。だったら、日本中みんな矢沢永吉みたいに、ことを荒立てるなら“大荒立て”すればいいんだよ」

かつてとりたかった“あそこ”は「サクセスの名の下にもう取った」とアッサリ言う。今ほしいのはモノではない。

「いつのころからこの国って、表ヅラとかきれいごとだけで行くようになったんだろう。だからもうちょっとマジでマジで真正面からやる。手こずるかもしれないけど、手こずってもいいからもう1回真正面で本音を言えるような社会に変えなきゃマズイんじゃないかと思います。自分が無名だったら、どんなこと言っても“オマエ誰?”でしょ。でも今の僕が言うことは聞いてもらえる。活字になるかもしれない。あと、ステージには、歌える限りは立ちたい。自分のためにステージに立ちたい。去年のライブが、近年のライブのなかではすごくよかったってみんな言うんです。キレは間違いなく30代の方がよかったはず。じゃあなんだろう。ギリギリ感?カツカツ感も含めたセクシーさ? それが愛おしかったのかもしれない。今年63になり、64になり、68になってもスティルロックシンガーとして歌えてたなら、僕の想いが伝わるような気がする。メッセージって、直接言葉で何かを言うことばかりではないからね」

そしてアルバムがほんとにラストなのかというと…

「僕のことだから、2~3年後に曲がたまったらまた作るでしょうね(笑)」

1949年、広島県生まれ。高校卒業後、横浜に上京。72年、ロックバンド「キャロル」を結成。革ジャンにリーゼントというロカビリースタイルで人気を博す。75年、解散とともに、ロサンゼルスレコーディングした「I LOVE YOU, OK」でソロデビュー。77年には日本のソロアーティストとして初めて武道館での公演を実現。糸井重里をライターに迎えた自伝『成りあがり』が大ヒット。80年代には、拠点を米国に移し、アメリカデビューも果たす。名実ともに、日本随一のロックアーティスト。今年は開業前の東京スカイツリーの天望デッキでライブを行った。他の誰もやらないことを真っ先にやるスピリッツは健在。www.eikichiyazawa.com/

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真
谷森正規=ヘア&メイク
松位初美=スタイリング

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